・バチカンと中国の”婚約前交際”は「一歩前進、一歩後退」の典型ー新司教叙階・中国政府が”教皇のウイグル言及”批判(Crux)

(2020.11.26 Crux Senior Correspondent Elise Ann Allen)

 ローマ発–バチカンと中国が司教の任命に関する暫定合意を延長してから一か月余り。ここ数日の出来事は、最近の2つのエピソードは、両者の関係を強化する試みが一筋縄では進まないことを示している。

 今週の23日、Thomas Chen Tianhao師が、山東省の青島教区の新しい司教として叙階され、バチカンと中国の暫定合意の条件に従って、延長後に叙階された最初の司教になった。

 その1日後、中国の外務省報道官は、教皇が近刊本で、世界中で迫害に苦しんでいる少数派を名指しして、中国の新疆ウイグル自治区のウイグル人イスラム教徒に言及していることに対して、これを批判する発言をした。

 この本は、12月1日に発行予定の「LetUsDream」で、伝記作家オーステン・イヴェレイが教皇との電話での対話をまとめたもの。この本の中で、教皇は、「罪と悲惨、排除と苦しみ、病気と孤独の場所」から世界を見る必要がある、と主張。具体的に、「ロヒンギア、可哀そうなウイグル人、ヤズィーディー(ISISが彼らにしたことは本当に残酷だった)、そして、エジプトとパキスタンでキリスト教徒が教会で祈っている最中に間に爆破で殺された人、迫害された人々のことをよく思います」と述べている。

 これに対して、中国外務省の報道官、趙立堅は24日の記者会見で、「この発言には、事実に基づく根拠がまったくない」と批判、中国国内の「すべての民族集団に属する人々は、生存、発展、および宗教の自由の完全な権利を享受している」と強調した。

 ただし、翌25日朝現在で見る限り、中国政府のこの教皇批判のニュースがすでに世界中に流れているにもかかわらず、中国外務省のウェブサイトに掲載されている報道官会見の記事からは、教皇批判に部分が省かれている。Cruxは、外務省の報道担当部署に対して、この件でコメントを求めたが、回答は得られなかった。

 暫定合意について、「外交関係樹立に向けた”頭金”」との見方では多くの専門家が一致しているが、合意そのものの評価については、中国の共産党政権との対話の観点から「歴史的な一歩」と賞賛する声がある一方、共産党によって迫害されているカトリック教徒や他のメンバーを「売り払う行為」であり、バチカンは中国政府・共産党による人権侵害や宗教の自由の侵害に目をつぶるもの、と批判の声が上がっている。

 このような批判は、バチカンと中国政府の2018年の暫定合意が先月22日に延長されて一か月余後になされた。この暫定合意の内容はいまだに公表されていないが、司教任命は、中国政府が推薦した候補者の中から教皇が選ぶことを中国側が認めている、と解釈されている。

 何人かの専門家は、暫定合意に、対話への開かれた扉を利用することのメリットを認めながら、その成果の見通しについては懐疑的だ。バチカンのマッテオ・ブルーニ報道官は24日の声明で、Chenの司教叙階について、「暫定合意の枠組みに従って指名され、叙階され​​た3番目の司教」であり、さらに新たな司教叙階の可能性について、「新たな司教任命について、さまざまなプロセスがが進行中」と述べた。

しかし、専門家の中には、以前に叙階された2人の司教は、暫定合意以前に選ばれていた、とし、「つまり、彼らは合意の条件に従って選ばれなかったため、取引の成功のリトマス試験にはなり得ない」と指摘する声がある。

そうであれば、Chenの司教叙階は、暫定合意のバチカンにとっての効果を評価する初めての事例となるわけだが、一部の中国カトリック教徒の間では、彼が、中国政府・共産党の管理・統制下にある中国天主愛国協会の青島支部代表を務め、2010年から同協会の常任委員会のメンバーを務める幹部であることから、公正性に疑念を持つ声が出ている。しかも、今回の叙階の一年前に司教に任命されていた。

 中国のカトリック教会では、これまで、司教が高齢などで死亡した場合、空席のまま放置される教区が増えていたが、今後新たな司教の任命が続けられれば、「中国のカトリック教徒を各教区の司教のもとに団結させたい」という教皇の希望に沿うことも考えられる。教皇に誓い、政府・共産党の統制下に入ることを拒んできた”地下教会”と政府・共産党に登録された”地上教会”の分離解消も期待できるかもしれない… だが、国内の宗教団体を含む人々への人権侵害と信教の自由の侵害は、依然として大きな懸念事項として続く可能性がある。

 教皇フランシスコはこれまで、カトリック教徒を含む宗教的少数派の扱いや、香港での民主活動家を厳しく取り締まる動きに対して、批判的な言動をすることを躊躇してきました。それゆえ、今回の新刊書での言及は注目に値する。多くの専門家は、これまで教皇が沈黙を続けてきたのは、暫定合意の存続を危うくすることを避けるためだった、だが、暫定合意が2年の延長期間に入った今、あらたな判断を示そうとしている、と見ているようだ。

 今回の一連の出来事は、進歩のようにも見えるが、それでも解決すべきしわがあり、少なくとも近い将来、バチカンと中国の間には、一歩前進、一歩後退の関係が続くはずだ。

 

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2020年11月26日