・チベット自治区の人々への弾圧が北京冬季五輪を前に繰り返されている(BW)

Tibetan monks arrested in 2008, the year of Beijing’s Summer Olympics. Credits. 2008年、北京五輪の年に、チベット仏教の僧たちがの逮捕が相次いだ(写真左)

新型コロナ・ウイルスの変種株、オミクロンが世界中で猛威を振るう中で、中国は、冬季五輪を開催することで経済大国としての世界に対する影響力を誇示しようとしている。それだけではない、新疆ウイグル自治区やチベット自治区などでのイスラム教徒や仏教徒などの少数民族に対する宗教的、文化的”大量虐殺”を覆い隠するツールに、五輪大会は使われているのだ。

 中国のチベット自治区などに住むチベット仏教徒に対する中国当局の弾圧は、2008年の北京五輪当時に比べ、さらに悪化している。2009年以降これまでに155件以上の焼身自殺が報告され、「国家の安全保障」「分離主義活動の防止」「国民の統一」などの美名のもとに、中国当局は、権威主義的支配を通じてチベット仏教徒を逮捕、投獄し、拷問しいる。

*中国当局によるチベット仏教破壊は前例のない規模に

 チベット仏教徒に対する中国共産党の弾圧は、何年にもわたって深まってきたが、文化大革命当時のような激しい攻撃が昨年来さらに強まっている。

 四川省のカンゼ・チベット族自治州北東部に位置するセルタル県のチベット仏教徒のコミュニティでは、昨年5月、県当局によって出家者の教化を目的とした政治教育が実施され、僧院の僧侶たちは「偉大な祖国・中国、中国文化、中国共産党、そして中国の特徴を備えた社会主義」を受け入れることを強制された。

 昨年7月には、多数の警官を動員して、僧侶と尼僧の僧院からの強制退去と僧院の強制閉鎖を強行したが、そうした動きはチベット仏教徒が住む国内の地敷く全体に広がっている。10月、青海省チベット自治区のツォンゴン県(あるジャギョン僧院とディツァ僧院からの多くの僧侶が退去、追放された。

 昨年11月の報告によると、青海省チベット自治区のツォルホ県の中国共産党幹部が、「行動規範」の下で、仏教徒が自宅に置いて信仰を実践することも含めて宗教活動を行うことを禁止。

 さらに、12月には、四川省のチベット仏教徒が住むカム・ドラクゴ地域で、約50年前の大地震で亡くなった数千人の供養のために地元住民の多額の寄付で作られた約30メートルの高さの仏像が、当局によって解体され、僧院の周囲に建てられた45本のマニ車も撤去され、タルチョ(祈りの旗)は焼却された。今週初めには、ドラクゴの僧院にある10メートルの高さの弥勒菩薩像が破壊された。仏像の破壊は中国全域に広がっている。

*チベット語は絶滅の危機に瀕している

 チベットの人々への中国当局の弾圧は仏教だけではない。チベット語の絶滅を図る動きも昨年からエスカレートし、”文化的大量虐殺”の目的が露骨だ。

 具体的には、チベット自治区全域で始められた、公示や通知、横断幕などにおける中国語使用の強制。昨年7月には、すべての保育所のチベット人幼児に中国語の標準語を学ぶことを強制する法令が施行された。中国語標準語は、偽の「バイリンガルシステム」の下で、チベット自治区のすべての学校でチベット語に取って代わられた。チベット人の子供たちは、母国語を維持するために学外でチベット語を学ぶために別途、授業料を払うのを余儀なくされている。さらにます。 2021年10月、チベット高原のアムド地域を管轄する当局は、冬休み中に学外でチベット語を学ぶことも禁止した。

 これ以前も、 2020年に甘孜県のザチュカ地域でチベット語のクラスをもつ私立のチベット語学校は閉鎖され、生徒たちは公営校への入学を強要された。同様に昨年7月、アムド地域のゴログにあるSengdruk Taktse MiddleSchoolという私立学校が強制的に閉鎖された。

 別の報告では、昨年8月、甘孜県の甘孜県立学校は、中国人を言語教員として受け入れない場合、強制閉鎖する、と警告を受けた。10月にはカム・ドラクゴ地域のチベット仏教とチベット文化の学習拠点となっていた仏教学校Gaden NangtenSchoolの閉鎖が命じられた。

*「強制労働プログラム」で、昨年だけで70万人のチベット人が”政治的教化”を受けた

 2020年以降、中国政府はチベット自治区全域にわたって、大規模な強制労働プログラムを開始、チベット人は強制的に思想変革、監視、政治的再教育、軍事的訓練を受け、拒否すれば”懲罰的処罰”を受けるようになっている。

 昨年2月、中国当局は、70万人のチベット自治区のの農民と遊牧民を強制労働プログラムの対象とする「職業技能訓練」の計画を発表した。 前年の前半までにすでに50万人以上のチベット人が強制的な軍事訓練を受けている。「強制労働プログラム」は、チベットの文化とアイデンティティを、中国文化に同化する中国の政策の一環として行われるものだ。

*チベット人のアイデンティティを抹消する中国のキャンペーンは、国営の学校全体に広がっている

 Tibet Action Institute が昨年12月に出した報告によると、約80万人のチベット人の学生、生徒が家族から強制的に引き離され、国営の寄宿学校に入学させられた。これは、チベットの人々の文化と言語を一掃することを目的とする当局の活動の一環だ。中央集権化された寄宿学校の広大なネットワークは、チベットの子供たちを操作し、教化するために、当局によってて効果的に使われている。学校では、チベット人の学生、生徒が集中的に政治的教化を受け、中国語を勉強せざるを得ず、宗教や文化を実践することを禁じられている。

*中国当局の広範な弾圧に続く、もう1つの歴史的なチベットの反乱

 2008年の北京五輪と冬季五輪を控えたチベット自治区の状況は、非常によく似ている。 2008年のチベット自治区での歴史的な民族蜂起は、2007年の初めに中国当局が、あらゆるやり方でチベット仏教とチベット文化への弾圧を強化したのが引き金になった。

 2008年の大規模な蜂起の間、中国政府は平和的なチベット人の抗議者たちを残忍なやり方で激しく弾圧し、少なくとも227人のチベット人を殺害、6810人以上を逮捕、拘留して鎮圧した。

 2008年の北京五輪と当時のチベット人弾圧、そしてチベット人の人権の蹂躙、”文化的虐殺”がもたらした、彼らの蜂起の試みは、間もなく始まる北京冬季五輪を機にしたチベット人の再蜂起の可能性を示唆している。

 チベット人作家のツェーリン・トプギャル氏は、チベット自治区での2008年の蜂起の根本的な原因は、チベット人が抱いたアイデンティティ喪失への不安にあった、と考えており、次のように警告している。「厳しく継続的なチベット人への弾圧は、彼らの間に大きな恨みと不安を煽っている。チベット人が怒りを再び発散するのは、時間の問題のように思われる」。

 中国共産党が2008年以降、強硬政策を継続し、チベット文化とアイデンティティを抹殺するための「中国化」キャンペーンを強化したことは、チベット人の根底にある不満がはっきりと無視されてきたことを意味する。そして、中国政府とその政策に対する恨みはチベット全体に広がっている。

 チベットの古都で、チベット文化の中心地であるラサをはじめ、シガツェ、チャムド、ドラクゴ、ガバ、レブコンなどの都市では、北京冬季五輪を前に、中国軍部隊が大量動員され、住民に厳しい移動制限が課されるなど、治安対策が強化されている。中国当局がチベット自治区などでチベット仏教徒に対するさらなる取り締まりと弾圧を勧めれば、チベット人の蜂起と中国軍の武力弾圧で、チベット自治区の壊滅、荒廃が起こる可能性もある。

*結論

 関係途上国に対する”借金漬け外交”、”人口統計学的”侵略、南シナ海での覇権確立を含む「戦狼外交」による中国の国際的侵略。新型コロナウイルスの世界的感染再拡大がもたらしている危機の最中での、中国当局の無謀さは、途方もない荒​​廃を各地域に引き起こすだろう。北京冬季五輪と軌を一にして進むチベット自治区や新疆ウイグル自治区はじめ、他の”占領地域”での巨大な人道危機は、チベット仏教徒やイスラム教ウイグル人たちにとって不可逆的な荒廃を引き起こす懸念が強まっている。国際社会に、中国共産党の人道に対する罪に正面から向き合うことが求められている。

Tenzin Yountenは、インド・チェンナイのマドラス大学で国際関係修士号を取得。 国連事務局や欧州連合事務局などでインターンとして働いた後、インド・ダラムサラにあるチベットの亡命政権「中央チベット政権」のチベット人擁護部門とチベット政策研究所の下で人権デスクを務めている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」)

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2022年1月28日