・「中国における『信教の自由』は一段と悪化している」-米・信教の自由委員会2023報告・中国編

(2023.5.4  カトリック・あい)

 米議会の超党派で作る「国際信教の自由委員会」の2023年報告の、中国に関する主な内容は以下の通り。

【中国における「信教の自由の現状」】

 

*「中国化」の強制、”地下教会”への迫害、インターネットで”宗教コンテンツ‷禁止

 中国政府・共産党は引き続き、「宗教の中国化」政策を強力に進め、諸宗教団体に共産党 (CCP) による支配とイデオロギーを進んで受け入れるよう要求した。 中国共産党 の統一戦線工作部 (UFWD)、政府の国家宗教事務局 (SARA)、および国家管理する宗教組織を強制的な中国化政策の実施に不可欠なものとなっている。

 中国は仏教、カトリック、イスラム教、プロテスタント、道教を(政府・共産党による管理・統制を受け入れる条件で)公認しているが、ウイグル人やその他のイスラム教徒、チベット仏教徒、”地下”カトリック教徒、家庭教会のプロテスタントなど、政府・党の管理・統制に従わない組織は「外国とのつながりがある」と決めつけられ、迫害にさらされている。

 また、「インターネット宗教情報サービス管理規則」が 今年3 月に施行され、インターネット上の宗教コンテンツが禁止され、宗教団体の狭い活動範囲がさらに狭められている。中国政府と、新疆ウイグル自治区での人権侵害への加担で告発されたハイクビジョン杭州海康威视数字技术=浙江省杭州市に本社を置く、防犯カメラ及び録画機のメーカーで、中国電子技科集団の子会社が所有する企業)は、米国・商務省の問題企業リストに掲載されているが、元米国当局者と元米議会議員を雇い、米議会でロビー活動を行い、信教の自由とそれに関連する中国の人権を侵す片棒を担がせている。

*新疆ウイグル自治区の少数民族イスラム教徒、チベット仏教徒を”再教育センター”や刑務所に

 

 中国当局はイスラム教の抑圧的な「中国化」と、新疆ウイグル自治区での強制的な同化政策を継続し、ウイグル人や他のテュルク系イスラム教徒の明確な民族宗教的アイデンティティを根絶しようと試みている。

 5 月には、新疆ウイグル自治区の 2 つの郡から流出した公安の内部資料に基づく報告書で、ウイグル人を拘留する強制収容所の存在と残虐性が確認された。この報告書は、中国共産党の指導者である習近平を含む党高官と政府高官がその責任を負っている、と述べた。

 新たな報告は、当局のウイグル人の扱いが「収容所に拘留」から「刑務所に送致」に変えられた、と指摘。 強制労働、政治的洗脳、大量監視、ウイグル人の家庭に当局の職員を常駐させる”ホームステイ・プログラム”、異教徒間の強制結婚も続いている。

 チベット仏教に対する中国政府・党による統制と弾圧が激化している。 当局は、チベット人による宗教施設の利用を制限し、宗教的集会を禁止し、宗教的意味のある施設やシンボルを破壊し、”再教育センターでの学習”を含め、チベット人の僧侶や尼僧を政治的に“教化”する対象としている。

 伝えられるところによれば、中国政府・党当局はリンチェン・ツルトリムとシェラブ・ギャツォを含む健康状態の悪いチベット人僧侶を刑務所で拷問し、別のチベット人をダライ・ラマを称える宗教活動またはダライ・ラマの肖像画を所持していたとして逮捕・拘留した。 中国政府・党は「ダライ・ラマの後継者を任命する最終的な権限を持っている」と主張し、ダライ・ラマの転生に干渉する意図を繰り返し表明している。

 2022 年には、チベットにおける中国政府・党の政策に抗議して、少なくとも 3 人のチベット人が焼身自殺を図った。 さらに、当局はチベットで「大量の DNA 収集を実施した」と報告されており、チベットでの監視と管理を強化する可能性が高い。

*カトリック、プロテスタント、そして、法輪功や全能神教会も…

 

 カトリック教会に関しては、司教の任命に関するバチカンと中国の暫定合意が昨年 10 月に更新されたにもかかわらず、中国政府・党が教皇の同意なしに司教を任命し、バチカンが抗議している。 中国全土で、当局は、政府・党が管理・統制する「中国天主愛国協会」への参加を拒否した司教や司祭を拘束したり、強制的に所在不明にした。

 プロテスタント教会でも、中国政府・党の統制に入ることを拒む「家庭教会」の信徒への迫害が激化した。政府・党の管理・統制下にある「三自愛国運動」への参加を拒む信徒への脅迫、拘束、身体的虐待、さらに有罪判決を下すなど、「家庭教会」の全国的な締め付けがされている。特定の教会の牧師、長老などが標的にされている。都市部だけでなく、 雲南省のリス族やヌ族、新疆ウイグル自治区のキルギス人など、少数民族の信徒たちに対する厳しい迫害も報告されている。

 中国政府は、中国刑法第 300 条に基づく「反カルト」条項を頻繁に使用して、法輪功と全能神教会 (CAG) の信徒に対する迫害を続けた。 法輪功の情報筋によると、法輪功の信徒は、2022 年だけで7331 件の脅迫・逮捕、633 件の懲役刑判決、迫害で 172人の死亡が記録されている。 CAG メンバーの拘留、投獄、拷問も起きており、何人かが虐待で死亡したと報告されている。

 

【米国政府に対する勧告】

■ 国際宗教自由法 (IRFA) の規定に基づき、中国を「信教の自由に対する組織的、継続的、かつ悪質な違反に関与している」と判断、中国を「特に懸念される国」または CPCに再指定すること。

■ 米国の中国に対する外交政策の重要な戦略的目標として「信教の自由」を高く掲げ、またすべての二国間対話および関与において信教の自由に関する懸念を提起すること。

■ 特に中国共産党 の統一戦線工作部 (UFWD)、政府の国家宗教事務局 (SARA)および公安、国家安全保障機構において、信教の自由の重大な侵害に責任を負う官僚および団体を対象とする制裁を引き続きじっしすること。

■ 国連人権理事会 (UNHRC) を含む国際フォーラムで志を同じくする国と協力し、新疆ウイグル自治区で起きているジェノサイドと人道に対する罪の加害者を特定するとともに、中国全土におけるその他の深刻な人権侵害を調査する国連調査委員会を創設するなどして、信教の自由の重大な侵害について、中国政府に説明責任を負わせるようにすること。

【米国議会に対して】

■ 米国における中国共産党の悪意ある影響、特に信教の自由と関連する人権を損なう中国共産党のロビー活動に対抗する立法を支持すること。

 

 

【背景説明】

 中国は”無神論国家”だが、 総人口約 14 億人のうち 18% がチベット仏教徒を含む仏教徒、 5 %がキリスト教徒、2%がイスラム教徒。 その他の伝統宗教には、道教、法輪功、および民俗宗教がある。

 中国共産党は長い間、信教の自由を抑圧してきており、近年、宗教に対してますます敵対的になり、イスラム教、チベット仏教、キリスト教を「中国化」し、「外国の影響」とされるものを排除する政策を実施している。 これらの政策は、宗教団体が CCP を支持することを要求しており、これには、CCP のイデオロギーと政策に適合するよう、その宗教の教えを改めることも含まれる。 中国共産党に忠誠を誓う登録宗教団体と誓うことを拒む未登録宗教団体の両方が、脅迫、拘留、逮捕、投獄、およびその他の虐待に直面している。

 国連人権理事会(UNHRC )が昨年8月に出した「現代の形態の奴隷制度に関する特別報告」は、新疆ウイグル自治区におけるウイグル人およびその他の少数民族の強制労働は「人道に対する罪としての奴隷化に相当する可能性がある」と結論付けている。同じ月に、当時のミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官は、新疆ウイグル自治区でのウイグル人やその他の主にイスラム教徒のグループの恣意的かつ差別的な拘留を含む人権侵害が「国際犯罪、特に人道に対する犯罪を構成する可能性がある」と言明。

 昨年10 月、UNHRC は、新疆ウイグル自治区のウイグル人や他のイスラム教徒に対する中国の人権侵害について討論を行うよう西側加盟国などが提案した動議を却下した。 動議に反対票を投じた国には、カタール、インドネシア、アラブ首長国連邦、パキスタンなど、イスラム教徒が多数を占める国が含まれていた。

 欧州議会は昨年6月、「大量追放、政治的教化、家族の離別、信教の自由の制限、文化的破壊、および監視の広範な使用」を含む、中国によるウイグル人への弾圧を非難する決議を採択した。 決議はさらに「出生防止措置とウイグル人の子供たちの家族からの引き離しは、人道に対する罪であり、虐殺の深刻なリスクをもたらしている」と述べている。

 さらに 12 月の決議で、「ウイグル人に対する中国の人権侵害は人道に対する罪であり、ジェノサイドの深刻なリスクをもたらしている」ことを再度表明。 欧州連合 (EU) 加盟国に対し、「普遍的管轄権の原則に基づいて、人道に対する罪に責任があると見なされた中国の役人を起訴することを検討する」よう促し、「人道に反する中国の役人およびその犯罪に責任のある団体を対象とした追加の EU 制裁」を要求した。

 

【香港における信教の自由など】

 香港当局は昨年5月、カトリック香港教区の名誉司教である 90 歳の陳日君枢機卿を、中国香港特別行政区国家安全維持法(NSL)に規定する「外国勢力との共謀」の容疑で逮捕した。 保釈されたにもかかわらず、不安定な状況に置かれたままだった。

 民主主義活動家で信教の自由の擁護者でもある高名なカトリック教徒のジミー・ライ氏は、昨年8 月に NSL 違反で起訴されたが、無罪を主張、裁判所は 昨年12 月に予定していた公判を延期。ライ氏は現在、彼の政治活動に関連する別件で有罪判決を受け服役中だ。陳枢機卿とライ氏がNSL違反で有罪判決を受けた場合、無期懲役の最高刑に直面する可能性がある。

 米国務省は 2022 年 3 月の報告書で、中国政府が「2019 年の民主化運動で活動した宗教団体に所属する市民組織あるいは個人を標的にする」可能性がある、として懸念を表明している。

 

【国際信教の自由委員会委員たちの中国に関する追加意見】」

 1980年代に東西冷戦下での敵対関係が最高潮に達した時、米国内で評判の高い法律事務所がソ連を顧客とすることは考えられなかっただろう。だが現在、中国の共産党と政府の意図を隠ぺいするのを厭わないロビイストが、計り知れない利益を上げている。このような活動を違法として取り締まらねばならない。

 委員会報告が述べているように、中国政府は、キリスト教徒、チベット仏教徒、ウイグル族イスラム教徒、法輪功学習者など、信仰を持つ人々に対する無差別の迫害者だ。中国共産党は新疆ウイグル自治区で大量虐殺を行っており、キャンプと刑務所のネットワークを運営し、ウイグル人の子供たちを両親から組織的に引き離している。

 香港の「自治」は幻想となった。活気に満ちた開かれた社会は、驚くべき速さで変えられている。反対意見に対する冷酷な取り締まりは、90 歳の陳日君・枢機卿に照準を当てた。

 そして、 世界の隅々で、中国政府は米国の利益を覆すために積極的に活動している。米連邦検察局(FBI)のクリストファー・レイ長官は、「中国政府と中国共産党による防諜活動と経済スパイ活動は、米国の経済的幸福と民主主義的価値に対する重大な脅威だ」と述べている。

  中国政府は、人類史上最も先進的な監視国家を取り仕切っており、その監視技術を世界中の他の抑圧的な政権に積極的に輸出している。委員会がこの報告書で勧告しているように、私たちはバイデン政権と合衆国議会に対し、ロビー団体や法律事務所が中国政府とその利益を代表することを禁止するよう強く求める。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2023年5月4日