・中国はジャーナリストにとって世界最大の”監獄”-国境なき記者団が2023年世界報道の自由ランキング発表

(2023.5.4  カトリック・あい)

 国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団(RSF)」(本部パリ)が3日、世界180か国・地域を対象にした「報道の自由に関する2023年のランキング」を発表した。

 それによると、報道の自由の現状は、 31 か国が「非常に深刻」、42 か国が「難しい」。 55カ国が「問題あり」、52カ国が「良い」または「満足」。ジャーナリズムの環境は 10 か国中 7 か国で「悪く」、満足なのは10 か国中 3 か国しかない。

 国別では、報道の自由度が最も高いのは7年連続1位のノルウェー、アイルランドが2位でこれに次ぐなど、欧州諸国が上位を占める一方、中国が昨年の175位から4つ下げて179位と、2年連続180位で最下位の北朝鮮に次いだ。RSFは中国が「ジャーナリストにとって世界最悪の監獄」と非難。また中国は「プロバガンダ・コンテンツ」の最大の輸出国ともなっている。

 同じくアジア太平洋地域で、2021 年 2 月の軍事クーデター以降、世界で 2 番目に多くのジャーナリストを投獄しているミャンマーが173 位、女性ジャーナリストが公の場から文字どおり抹消されているアフガニスタンも152 位と、記者を取り巻く環境が悪化し続けている。インドでは、モディ首相に近いオリガルヒによるメディア乗っ取りが多元主義を危険にさらし161 位と大きく順位を下げている。

 一年以上にわたってウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、政府にとって不都合な報道を行う独立系メディアの報道が抑圧され、政府系メディアによるプロパガンダが大きく力を増し、昨年の155位から164位へ、大きく順位を下げた。

 タジキスタン(153 位)、トルコ(165 位)も前年よりも評価を大きく下げた。 トルコではエルドアン政権がは5 月 14 日の選挙に向けて、報道への締め付けを強めている。 イラン(177位)は、若い学生が拘留中に死亡したことに端を発した抗議行動への取り締まりを強行したことで、順位をさらに下げた。

 一方でウクライナは昨年の106位から79位へ大幅に順位を上げ、ブラジル は、報道関係者への極度の敵意によって大統領任期を迎えたボルソナロの退任とルーラ・ダ・シルバの当選の結果、順位が 18ランク 上昇して92位。 アジアでは、オーストラリア( 12 ランク上昇の27 位)やマレーシア( 40 ランク上昇73 位)など、政権の交代で報道の環境も改善された。

 なお、日本は昨年の71位から68位に順位を上げたが、評価そのものは決して高くない。米国 は昨年にょり 3 ランク下げて45位。バイデン政権の努力にもかかわらず、特に地方レベルでの法的枠組みと暴力の蔓延が報道環境を悪化させ、昨年9月、今年2月の相次ぐジャーナリスト殺害も、国のランキングにマイナスの影響を与えた。

 地域として自由度が高く評価されている欧州でも、ドイツは5ランク下がって21位となっている。この地域の最低はギリシャで107位。諜報機関や”スパイウエア”によるジャーナリスト監視がつよまっている、とされた。

 また中南米では、 コスタリカが 15ランク下がって23位。この地域で状況が「良好」に分類された唯一の国だったが、政治スコアが急激に低下した。 失踪ジャーナリストが過去 20 年間で 28 人と世界最多となっているメキシコは昨年よりさらに順位を下げて128 位。 検閲が再び強化され、報道機関が依然として国家に独占されているキューバは昨年に続いて地域で最も低い172位となっている。

 

*AIが偽情報の流布と一体化してジャーナリズムを弱体化、メディアの世界に混乱をもたらしている 

 

 またRSFでは、今回のインデックス発表とともに、フェイクニュース(情報の根拠が明らかでなく根も葉もない情報)が報道の自由に与えている深刻な影響を取り上げている。それによると、調査対象の世界180か国・地域のうち 3分の2に当たる118 か国 で、回答者の大半が「自国の政府関係者が大規模な偽情報またはプロパガンダ キャンペーンに頻繁に、あるいは組織的に関わっている」と報告。

 「真実と虚偽、本物や事実と作り話の違いがあいまいになり、情報に対する権利が脅かされ」ており、「 コンテンツ改ざんの前例のない能力が、質の高いジャーナリズムを体現する人々、ジャーナリズム自体を弱体化させる使用され、AI(人工知能)の目覚ましい発展は、 Web 2.0 (ウェブ の新しい利用法)によって弱体化されたメディアの世界に、さらなる大混乱をもたらしている」と警告。Twitter のオーナーであるイーロン・マスク氏は、情報の対価への対処を極限まで推し進めており、ジャーナリズムの基盤を揺るがせている、と批判している。

 また、フェイクニュースに関わる業界は、自在に操作するコンテンツを大規模に広め、AI はそのコンテンツを取り入れ、厳密さと信頼性の原則を軽視する”合成”を行う形で、利用者に提供している、と指摘。

 「自然言語の要求に応じて非常に高精細な画像を生成する AI プログラムである Midjourney (テキストの説明文から画像を作成する独自の人工知能プログラム。同プログラムを開発した研究所の名称でもある)の 5 番目のバージョン」を使って、警察官に拘束されたトランプの画像を捏造し、Twitterに投稿し、「ドナルド・トランプ元大統領が逮捕され、刑務所に護送された」といったメッセージとともに、Facebookなどのソーシャルメディアで拡散された昨年3月の”事件”が起きていることを実例として挙げて、警告している。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

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2023年5月4日