・「教皇は”ロシアが始めた”戦争への非難を明言する」とバチカンが声明

(2022.8.31 カトリック・あい)

  ロシアのウクライナ軍事侵略に関する教皇フランシスコの深慮を欠いた発言がウクライナとの間で外交的な亀裂を起こしていたが、バチカンが30日、「ロシア連邦によって始められたウクライナにおける大規模な戦争をはっきりと非難する」とする声明を、30日付けのバチカンのホームページを通じて発表した。

 声明はまず、「‎ウクライナでの戦争について、教皇フランシスコと彼の協力者による多くの介入がなされている。その大半は、平和ととりもどるための連帯と努力を、司牧者たちと信徒たち、そして善意のすべての人々に促すことを目的としている」‎と説明。

 そして、「最近、このような介入に付随する政治的な意味について、何度も公に議論がなされている」が、「改めて強調したいのは、‎この心を揺さぶる問題に関する教皇の発言は、政治的立場からではなく、人の命とそれに関連する価値を守ろうとする声だと解釈される必要がある、ということだ」とし、教皇がロシアやプーチン大統領を名指しで非難するのを避けているのは、ロシア政治的配慮からだ、と批判する関係者などに理解を求めた。

 そのうえで、声明は「ロシア連邦によって始められたウクライナでの大規模戦争について、教皇フランシスコのさまざまな介入が、道徳的に不正で、容認できず、野蛮で、分別を欠き、忌まわしく、神を冒涜するものとしての強い非難のもとになされているのは、明確で疑いないことだ」と言明した。

 ただし、この声明を作成したバチカンの部署、責任者の名前は明らかにされておらず、教皇の意向をそのまま明らかにしたものかも明確でない。ウクライナ当局者や関係者の教皇に対する疑念がこの声明で払拭できるか不明だ。

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 現在も多くの犠牲者を出し続けているロシアによるウクライナ軍事侵略について、教皇はこれまで、「不当な侵略」あるいは「侵略」という言葉を使ったことがあたったが、和平への対話の扉を開いておきたい、との配慮からか、具体的に「ロシア」あるいは「プーチン大統領」を名指しで非難することは避けていた。

 そして、”プーチン大統領の頭脳”と言われ、ウクライナ侵攻を「ウクライナを”非ナチ化”するため」と正当化する論陣を張っていたロシアの哲学者の娘が8月20日に爆破テロで殺害されたことに対しても、24日の一般謁見で「戦争は狂気。戦争に加わっている誰もが『自分は狂っていない』とは言えない… モスクワで車の座席の下にあった爆弾で殺された可哀想な女性を思い起します。無実の者が戦争代償になったのです!」と、ウクライナ、ロシア両国をまとめて非難するような発言をした。

 これに怒ったウクライナ政府は、駐ウクライナ・バチカン大使を呼んで公式に抗議する一方、ウクライナの独立記念日でロシアによる侵略開始から 6 か月目にあたる 8 月 24 日に一般謁見に参加した駐バチカン・ウクライナ大使が、教皇の発言にTwitter で懸念を表明ー「今日の教皇の言葉には落胆し、多くのことを考えさせられた。『加害者と被害者』、『レイプ犯とレイプ被害者』を一緒にして語ることはできない。ロシア帝国主義の論理的支柱の娘を『無実の犠牲者』と呼べるだろうか?彼女は”生贄”としてロシア人に殺害され、侵略の”盾”にされているのだ」と訴えた。

 ロシアの専門家は、殺害された29歳のこの女性は、父親と同じ、ウクライナ侵略戦争の支持者であり、ウクライナに対してさらに強力な武力を使うよう主張していた。また、この爆殺にウクライナは関与しておらず、ロシアの治安当局が背後にいる、との見方もある。

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2022年8月31日