・聖職者による性的虐待後にさらに「二次被害」と、女性信徒が長崎教区を提訴

(2020.12.17  カトリック・あい)

 16日までに新聞各紙が伝えたところによると、カトリック長崎大司教区の神父から性的被害を受けたと訴えている長崎県内の女性信者が、教区トップである高見三明・大司教の発言で精神的苦痛を受けたとして15日、教区に慰謝料など550万円の支払いを求めて長崎地裁に提訴した。各紙の問い合わせに対し、教区本部事務局は「訴状が届いていないので一切コメントできない」としている。

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(評論・カトリック・あい)

 長崎教区はこのところ、日本の教会の信頼を大きく損なう失態を繰り返している。司祭から性的虐待を受け心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したとする女性を再び精神的に傷つける行為と受け取られる対応をした今回の二重の失態。そして、不明朗な資金運用による2億5000万円と言われる教区の財政規模からみて”巨額”の損失発生と、その後の対応の拙劣さ、という二重の失態だ。

 新型コロナウイルスの世界的大感染と言う未曽有の危機の中で、日本の教会が一体となって、物心両面から人々を支えねばならない時期に、日本の教会のリーダーであるはずの高見カトリック司教協議会会長が大司教を務める長崎教区で、教会の信用と信頼を棄損するようなことが繰り返されていることに、怒りを通り越して、深い心の痛みを感じる。この繰り返しの失態は、長崎教区だけの問題ではない。日本の教会全体に影響を与える問題なのだ。これまでの経過、対応を見る限り、リーダーには、そうした自覚も、真剣さも、残念ながら感じられない。

 長崎教区は先月、「教区会計上の重大な不手際に関する問題」その後の経過について、と題する釈明文を12月号の教区報に掲載し、その中で、9月の教区評議会臨時総会で、教区の対応に対して「具体性がなく不十分」との厳しい指摘を受け、責任者の辞任の可否を問う質問が出たことに対して、「 髙見大司教は『監督者としての私の責任を痛感し、 申し訳なく思っています。総辞職という道もありますが、 私は、 自分が辞任することでは責任をとることにはならないと考えています。むしろ、 まずは教区会計の健全化・透明化を早急に推し進め、 教区組織の在り方の再検討を図り、 さらには司教と司祭の生活を刷新し、 信徒の皆様の信頼回復に努めることが責任の取り方であると考えています』と答えた」と説明した。

 今回の司祭による虐待の訴えを受けた対応の問題も合わせて、「責任を取る」という言葉の重さを、改めてかみしめ、教会の信頼回復と被害者への心の癒しへ適切、かつ速やかな行動をとるよう、当事者に強く求めたい。

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 長崎市内で記者会見した代理人弁護士によると、女性は2018年5月、教会の司祭館で神父に体を触られ、教区は19年8月、女性がわいせつ行為で心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したとして賠償金を支払ったという。この神父は今年2月に強制わいせつ容疑で長崎地検に書類送検され、4月に不起訴処分になった後、大司教区は報道機関に「(女性に)今後も誠意を持って対応する。(聖職者による性被害を)二度と起こさないよう再発防止に全力を尽くす」との声明を出した。

 だが、その後、教区内の公的な会議で、高見大司教が女性について「『被害者』と言えば加害が成立した、との誤解を招くので『被害を受けたと思っている人』など別の表現が望ましい」と発言する議事録が作成され、各教会の神父宛てに送られて関係者の目に触れた。その内容を知った女性は再びショックを受け、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を再び悪化させた、といい、代理人弁護士は「性被害があったことを前提にした示談にもかかわらず、その後の大司教の発言で二次被害を受けた」「宗教は信者の魂や精神のよりどころであり、世俗的な関係以上の信頼がある神父による性被害について「ショックは非常に大きかった」と強調した。

 また女性は15日、代理人を通じ「怒り、憎しみ、悲しみが日に日に増している。大司教区の世間から外れた考えを改めてほしい」とのコメントを発表。

 現地の長崎新聞の取材に、自身が症状に苦しむだけでなく、家族もショックを受けたことが苦痛をさらに増したこと、女性の母親も別の神父に対し「昔の娘を返せ」と言い放つほど精神的に追い詰められ、体調を崩したと語った。

 また神父から受けた被害についても、改めて語った。男性神父とは家族ぐるみで17年来の付き合いがあったが、2018年5月、女性は他の神父らに頼まれ、アルコール依存症とされる問題の神父を見舞いに県内の教会を訪ねたところ、突然、後ろから覆いかぶさられ、無理やり体を触られても、怖くて、「やめてください」と声を振り絞るのが精いっぱいだったという。その後、女性はPTSDを発症。神父の祭服を見ると恐怖がよみがえり、叫び声を上げたこともある。ミサの時間に震えが止まらず、フラッシュバックが起きるとその間の記憶を失うなど、仕事を辞めざるを得なくなった。だが、警察に被害届を出そうとすると、「最後までしてないんだから」「信徒は神父の言うことを聞いて当たり前」などとさらに傷つくような言葉を受け、自分を責め、何度も自殺を考えた、と語った。

 そして、さらに今回の”二次被害”で、教会には怖くて近づけなくなり、自宅のカーテンを一日中閉めてふさぎ込み、孤独に症状と闘う日々が続いている、という。

 

 

 

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2020年12月17日