・米州人権委員会が聖職者の性的虐待の調査、被害者の権利擁護に乗り出す(Crux)

(2020.12. 9, Crux Rome Bureau Chief  Inés San Martín /In Church in the Americas)

 米国、カナダと中南米33か国が加盟する米州機構で人権問題を担当する米州人権委員会が、聖職者による性的虐待の実態調査と被害者保護に乗り出した。委員会によると、中南米の少なくとも19か国で被害が報告されているという。

 今月3日に委員会が開いた公聴会で、フラビア・ピオベサン副議長は、被害者に対して、責任をもって対処することを約束した。そして、加盟国が個別に解決できていない聖職者による性的虐待事案についての情報の提供を、委員会の権威をもって求めていく、としている。

 NGO[聖職者の性的虐待を終わらせる会」の法務担当、アダルベルト・メンデス氏は、委員会に対して、個々の加盟国政府は性的虐待の犯罪を隠蔽するのを助け、被害者を守り、正義を行なうのを助けるのに失敗した一連の事例を報告した。「米州人権委員会は、各国政府が未成年に対する聖職者の性的虐待を隠蔽したことで、被害者の権利を侵害した範囲を確認しました」と述べた。子どもの事務的な性的虐待を隠蔽した結果として、侵害された権利の範囲を認めた」とメンデス氏は述べた。

 公聴会の席に、同会は、「宗教施設における児童および青年に対する性的虐待の刑事免責に関する南北アメリカの国々の政府の責任」と題する報告書を提出した。

 アルゼンチンの聴覚障碍児のための学校での性的虐待事件を調べているセルジオ・サリナス弁護士は、「当局は、子供たちが宗教施設で虐待されていても、教会に介入することを怠った」と批判。また、この学校の問題が、解決の方向に向かったとして、なお、米州機構の国々の当局と教会の”結託”して隠蔽している案件は多くある、と指摘。実例として、カナダの先住民社会における聖職者による未成年性的虐待の問題を挙げた。

 「Children Rights International Network」の2019年の報告によると、中南米の少なくとも19か国で、聖職者による性的虐待の事例が報告されており、国別ではメキシコで550件以上、チリで243件、コロンビアで約140件、アルゼンチンで約130件に上っている。しかも、被害の報告件数は増加を続けており、チリの虐待被害者ネットワークには、今年8月時点で360件の申し立てがあり、1月より​​49件増え、その中には虐待事件を隠蔽したとして告発された数人の司教と少なくとも2人の枢機卿が含まれている。

 教皇フランシスコは2018年、バチカンの幹部聖職者2人の捜査官をチリに派遣し、現地調査を実施。調査結果をもとに、チリの司教団をバチカンの召喚。全員が辞表を提出し、教皇はこのうち3分の一に当たる司教たちの辞表を受理した。だが、それから2年経った今も、性的虐待の被害者と支援者たちの間には、バチカンと司教団の対応に疑問を持つ声が少なくない。辞表を受理された司教たちには、いかなる処罰もなく、告発された不正行為を認めることもされておらず、バチカンも、辞表を教皇が受理した理由を明確にしていない。

 バチカンが、米国の元枢機卿セオドア・マキャリックの性的虐待事件について詳細な調査報告書を公表した際、チリの被害者たちは、同国の聖職者による性的虐待とその隠ぺいに関わった司教たちについてのバチカンによる調査報告も公表するよう求めた。

 中南米の総人口の約4割はカトリック教徒で、メキシコやブラジルは一国のカトリック人口が世界でもトップ・クラスだが、その数は年々減少を続けている。

 米州人権委員会によると、主たる目的は、聖職者による性的虐待の隠蔽についての各国政府の責任と、性的虐待によって人権を侵害された未成年の被害者たちに対する正義の欠如を問うことにある。

 公聴会で、メンデス氏は、問題は「信仰の問題」ではなく、「犯罪を犯している聖職者の世俗的問題」であり、被害者を救うことをせず、犯罪を処罰せずにいた各国政府の問題である、と強調し、厳正な対応を委員会に求めた。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年12月10日