・イタリア司教団が「新ミサ典書」を教皇に奉呈・「主の祈り」「栄光の賛歌」を修正

(2020.9.1 カトリック・あい)

 イタリアの司教団が多年にわたって策定を進めてきた新しいイタリア語ミサ典書が完成し、8月28日、教皇フランシスコに奉呈した。

 バチカンの公式発表では、教皇が直接、イタリアの司教団から奉呈を受けたことだけで、新ミサ典書の内容は明らかにされていないが、複数のカトリック系のメディアが1日までに伝えたところによると、注目されるのは、以前から、日本語を含む各国語の訳の欠陥が指摘され、教皇ご自身も各国語の翻訳を改めるよう示唆されていた、カトリック教会で最も重要な祈り、「主の祈り」に修正が加えられたことだ。

 その箇所は、現在は、イタリア語で「e non ci indurre in tentazione 」(英語では「lead us not into temptation」、日本語ではPope gets first copy of Italian Missal translation「わたしたちを誘惑におちいらせず」)とされているが、これを「 non abbandonarci alla tentazion」(英語「do not abandon us to temptation」、日本語試訳「誘惑に陥ろうとする私たちを見放さず」)に改める。

 また、「栄光の賛歌」についても、現行の「[pace in terra agli uomini di buona volontà」(英語では「peace on earth to those people of good will」日本語では「地には善意の人に平和あれ」)を、「pace in terra agli uomini, amati dal Signore」(英語で「“peace on earth peace to those people, loved by God」、日本語試訳「地には主に愛された人に平和」)に改める。

 イタリア司教協議会のクラウディオ・マニアゴ会長は、これらの語句の修正について「それらの言葉の持つ重要性について理解が不足していたことを意味します」と説明している。

 新ミサ典書は、今後数週間のうちに国内の全教区、小教区に配布され、来年の復活節から使用が義務付けられるが、各教会では新ミサ典書を入手次第、司祭の判断で使用を開始してよい、という。

 教皇ご自身が通常のミサでお使いになるのはイタリア語のミサ典書であり、その改定は、世界の教会のミサ典書改定を促すものとなりそうだ。

 

 Pope Francis looks through the new edition of the Roman Missal in Italian Aug. 28, 2020, during a meeting with officials of the Italian bishops’ conference in the library of the Apostolic Palace at the Vatican. (Credit: CNS photo/Vatican Media.)

 教皇フランシスコは2017年12月に、イタリアのテレビ放送TV2000のインタビューで、「主の祈り」にある「non ci indurre in tentazione」 (英語公式訳はこの直訳の「lead us not into temptation」 、日本語公式訳は「わたしたちを誘惑におちいらせず」)は「もっとよい表現」にすべきだ、との考えを明らかにしている。

 教皇はこのインタビューで、「この翻訳の言葉はよくありません」とされ、その理由を「人々を誘惑に❝lead”(導く、おちいらせる)のは神ではなく、サタンであるからです」とし、「この表現は変えるべきです」と語った。

 そして「(誘惑に)陥るのは私。私を誘惑に陥らせるのは彼(神)ではありません。父親は自分の子供にそのようなことをしない。すぐさま立ち直るように助けてくれます」と述べ、さらに「私たちを誘惑に導くのはサタン。それがサタンの役回りなのです」と強調しされた。

 この箇所をどのように改めるべきかについては、より正確に、こうした神学的な見方に従って、「don’t let me fall into temptation」とするのが適当、とし、フランスの司教団がこのほど主の祈りを見直し、英訳にするとこれまで「“Do not submit us to temptation」としていたのを「Do not let us into temptation」と改めたのを妥当との判断を示した。

 現在の主の祈りの言葉は、ギリシャ語訳をラテン語に翻訳したものをもとにしており、ギリシャ訳のもとは、イエスが実際に語られていたアラム語(ヘブライ語の古語)から来ている。教皇庁立グレゴリアン大学のマッシモ・グリリ教授は「ギリシャ語のこの箇所は『eisenenkês』で、文字通り訳すと『don’t take us inside』となると言い、そのように訳し直すべきだ、としている。

 教皇フランシスコはこのほど、教会法の部分改正を実施、各国語の典礼文の表現について、バチカンから現地の司教団に権限の比重を移す決定をしたが、従来のようなラテン語訳からの文字通りの翻訳を続けるか、それともギリシャ語やアラム語の原本を重視すべきかの議論は続いている。

 なお、このような教皇フランシスコの意向を受けて、日本の司教団が、「主の祈り」などの訳語を見直す作業に入っているかどうかは、明らかでない。

 

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2020年9月1日