(評論)26日まで聖書週間ーまったく盛り上がらない「全国運動」、発刊5周年の「聖書協会共同訳」をどうするのか

 

 日本のカトリック教会の「聖書週間」が今年も11月19日から26日にかけて行われる。だが、「行われる」といっても、カトリック中央協議会のホームページを見る限り、シンポジウムなどの「行事」はいっさい予定されていない。わずかに、4ページのリーフレットとポスターの注文を同協議会事務局で受け付けているだけのようだ。

  *聖書週間関連の行事として、カトリック教会、司教団の催しはないが、日本聖書協会主催のセミナー「聖書協会共同訳-原語と日本語の調和をめざして」が11月25日午後1時半から、東京・渋谷区南平台町の日本基督教団・聖ヶ丘教会で開かれる(問い合わせ申し込み=日本聖書協会広報部03‐3567‐1988、Email:info2@bible.or.jp)

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 カトリック中央協議会のホームページによると、聖書週間は「聖書に親しみ、聖書をより正しく理解するための全国的な運動」として日本の司教協議会が総会で、1977年11月の第3日曜日からの1週間を『聖書週間』とすることが決定、実施されていることになっている。だが、司教協議会がその実施母体として発足させた聖書委員会は「諸委員会の機構改革にともない、1998年2月に解消」され、引き継いだ常任委員会で「リーフレットとポスターの制作が継続されている」という説明が、中央協議会のホームページにあるのみだ。

 4ページのリフレットとポスターだけ、「全国的な運動」がまったく盛り上がらない中で、小教区も信徒たちも、どのように対応したらいいか、分からない、というのが正直なところではないだろうか。

  私たちの信仰の基本にある聖書について、日本の司教団がどれほど真剣に考えているのか、疑問を抱くのは、「聖書週間」ばかりではない。

 カトリックとプロテスタントの高位聖職者や聖書学や宗教学、日本語などの専門家が結集し、10年近くかけて制作した「聖書 聖書協会・共同訳」が2018年12月に刊行されて、この12月で5周年を迎える。だが、司教協議会では、2010年2月の臨時総会で「聖書の新しい共同訳事業」を承認したにもかかわらず、それが完成し、刊行された直後の2019年1月の常任委員会で「『聖書 聖書協会・共同訳』のカトリック教会の典礼での使用については数年先に検討する」ことを決定。その理由も、「数年先」の根拠も一般信徒には説明のないまま、事実上、使用を棚上げしてしまった。今、「数年先」を迎えているのにさっぱり、音沙汰がない。

 「聖書 聖書協会・共同訳」の刊行事業は、「『新共同訳』が刊行されて20年が過ぎた現在、聖書の新しい訳が検討されるべき時期が来ている。過去数十年間に生じた聖書学、翻訳学のどの進展、底本の改訂、日本語や日本社会の変化、また『新共同訳』見直しへの要請が、新しい翻訳を求めている」との認識から始まった。

 日本聖書協会(現在の理事長は石田学・日本キリスト教協議会教育部理事長、副理事長は菊地功・日本カトリック司教協議会会長)が国内のカトリック、プロテスタントの32教派、1団体から推薦された議員21人による「共同訳事業推進計画諮問会議」(カトリックからは司教協議会の推薦で岩本純一、下窄英知の2名)からを設け、2008年から2009年10月まで4回の会合で「翻訳方針前文」をまとめ、理事評議員会で翻訳事業の開始を決定。

 そして、カトリック司教協議会も2010年2月の臨時総会で「聖書の新しい共同訳事業を日本カトリック司教協議会として承認する」との決議をしたことで、正式にカトリック、プロテスタントが協力して翻訳事業が開始されることになった、という経緯がある。

 翻訳事業には、翻訳委員148人、翻訳者62人(翻訳委員プロテスタント107人、カトリック41人、翻訳者プロテスタント37人、カトリック25人)が参加。
翻訳者にはカトリックから川中仁・上智大学神学部長、雨宮慧・上智大学神学部名誉教授、浦野洋司・カトリック神学院東京キャンパス非常勤講師、柊暁生・南山大学人文学部教授・聖書学者、高橋由美子上智大学外国語学部教授=当時=、編集委員には、カトリックから宮越利光・カトリック司教協議会典礼委員会秘書など。

 さらに、 検討委員には高見三明・長崎大司教、和田幹男・カトリック神学院聖書学講師=当時=。加えて 外部モニター(20人)には、梅村昌弘・横浜司教、岡田武夫(前東京大司教)、幸田和生・前東京補佐司教=肩書当時=などが入っていた。

 聖書の翻訳事業は、カトリック、プロテスタントの信仰一致の取り組みの重要な柱であるはずだ。その取り組みを司教協議会として総会で承認し、カトリック側から高位聖職者も、トップクラスの専門家も大勢参加して出来上がった知恵と努力と祈りの結晶である「聖書 聖書協会共同訳」を、司教協議会として、いまだに棚上げしたまま、事実上放置しているのは理解できない。しかも、その理由について、いまだに何の説明もないのは困ったものである。

 「聖書委員会」が廃止された司教協議会のどの部署が担当するのか分からないが、司教協議会として、カトリック教会への「聖書 聖書協会共同訳」の導入について、明確な判断をする必要がある。

(「カトリック・あい」代表・南條俊二)

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*「聖書 聖書協会共同訳」は、カトリックを含むキリスト教系の書店、あるいは日本聖書協会に直接申し込めば入手できる。

 日本キリスト教団出版局から、「ここが変わった『聖書協会共同訳』新約編、同旧約編」が出版されており、これまで出された新共同訳や新改訳と比べて、どのように日本語の表現が新しくなったのか、それがどのような意味を持っているのか、など具体例と共に紹介し、分かりやすく説明している。

*聖書週間へ、「カトリック・あい」がお勧めする本のいくつか

・「An Introduction to The New Testament」(Raymonod E.Brown  Yale University Press New Have and London)

=レイモンド・E・ブラウン師は1959年から71年まで米ボルチモアの聖マリア神学校の聖書学教授。1973年に教皇庁聖書委員会の委員に指名。世界有数の新約聖書学者で古代史家。新約聖書を学ぶための第一級の入門書がついに登場!聖書研究グループ、大学生、神学生、司祭に強くお勧めする」 (ジョセフ・A.フィッツマイヤー米ジョージタウン大学教授)

・「聖書についての101の質問と答え」(レイモンド・E. ブラウン著 女子パウロ刊)

・「イエスの自己理解、弟子たちのイエス理解―新約聖書キリスト論入門」 (レイモンド・E. ブラウン著、 現代カトリック思想叢書、サンパウロ刊)

・「森司教の主日の福音説教集-みことばの調べ」(森一弘著、サンパウロ刊)

・「教皇フランシスコの(主日の福音書の説教を中心とした)講話集1‐8(ペトロ文庫=カトリック中央協議会)

・「イエスのたとえ話の再発見」(J.エレミアス著、南條俊二訳、新教出版社刊)

=イエスは民衆や敵対者にたとえ話を通して福音を語った。だが、初代教会の寓喩的解釈などによってイエスの本来の意図からはずれて伝承された。20世紀を代表する聖書学者である著者は、卓越した語学力、分析力、パレスチナの文化風土に関する深い知識を基に、たとえ話に込められたイエスの本来の意図に迫る。

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2023年11月17日