・13日で教皇フランシスコ在位8年-課題解決へバイデンの「熱を冷ます」戦術に倣うか?(Crux解説)

(2021.3.12 Crux  EDITOR  John L. Allen Jr.

At his eight-year mark, will Francis try turning down the temperature?

Pope Francis arrives to visit the community at the Church of the Immaculate Conception in Qaraqosh, Iraq, March 7, 2021. (Credit: Paul Haring/CNS.)

ローマ発 – 米国のバイデン大統領は就任から2か月経とうとしているが、ニューヨークタイムズ紙のエズラ・クライン記者によると、米国の主要メディアの見出しはトランプ前大統領に関するものが依然として彼の2倍になっている。その現象の核心は、現代政治学の理論をもとにした意識的なバイデンの戦術にある、とクライン記者は分析する。つまりこうだ。

 「陰極(負の電極)」が今、政界においてもっとも強い力を持っている。そうした中で、人々は、自分たちが好きな者を支援するからといって、その考えを常に支持するように動くとは限らないが、自分たちが嫌いな者が支持する考えには、必ず反対に動く。(その理論を使って)バイデンは、自分自身を注目の的にすることを避けること(たとえば、バイデンが打ち出した野心的な経済刺激策を、ホワイトハウスの誰も「バイデン計画」と呼んでいない)で、保守派が反対に動くような要素を減らした。バイデンのスポークスパーソンは、これを「熱を冷ます」戦術、と呼ぶ。

 そして、これを聞くと、13日に在位8周年を迎えた教皇フランシスコのことが思い浮かぶ。

 新型コロナウイルス大感染の危機によって元気を取り戻したように見える84歳のフランシスコは、教会と世界のために野心的な課題に今も取り組み続けているた

 彼の”業務リスト”には、教会内的な課題として、問題山積するバチカン改革、財務・資金管理体制の抜本的な見直し、聖職者による性的虐待絶滅への戦い、女性と一般信徒の権限強化、より“共同的”な意思決定過程の確立ーなどが並ぶ。対外的には、”ポスト・コロナ”の世界ビジョンとしての、人類の友愛と連帯、世界の最貧層の人々のための経済的正義、自然環境保護と武力紛争の終結ーがある。

 これらの課題達成をややこしくしている要因の一つが、カトリック教会においても「陰極」が強い力を持っている、ということだ。現代の事実上すべての公的な人物と同じように、教皇フランシスコも、好むと好まざるにかかわらず、不和を招いている。カトリックの信徒のある部分には、教皇は熱心な支持を高めているが、一方で、その数は相対的に少ないものの、頑強な少数派がおり、教皇が彼らの懐疑主義と反発を誘っている。

 その観点から、おそらくフランシスコは、少なくとも公的責任が許される範囲で、バイデンの”作戦帳”の1ページを拝借し、難しい”方程式”を解こうとするかもしれない。それはどのようなものだろうか?自身への注目度を減らし、課題の実行を他の主体ー個人、グループ、あるいは機関ーに委ねることを意味することになるように思われる。

 コロナ感染拡大防止のために、バチカンで多くの人が実際に参加する行事が中止となり、外国訪問も制限されていることは、教皇の注目度を減らすのに”役立つ”と言えるかもしれないが、それは、他の公人にもあてはまることだし、教皇の注目度を必ずしも減らすことにはならない。

 当然ながら、コロナ禍においても、教皇は、バチカンと世界のカトリック教会の統治に関わる仕事に手を抜くことはできない。世界中の司教の任命、使徒的勧告や教令の公布、予算の承認その他、バチカンと世界の教会の活動を続けていくために必要な業務は止められないし、これが必然的に、ニュースになっていく。

 だが、フランシスコは、注意を惹くような非公式なやり方-インタビューを受けたり、ドキュメンタリー番組に出たり、本を出したり、電話を掛けたり、手紙を書すなど、メディアで取り上げられる振る舞いーを避けることが可能だ。そして、その時間を、優先事項と考える課題の取り組み促進へ、関係者ーバチカン官僚、世界中の司教、活動体や修道会の指導者、その他カトリック関係の活動家たちーを督促することができる。

 バイデンの経済刺激策と同じように、教皇が取り組んでいる多くの課題に対しては、強力な公的支援がある。バチカンと教会が透明性を高め、しっかりと説明責任を果たすようにするという教皇の方針を、極めて多くの人が好意を持って受け止めている。大多数が、女性と一般信徒にもっと大きな役割を与えようとする動きを支持している。全世界の信徒の3分の2が途上国の信徒で占められているカトリック教会で、教皇の掲げる社会正義の課題は幅広い支持を得ている。

 米国の政治と同じように、以上のような課題に関するカトリック教会の対話の二極化は、しばしば主張の中身ではなく、誰がその主張の背後にあり、誰がそれに反対しているのか、で生じている。

 教皇に就任して8年、フランシスコは時代のしるしを読み、自身が与えられた今という時に、教会と世界が必要としているものをつかみ取ることに長けていることを示してきた。

 バイデンの例が示唆しているのはこうだーバイデンとフランシスコがどれほど相似形でないとしても、教会と世界が今、教皇フランシスコに求めているのは、魅力のある個性を抑え、より多くの政策の選択の余地を作るということだ。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2021年3月13日