(2021.3.13 Vatican News Isabella Piro)
2013年3月13日、ホルヘ・マリオ・ベルゴリオが聖ペトロの座に就くように選ばれた。初のイエズス会士の、ラテンアメリカ出身の、初めてフランシスコの名を冠する教皇の誕生だった。
以来、教皇フランシスコの8年は、全人類にイエスの愛をもたらすことを目的とした新たな福音宣教の推進に、すべてのキリスト教徒を参加させるための先導と改革で特徴づけられてきた。
親密さ、協議制、勢いある福音宣教ーそれが8年前に聖ペテロの座に選ばれた教皇フランシスコの教皇職の要石だ。彼の教皇観は、自身の存在と行動の対照として、底辺から、実存的で地理学的な”辺境”に注意を向けるところから始まる。
「福音が本来もっている新鮮さ」を取り戻すように、すべての人を招き、イエスの愛が本当にすべての人に届けるために新たな熱意と力強さを手にするように、信徒たちに強く促す。教皇フランシスコが熱望する教会は、”開かれた扉”、「優しさの革命」や「優しさの奇跡」を恐れない”野外病院”をもつ、「外に向かう教会」だ。
*新しさとEvangelii gaudium(福音の喜び)ー教皇の案内書
「フランシスコ」という名の最初の教皇、教皇として最初のイエズス会士、最初のラテンアメリカ出身者として、また前任者の辞任を受けて選ばれた近代で初の教皇として、教皇フランシスコは、”新鮮”の旗の下で教皇職を始めたーサンタマルタの家で日々のミサを捧げ、そこを住まいにした。
教区司祭の仕方で自然な形で行われる短い説教で、教皇は信者たちと直接の対話をし、神の言葉と直接向き合うように促す。2013年はまた、使徒的勧告「Evangelii gaudium(福音の喜び)」ー新教皇の基本指針ーを発出し、その中で、教皇フランシスコは、喜びで特徴づけられる新たな福音宣教、、教会構造の改革、そして教皇による統治の改変をーそれによって、イエスが意図された目的にかなう宣教活動がなされるようにー司教、司祭を含むすべての教会関係者、信徒に求めた。
そして、この2013年には、「枢機卿評議会」を設け、(1988年に当時のヨハネ・パウロ二世教皇が発出した)教皇庁の組織体制を規定する使徒憲章「Pastor bonus」の改訂の検討に着手させた。
【2014年】「家庭」
「家庭」は教皇フランシスコの2014年の司牧の最重要テーマだった。そのために、「家庭」をテーマとする全世界代表司教会議(シノドス)の特別総会を招集した。教皇は、現在の個人主義が蔓延する社会で子供たち、親たちの権利が、とくに道徳教育、宗教教育の面で危機に瀕していることに、強い懸念を持っていたのだ。シノドスの成果は2016年4月に公布された使徒的勧告「Amoris Laetiti(家庭における愛の喜び)」として結実し、その中で教皇は、分かち難い男女の結婚を基礎にした家庭の重要さと素晴らしさを強調するとともに、離婚して再婚した人々にも目配りし、司牧者たちに識別力を働かせるように促した。
教会改革に関しては、バチカンに未成年者保護のための委員会を設置したことが特筆される。委員会の目的は、すべての未成年者と脆弱な成人の保護について特定の教会の責任を促す対策を、教皇に提言することだ。
外交面では重要な二つのことがあった。一つは7月8日にバチカンの庭園で、イスラエルのペレㇲ大統領とパレスチナ自治政府のアッバス議長と共に、「聖地エルサレムの平和の祈り」を捧げたこと。それに、米国とキューバの外交関係樹立にあたって、教皇が両国の代表に書簡を送り、これに強く関与する姿勢を示したことだった。
【2015年】被造物の保護
2015年の中心には「被造物の保護」が置かれた。5月24日、教皇は回勅「ラウダート・シー私たちの共通の家を大切に」に署名した。回勅の核心は、欠かすことのできない環境、自然へのいたわり、貧しい人々の公正な扱いと社会への関与は分けることができない、ということだった。回勅の延長として、教皇は、信仰一致のもとで「被造物へのいたわりの祈り国際デー」を毎年9月1日に設定した。
教会改革では、”教皇庁に関する新使徒憲章、後に「Praedicate Evangelium」という仮題がつけられる使徒憲章の策定が進められた。
この一方で、Vatileaks 2(教皇庁の秘密文書の漏洩)が発覚し、教皇が11月8日の主日の正午の祈りでこれについて「文書を盗むのは犯罪です。全く情けない行動です」と遺憾の意を表明。被疑者4人はバチカン裁判所で裁かれ、2人が刑法犯で有罪となっ
【2016年】慈しみの特別聖年
「慈しみ」が2016年を通しての共通の糸となった。教皇は、「父のように慈しみ深く」のテーマの下に特別聖年を実施した。最{も弱い人々へのいたわりは「慈しみの金曜日」で具体化され、この日に教皇は貧困者、病者、そして社会の隅に追いやられている人々を受け入れている施設に私的訪問をされた。さらに、広く開かれた教会」を象徴する形で世界中の教会で”聖なる扉”が開かれ、教皇は聖ペトロ大聖堂のその扉を開くのに先立って、2015年11月に中央アフリカ共和国を訪問した際に、バンギの大聖堂の扉を開けた。
また 2016,年には、もう一つ大きなことがあった。2月12日にキューバで教皇がロシア正教のキリル一世モスクワ大主教と会見し、現代社会の課題ーキリスト教徒に対する迫害と戦争の終結、宗教間対話の推進、移民・難民支援、命と家庭の保護ーへの取り組みを約束する共同宣言に署名した。
【2017年】世界貧困の日
2017年には教皇が推進する平和外交で大きな前進があった。2017年9月20日に国連総会で「核兵器禁止条約」が採択され、その直後にバチカンが世界の国々に先駆けて、同条約を批准した。
司牧面では、「世界貧困の日」の第一回が祝われ、「イエスの現存が証しされる」のはまさに貧困の中であること、貧困は「天国への道」を開き、「天上への旅券」であることを思い起こす契機となった。
【2018年】中国との司教任命に関する暫定合意
2018年は二つの点で特徴付けられた。司牧の面では、”若者”シノドス(全世界代表司教会議)の開催。教皇は若者たちに、「信仰は出会いであり、理論ではない。聞き、近づき、証人となるように」と求めた。その呼びかけは、シノドスを受けて翌2019年に出された使徒的勧告「Christus vivit,(キリストは生きている)」で一層、強いものとなった。「あなたがたは、神の”今”だ」と教皇は述べ、現代社会の挑戦に遭っても引き下がらず、”最も小さな人々”への配慮に献身するように願った。
外交面では、2018年9月22日、中国政府(中国共産党ではない)との間で、同国内での司教任命についての暫定合意に署名した。そしてこれは、2年の期限を迎えた2020年秋にさらに2年延長することが決まったが、具体的内容は、2021年になっても公けにされていない。
*「カトリック・あい」注:中国国内のカトリック教会は、従来から、中国共産党の指導に服する「中国天主愛国協会」所属の教会と、教皇のみに忠誠を誓う”地下教会”に分かれていた。バチカンは基本合意によって司教の選任が一本化し、中国における福音宣教が正常な形で進む、と期待していたようだ。
だが、実際には、暫定合意と前後して、中国国内の諸宗教の活動の監督・規制の権限が、政府である国務院の宗教担当部局から中国共産党の統一戦線工作部に移管され、それとともに、カトリックも含めた諸宗教の”中国化”、共産党の指導に従わない諸宗教を強制的に指導・監督下に置き、従わない者は徹底的に監視・弾圧するという動きが活発になっている。
このような実情を教皇がどこまで理解されているのかは定かでないが、バチカン内部には中国に融和的な姿勢をとる高位聖職者もいるようだ。このようなバチカンの対応が、新疆ウイグル自治区やチベット自治区での少数民族弾圧、香港での民主活動の抑圧など、基本的人権の侵犯の姿勢を強める中国政府・共産党の姿勢を、結果として容認するのではないか、という懸念も関係者の間に高まっている。
【2018年-2019年】聖職者による性的虐待への対応
2018 年はカトリック教会にとって”極めて苦い”ページを開く年でもあった。高位聖職者などが絡んだ性的虐待に関する出来事だ。教皇の側近で、バチカンの財政・金融改革に大きな役割を期待されていたジョージ・ペル枢機卿が未成年性的虐待の容疑で起訴され、オーストラリアの裁判所で無罪を勝ち取り、13か月後に釈放となったこと。チリの高名な説教師で、一司祭ながら同国の教会に強い影響力を持っていたフェルディナンド・カラディマが幼児性愛で有罪、教皇から聖職者の地位をはく奪されたこと。さらに、米国では、改めて信徒たちの間に大きな衝撃を与えた、多数の聖職者による未成年性的虐待に関する「ペンシルバニア報告」が出されたこと。
8月にアイルランドを司牧訪問された教皇は、その最後に、カトリック教会を代表して赦しを乞う「罪の告白」をされた。これと同じ時期に、米ワシントン大司教だったセオドア・マカリック枢機卿(当時)が未成年への性的虐待で責任を問われる「マカリック事件」が浮上した。枢機卿は翌2019年にその地位をはく奪され、さらに2020年11月に教皇の指示を受けたバチカン国務省のこの問題に関する特別報告が出された。
性的虐待との戦いは2019年も続き、2月に全世界司教協議会会長会議でこの問題が話し合われ、それをもとに教皇は自発教令「Vos estis lux mundi,」を発出、性的虐待の案件を知った聖職者、修道者の告知義務を明確化し、全世界の司教区が、公共機関がその報告を容易に受けることのできる体制をとることとした。さらに12月に教皇は、性的虐待に関する教皇の秘匿義務を拝する勅令を出した。
【2019年】友愛、平和、キリスト教徒の一致
2019年は、3つの大きなことがあった。1つ目は、アブダビでイスラム教のグランド・イマームであるアフマド・アル=タイイブ師と共同で「Human Fraternity for World Peace and Living Together(世界の平和と共に生きるための人間の友愛)」の文書に署名したことだ。文書は、宗教間対話の強化を奨励し、テロと暴力を非難し、相互尊重を促すもので、その共同署名は、キリスト教とイスラム教の関係における画期的な出来事となった。
2つ目は、南スーダンの指導者たちのために精神的な休息の場をバチカンに提供したことだ。集まりは4月に行われ、衝撃的な行為で幕を閉じたー教皇が、到着した同国のサルバ・キール・マヤルディ大統領の前にひざまずいて、その足に接吻したのだ。教皇の意図は、この”若いアフリカの国”で「戦争の火が完全に消えることを懇願する」ことだった。
3つ目は、キリスト教の一致に向けられたものだ。6月29日、教皇はコンスタンティノープル総主教庁からの代表団に聖ペテロの遺物の断片をいくつかを贈った。教皇自身がバーソロミュー1世総主教への手紙に書いているように、この贈り物は「私たちの教会が互いに近づくために行った旅の確認となること」を意図したものだ。
【2019年】バチカンの財政・金融改革
教皇が就任当初から重視して来た財政・金融改革の一環として、教皇は2019年8月、IOR(宗教活動研究所=通称「バチカン銀行」)に関する規則を改め、その会計を監査する外部監査人の制度を導入した。これに続いて、2020年末に、金融情報局(ASIF)に関する規則も刷新して監督機能を持たせ、名称もそれにふさわしい「監督及び金融情報局」に改められた。
さらに、「経済および財政・金融問題における特定の能力」に関する自発教令を発出し、教皇に対する献金を含む基金と財産の管理・運用の権限を国務長官から、聖座財産管理局(APSA)に移管するとともに、財務事務局の監督機能を強化した。
【2020年‐】ウイルス大感染への対応・使徒的勧告「Querida Amazonia」そして回勅「Fratelli tutti」
2020年に最大の危機を迎えた新型コロナウイルス大感染に対して、教皇は絶え間ない祈りで、世界の信徒たちの側に立ち続けた。全世界は、3月27日に教皇が一人でなさった「Statio Orbis(聖体崇拝)」を忘れることがないだろう。人気のない、雨に濡れた聖ペテロ大聖堂前の広場。ウイルスの蔓延を抑えるために、その場に実際に参加する代わりに、信徒たちは、世界中に対してされた動画中継を通じて、教皇と心を合わせた。
教皇の水曜恒例の一般謁見、主日正午の祈り、そしてサンタマルタの家での朝のミサも、しばらくの間、インターネットの動画中継で行われた。
2月に、教皇就任後5つ目となる使徒的勧告「Querida Amazonia(愛するアマゾン)」を発出された。2019年にバチカンで開かれたアマゾン地域特別シノドスの成果を集めたもの。
10月には、三つ目の回勅「Fratelli tutti(兄弟の皆さん)」を出された。この回勅は、このフランシスコの教皇職の顕著な特徴をさらに明確にし、教会と世界の人々に、兄弟愛と社会的友愛を呼びかけ、より良い世界を構築するために戦争を拒絶することを強調している。
【2020年】眼差しを”周辺”に向けた司牧訪問‐イラク
2020年は、イラクへの歴史的な教皇訪問を今年3月にするとの発表で締めくくられた。教皇のイラク訪問は歴史上初めて。コロナ大幹線の影響を受けて、外国訪問を15か月の休止した後、教皇は福音の光と美しさを世界にもたらそうとする視線を、「友愛と希望」が緊急に求められている”周辺”に向けた。
2013年7月に行われた教皇フランシスコとしての初の”外国訪問”は、移民・難民の中継地になっているイタリア最南端のランペドゥーザ島。教皇の移民・難民に対する強い思いが行動となった。教皇は、「すべての移民・難民は、何よりもまず、人間です」と繰り返し言明されている。そして、言葉だけでなく、行動でそれを実行される。ギリシャのレスボス難民キャンプに訪問された際には、12人のシリア難民をローマに連れて戻られ、彼らが助けを受けられるようにされた。
【教皇フランシスコに関係する統計データ】
教皇就任からこれまでに、フランシスコは、イタリア国内を25回、外国を33回訪問されている。一般謁見は340回以上、主日の正午の祈りは450回以上、サンタマリアの家での説教は790回近い。イタリア・オトラントの800人の殉教者を含む約900人の列聖。7回の教会会議を開き、新たに101人の枢機卿を任命した。
数々の特別年ー奉献生活(2015年-2016年)、聖ヨセフ(2020年-2021年)、そして、使徒的勧告「Amoris Laetitia(家庭における)愛の喜び」を学び直す年(2021-2022)ーを設け、特別の「日」も「祖父母と高齢者の世界デー」(2021年7月)などいくつも新たに作られている。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)
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