・カトリック信徒の香港メディア王逮捕、教皇は、教会は、どう対応(Crux)

(2020.8.13 Crux  SENIOR CORRESPONDENT Elise Ann Allen

ROME –今週初め、著名なカトリックの億万長者で香港メディア界の大物、黎智英(ジミー・ライ)氏が、香港国家安全維持法が禁止する外国勢力との共謀、陰謀を企てたとして、彼の子弟2人、同氏が運営するインターネットメディアの幹部2人とともに、香港警察に逮捕された。

 黎氏らは11日深夜に保釈され、社主を務める「蘋果日報」本社に戻ると社員や応援者たちから一斉に歓声が起こった。だが、今後起訴され、有罪判決を受けた場合、最高10年の懲役刑に処され、さらに「重大な性質」の罪を犯したと判断されれば、最悪の場合、死刑となる恐れさえある。

 72歳のカトリック信徒である黎氏は、中国批判で最も”悪名”高い香港の有力日刊紙「蘋果日報」を創立する前、ファッション・チェーンGiordanoの企業に成功し、財を成した。また、6月30日に発効した香港国家安全維持法や、それ以前からの中国政府・共産党の香港人に対する人権侵害、信教の自由の侵犯を厳しく批判することで多くの人から支持され、香港のカトリックのリーダーの支持者としても知られた存在だ。

 黎氏が支持する著名な人物の1人は、香港の名誉司教である陳日君・枢機卿だ。枢機卿は、中国本土でのカトリック信徒に対する迫害を公然と批判し、バチカンが中国政府と結んだ中国国内における司教任命に関する暫定合意に対しても、そうした迫害行為の容認につながるとして強く批判してきた。また、香港の民主化運動を資金面から助けてきた、と言われている。

 香港の教会のリーダーの一人である陳枢機卿は2005年に、黎氏から300万香港ドル(約38万7000米ドル)の寄付を受けたことについて話していた。日刊紙South China Morning Postによると、これを含めてこれまでの寄付の総額は約2000万ドルにのぼるが、その用途について、枢機卿は、「教皇に忠誠を誓い、中国政府・共産党の管理・統制を受けることを拒否する中国本土の”地下教会”」に対する支援、司祭たちを勉学のためにローマに送ったり、枢機卿自身が教皇に会いに行くための旅費などに当てられている、と説明したという。

 最近のいくつもの新聞などとのインタビューで、陳枢機卿は、香港の民主活動家など人権を守ろうとする人々には「奇跡」が必要なこと、自分自身は香港国家安全維持法で逮捕される用意ができていること、そして、この法律は「香港における民主主義と自由の終焉を意味する」と語っている。

 枢機卿はCruxとの先月のインタビューでも、新法は「すべての終わり」であり、香港は今、「中国の他のところと同じになった。一国二制度を定めた香港基本法は終わりました」と述べていた。今回の黎氏の逮捕については、コメントを拒否した。

 香港のカトリック教会のもう一人のリーダーである香港教区の使徒的管理者、湯漢・枢機卿は、教区の週報で「香港国家安全維持法が信教の自由への脅威になるとは考えていない」と短く述べる以外に、同法の施行とその後の中国政府や香港当局の動きについて、公の声明などを出していない。また、湯枢機卿の先の短い発言の後、陳枢機卿は、「湯枢機卿が中国当局をなだめるためにそうした発言をしたが、それは彼自身の本当の立場を反映したものではない」との見方を示した。

 これまでのところ、カトリック教会の香港のリーダーで、国家安全維持法と香港にとって意味について、新しい安全保障法とその香港への影響について語るカトリック指導者は、湯枢機卿と陳枢機卿の2人だけだ。そして、陳枢機卿は、国家安全維持法の危険性を訴え、あるいは昨年来の香港住民への締め付けなどについて批判し続ける一方で、教皇フランシスコが香港問題に沈黙を続けていることについても批判してきた。

*香港国家安全維持法を強く批判する国連人権高等弁務官との会見で、教皇は何を語ったのか?

 その教皇フランシスコは12日、ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官と会見した。バチェレ高等弁務官は香港国家安全維持法が施行される直前の6月に、「香港に対するいかなる新規の安全維持の法律も「国際的な諸協定に基づく人権を守る義務を、完全に遵守するものでなければならない」とする声明を発表したが、これに中国が強く反発、ジュネーブの中国・国連代表部は声明で「高等弁務官の言明は中国の主権と内政問題への干渉であり、国連憲章の目的と原則に違反する」と反論していた。

 こうした経過から、教皇と高等弁務官の間でどのような意見が交換されたか注目されたが、この会見は非公開で行われ、その内容も公表されていない。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年8月13日