・「偉大な母なるロシア…」の教皇発言に、ウクライナのギリシャ・カトリック司教団が「私たちに大きな痛みを与えている」と抗議(CRUX)

(2023.9.8  Crux  Senior Correspondent  Elise Ann Allen)

    「戦争の犠牲者への司牧的支援」をテーマにしたギリシャ・カトリック司教協議会連盟総会が13日までローマで開かれているが、教皇の平和特使、イタリア司教協議会のマッテオ・ズッピ枢機卿が8日、総会に出席中のウクライナ司教団(UGCC)と会見、ロシアとの戦争における「勝利」は、「平和であり、敵の自尊心を奪うことではない。そうすることは、将来の敵意と敵対行為につながる」と述べた。

 この会見は、先日、ロシアのカトリック「青年の日」の会合にビデオ参加した教皇フランシスコがプーチン大統領が信奉するピヨートル大帝などを讃える発言をして、ウクライナはじめ世界的に物議を醸している中で行われた。教皇はロシアの若いカトリック信者たちに「偉大な母なるロシア」を称賛し、「ピョートル1世、エカチェリーナ2世の大ロシア、その偉大な啓蒙帝国」を称賛していた。

 この発言に対して、関係者間に、「教皇は、ロシアの『帝国主義プロパガンダ』を反芻している」と非難の声が上がり、ギリシャ・カトリック教会のウクライナ司教協議会会長、スビアトスラフ・シェフチュク司教も「教皇の言葉は、私たちに大きな痛みと懸念を引き起こした」と声明を発表するなど、ウクライナの人々や教会当局も強く反発している。

 これに対し、ズッピ枢機卿は、直接答えるのを避けつつ、2017年に亡くなったキエフ・ハリチの元大司教であるルボミル・フサール枢機卿を「偉大な霊的権威を持った方だった」と讃えたうえで、彼の言葉を引用する形で「私たち全員が、完全な意味で人間のように振る舞えば、真の最終的な勝利が可能になる。そうでない勝利は部分的または想像上のものであり、真の平和につながることは決してない」と述べた。

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 教皇は、物議を醸している発言の後、モンゴル訪問からの帰途の機中記者会見でこの問題について質問され、「私がそのような発言をした時、『帝国主義』は頭になかった。頭にあったのは『文化』でした。そして『伝統と文化』は決して『帝国主義』ではありません」と釈明したうえで、「世界には、自分たちのイデオロギーを押し付けたい帝国主義者がいます。文化が”蒸留”されてイデオロギーになるとき、毒になります。私たちは(このようなイデオロギーと文化を)区別する必要があります。ロシアの文化も、政治のために否定されてはなりません」と語っていた。

 この問題は、教皇が9月6日にUGCCの司教たちと会見した際にも取り上げられたが、会見後のバチカン広報の説明では、詳細なやり取りは明らかにされず、モンゴル訪問からの帰途の機上会見での教皇の言葉が繰り返されたことにとどまった。

 一方で、UGCCが発表した声明では、教皇と「率直な会話」をしたが、「ウクライナ国民の痛み、苦しみ、そしてある種の失望」を伝えた、とし、「ウクライナと世界中の私たちの信者が教皇に伝えたい言葉を私たちに託し、そのすべてのことを教皇に伝えた… その中には、教皇の特定の振る舞いや発言は『現在、尊厳と独立のための闘争で血を流しているウクライナの人々にとって、痛みであり、苦しみだ』との一部の司教の声を含まれている」と明言。

 声明はさらに、「ロシアのウクライナ軍事侵攻が始まって以来、バチカンとウクライナの間に”誤解”が生じており、これらの誤解は、ロシアのプロパガンダによって『ロシアの残忍なイデオロギー』を正当化するために利用されている」と指摘し、「私たちの教会の信徒たちは、真実と正義の普遍的な声であるはずの、教皇のすべての言葉に対して敏感に反応している」としたうえで、「教皇は、『殉教の次元』を体験しているウクライナの人々の側にいると表明されてが、それは十分に伝わっていない… 私たちは教皇に、戦争に直面し続けるウクライナの人々がしばしば経験する無力感を伝えた、と述べている。

 また、ウクライナの司教団は、教皇との会見で、昨年11月にロシア軍によって逮捕され、いまだに拘留されているイワン・レヴィツキー、ボフダン・ハレタ両神父の釈放を実現するための努力を続けてくれるよう求め、十字架や祈祷書、ロザリオなど二人の私物の一部を教皇の渡した。これに対し、バチカン国務長官のパロリン枢機卿は「二人のために祈っています」と述べるとともに、バチカンにとって現在の優先事項は、捕虜交換とロシアからのウクライナの子供たちの帰還の実現であり、これはズッピ和平特使がキーウとモスクワを訪問した際にも取り上げられている、と説明した。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2023年9月11日