・「動画配信ミサは有益。だが本物のミサに代わるものではない」と典礼専門家(Crux)

(2020.5.9 Crux National Correspondent Christopher White)

A priest celebrates Mass at a church in Herk-de-Stad, Belgium, April 2, 2020. (Credit: CNS)

 ニューヨーク発ー新型コロナウイルスの世界的な大感染の中で迎えた今年の聖週間に、バチカンがインターネットやテレビで動画配信する典礼を視聴するカトリックの信徒たちが急増した。視聴者数は昨年の150万人から今年は550万人と三倍近くに増え、世界各地の教会でも、公開ミサの代わりに”バーチャル・ミサ”を余儀なくされたことで、同じような傾向がみられた。

*”ニュー・ノーマル”に苦闘する司祭、信徒

 だが、現代の技術が、多くのカトリック教会をオンラインのロザリオの祈り、動画配信による礼拝、テレビ放映されるミサへ移行させる中で、司祭や信徒たちは、そうした”ニュー・ノーマル(新たな常態)”に適応するのに悪戦苦闘している。

 現実のミサー言葉の祭儀、聖変化から聖体拝領に至るまでーに与ることに慣れている信徒にとって、それは突然の変化であり、テレビやオンラインを通じてミサを視聴することでー第二バチカン公会議の用語を使えばー「完全に、意識と行為で参加」することができるか否か、について、神学者の間で意見が分かれている。

 「もしも、『The Crown』(英女王エリザベス2世の治世を描く米英合作の人気テレビドラマ)の最新シーズンを一気に見ているのと同じ態度で、テレビ中継のミサを視聴するなら、それは実際にミサに参加したことにはならない」と語るのは、米ノートルダム大学典礼センターのティモシー・オマリー学術担当局長だ。

*動画配信ミサを”見物”するのではなく”参加”することが重要

 「もちろん、実際のミサに、見物人として参加し、素敵な音楽を聴いたり、友達と会ったりしたいというなら、これもミサへの理想的な参加ではありません… しかし、テレビでミサを『視聴する』ことは、具体的な礼拝の行為を伴うミサへの参加となります。ミサにおいて、私たちは、立ち、座り、神を賛える声を上げ、そこにおられるキリストの前にひざまずく必要があります。自宅で、それができるし、すべきです。(注:ミサが始まる時)立って、祈りを唱え、聖歌を歌い、着席し、注意深く神の言葉に耳を傾けることができます」と語る。

 さらに、「現在、私たちは、厳密にいえば『聖体祭儀』に参加していません。それでも、私たちはひざまずくことができます。妻と私は、テレビの前ではなく、自宅の十字架の前でひざまずくことをしています。私たちは、十字架につけられ、よみがえられた主の臨在の前にひざまずくのです」と述べ、積極的な参加の現実としての行為は「常に、内的、外的活力の調和」である、と付け加えた。

 米エール大学神学部で典礼学とカトリック神学を教えるテレサ・バーガー教授も、同じ考え方だ。

 「インターネットを通じたミサに信仰と献身をもって参加する人は、そのミサに参加しています。たとえ、ミサへの参加の形が、インターネットを使わない通常の聖堂におけるミサへの参加と違っていても、です」と語り、さらに、「聖堂でのミサに参加していることが、積極的に参加していることを保証するものではありません… 結局のところ、ミサに参加する人は他の人々と単に同じ空気を吸っているだけで、心と精神はどこかでまったく違っているのです」と、従来のやり方で、形だけミサに参加することの問題を暗に指摘している。

*実際のミサへの参加と動画配信を同一視しないように

 これに対して、アウグスチヌス修道会が経営するビラノーバ大学のマッシモ・ファジオリ教授(神学専攻)は、”インターネット・ミサ”に、慎重な態度をとっている。 「一般信徒がインターネット・ミサを視聴する時、実際にはミサに参加していない。これは、信徒たちにとって問題であるだけでなく、ミサそのものにとっても問題です… カトリックの典礼神学によれば、人々は司祭と共にミサを捧げます。人々がその場にいることができないなら、何かが欠けているミサになります」と指摘し、「聖職者は、『人々が実際に参加しないミサが、参加するミサと同じ』だ、という印象を与えるべきではありません」と述べた。

 1969年に発行されたバチカンのミサ典礼に関する一般指針では、「正当かつ合理的な理由のある場合を除いて、聖職者ないし少なくとも信徒1人の参加なしに、ミサが行われるべきではない」としている。これは、ミサの効果が薄らぐ、ということを意味しない。

 ファジオリ教授は、インターネットを通じて行われる通常の主日のミサとバチカンにおける列聖のためのミサ、あるいは教皇のための葬儀ミサは区別する必要がある、としたうえで、場合によって、行事の例外的な性質がインターネットあるいはテレビを通じで行うことが、実際のミサに代わる唯一の方法だ、ということもありうるが、それでも、「最近のインターネット・ミサへの突然ともいえる移行が、ミサについての考え方で自己満足をもたらすことになってはなりません」と慎重な判断を示した。

*動画配信によるミサへの参加の意味が理解されていない

 また、教授は「私の印象では、多くの場合、インターネット・ミサの導入には多大な努力がなされてが、それが何を意味するのかが、理解されていないようです… それは、インターネットを使って学生に教えている教授と同じ。実際の教室で教えることを、”バーチャル教室”で行うことには、典礼的に難しい側面があるのです… 典礼祭儀はミサと同義だ、と多くの人が信じる、という問題が大きくなっている。一般信徒は、司祭の助けを得ずに、家庭での典礼祭儀で、聖書を使って、何が出来るのかについて、しっかりと教えられる必要があります」と強調する。

 ただ、教授は、信徒の参加無しのミサとは異なるが、適合した祭儀を通して慰めの源となるものを提供している。「聖アウグスティヌスが語っているように、私たちの人生を賛美の歌にすることなく、詩篇で神への賛美を唱えても、十分とは言えない… 新型コロナウイルスの大感染の今、賛美の歌で、全てのキリスト教徒が皆、参加するための、十分な機会があります。それが、テレビでミサを視聴することさえも、大感染で引き起こされている悲しみ、悲惨、孤独、そして恐怖に対処するために必要だ、と多くの人が感じる理由ではないでしょうか」。

 1948年のクリスマスに、パリのノートルダム大聖堂から深夜ミサがテレビを放映されて以来、通信媒体の使用についての議論が続いている。

 エール大学のバーガー教授は「ミサのテレビ放映された時の、神学者たちの最初の反応は、明らかに否定的なものでした… 彼らの一部は、テレビで何かを見ることの意味を理論化する、時代遅れのやり方に依存し、テレビによるミサの視聴は『単なる受け身的で非参加的なもの』と理解しました」と説明する。

*今の時期に「霊的聖体拝領」に意味がある-公開ミサ再開に備えながら

 多くのカトリック教徒が、現在の公開ミサ中止で、聖体拝領が出来なくなっていることを嘆いているが、オマリー局長は「カトリックの歴史では、聖体拝領が定期的にできるのは稀なことだった、というのを知るのが重要です」とし、「14世紀には… 毎週、聖体拝領をできるのはわずかな人だけでしたが、多くの人は、視覚による交わり-つまり、しばしば祈りを共にしながら、主宰者に目を注ぐことーで、聖体を”受け”ていました。それが、『本当』の霊的交わりだ、と考えられていた」と指摘。

 さらに、「現在の信徒たちが”14世紀”に戻る必要はありませんが、聖体拝領が無くても、信徒たちが聖体の実りから切り離されない、ということを、忘れないのが重要です」と強調。「霊的な聖体拝領は、キリストの体を食べ、血を飲むことと関係しています… 現在のように、体を食べ、血を飲むことができない場合、霊的聖体拝領がミサの果実を受ける一つの方法になりますー子羊の食卓に、再び与ることのできる素晴らしい日に備えながら」

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年5月11日