・「新型ウイルスで閉じられた教会は未来への警鐘-抜本改革なければ破滅」とチェコの世界的神学・哲学者(La Croixs)

future of closed churches during coronavirus | Tomas Halik
Mass being celebrated at the Church of the Nativity of Christ, North Rhine-Westphalia, Cologne, because of the coronavirus pandemic. (Photo: Federico Gambarini/DPA/MAXPPP)

(2020.5.1 La Croix Christa Pongratz-Lippitt)

 世界的に著名なチェコの神学・哲学者、トマス・ハリック神父がこのほど、ドイツの有力紙Die Zeitの別刷り宗教面に論文を載せ、新型コロナウイルスによる教会の公開ミサ中止などは、「カトリック教会の未来への警鐘」と受け取るべきもの、とし、改革の努力を怠るなら、現在の大感染が終わった後、「閉じられた教会」がさらに増えていくだろう、と警告した。

 「私たちは、世界の多くの国の教会、修道院、神学校から人が姿を消し、閉じられ続けている現況を目の当たりにすることで、警告を受けているのではないでしょうか」と 2014年に「宗教界のノーベル賞」と言われる「テンプルトン賞」を受賞した71歳のハリック教授は、世界の信徒、司祭たちに問いかけた。

 

*”空の教会”を外部要因のせいにしてはならない

 そして、さらにこう問いかけた。「なぜ私たちは、『世俗主義の津波』のような外部要因ばかりを非難し続け、キリスト教の歴史の一つの章が終わりに近づいており、次の章に備える必要があることを認めないのでしょうか?」。

  チェコスロバキアと呼ばれていた国が過酷な共産主義独裁政権下にあった1984年に司祭叙階したハリック師は、そうした自身の経験を背景に、「教会は、教皇フランシスコが望んでおられるように『野戦病院』であるべきです」と語った。

 そして、「そこで教皇が意味されているのは、教会が、世界の現実から離れて、安楽な『光栄ある孤立』にひたっていてはならない、自分自身の限界を飛び越え、肉体的、心理的、社会的、精神的に傷つけられている人々を助けねばならない、ということなのです」と強調。

 そして、それは、国や組織の代表者たちが人々、最も無防備な人々さえも苦しめるのを許してきた、という事実に対する償いから始めることになる、と付け加えた。

 

*教会がすべき新たな貢献-社会の病理を診断し、予防し、社会復帰させること

 ハリック師は、これからの教会がなすべき仕事として、「これまで行ってきた社会への医学的、社会的、慈善的な貢献に加えて、さらに新たな貢献の道を進む必要があります。すべての良い病院のように、そのための(注:社会の病理の)原因究明も、それに含まれます」と述べた。

 さらに、恐れ、憎しみ、大衆迎合主義、民族主義という”死を招くウイルス”に対する”予防接種”を社会に行うことを目的にした「予防医学」の提供、過去に受けた”精神的外傷”を赦しによって癒す”リハビリ”への貢献も含まれる、と指摘した。

 

 

*「福音の心」に立ち戻れ

 新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために公開ミサの中止など”空”になっている教会は、「キリスト教のこれまでとは全く異なる姿を世界に提示できるよう真剣に努力しなかったら、教会の未来がどうなるか」を象徴的に示しているようだ、とするハリック師はこう言明した。

 「私たちは、世界、つまり”他の人々”が変わらねばならない、と思い込み過ぎ、自分自身が変わらねばならない、と考えたことがない… それだけではありません。『自分自身を善くするにはどうしたらいいか』、そして何よりも、『”静的”ではなく、”動的”なキリスト教徒になるにはどうしたらいいか』について考えるのに失敗したのです」。

 そのうえで、師は「新型ウイルス大感染とそのために教会が閉められている今の時間を、教会改革について深く考えるために使う」ことを提案した。「今や存在していない世界、あるいは外的構造の手直しで済むような世界に立ち戻ることはできません。そうではなく、福音の核心的なメッセージ、教皇フランシスコがいつも言われている”求め”に決然として応じようとする、徹底した改革をせねばならない」と訴えた。

 

*”新しいぶどう酒”を追求する者となれ

 現在、チェコの首都プラハのカレル大学(1348年神聖ローマ皇帝カール4世によって創立されたチェコ屈指の最高学府。設立者のゆえに「ドイツ語圏最古の大学」とされている)で社会学の教授を務めているハリク師は、社会学の調査研究によれば「伝統的な宗教に親しみを感じる人が減り、確信的な無神論者も少なくなる一方で、”探し求める人”や宗教に無関心な人が増えている」と指摘。”探し求める人”は信仰を持っている人にも持っていな人にも見られ、彼らは「生きがいや、人生の意味についての渇きを癒す源への渇望を感じている」と言う。

 そして、今や、そうした”探し求める人”の時が来たのだが、それは、キリスト教徒が宣教活動をやめねばならないことを意味する。師は「これまでのように、彼らを性急に”改宗”させ、教会の既存の制度や精神的な制約に閉じ込めようとしてはなりません」とし、イエスが、迷える羊たちを当時のユダヤ教の既存の制度のなかに連れ戻すことはなさらなかった。それは、「新しいぶどう酒は、新しい革袋」に入れる必要があることを、イエスがご存じだったからだ、と説明した。

 最後に、「キリスト教のコミュニティ、小教区、様々な活動体、修道会は、かつて欧州の諸大学-自由な論争と深い考察を行う知恵の学校-の創設を導いたのと同じ目標を達成するよう努めるべきです… 私たちの病んだ世界を癒す力は、そのような霊性と対話の場から生まれ出てくるでしょう」と論文を締めくくった。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2020年5月4日