中国の新疆ウイグル自治区のイスラム教徒に対する人間の尊厳を踏みにじる中国共産党の”犯罪リスト”に、「大量不妊化」が新たに加えられることになりそうだ。
中国・新疆ウイグル自治区の”再教育キャンプ”の研究で知られるドイツの人類学者、エイドリアン・ツェンツ教授が Jamestown Foundationが出版した研究報告書の中で明らかにしたところによると、中国政府がウエブサイトで公表しているデータをもとに分析した結果、2013/14年から2019年のわずか5年の間に新彊ウイグル自治区の人口の増加率は10㌫前後から3㌫に急落。中でも、ウイグル人イスラム教徒が多く住む南部のホータン、カシュガルでは15パーセント前後から2パーセント以下まで落ち込むとみられる。
ウイグル人イスラム教徒の女性たちが不妊手術やIUD(子宮内避妊器具)の装着など、過酷な産児制限を強制され、これが出生率の急激な落ち込みとなって表れているとみられる、という。
(新彊ウイグル自治区、特に南部で人口増加率が劇的に落ちている=出典:Adrian Zenz / The Jamestown Foundation)

これは、中国政府・共産党が40年にわたって続けてきた「一人っ子政策」の結果である全国平均の増加率5パーセントをも大幅に下回る数字だ。
2005年から政策が緩和され、この地域では2人ないし3人の出産が認められたが、2016年から中国政府・共産党によるウイグル人イスラム教徒への弾圧が強まり、「職業訓練キャンプ」という名の強制収容・思想改造所が設けられるに至って、人口増加率は低下傾向となっていた。
だが、最近の急激な人口増加率の落ち込みは、「キャンプへの収容」だけでは、その理由を説明できず、ツェンツ教授がさらにデータを丹念に分析し、情報収集に努めたところ、2019年にタクラマカン砂漠の最南端にあるゴマとホータンの都市で、膨大な数のウイグル人女性を不妊にするための巨大なプログラムが実施されていたことを突き止めた。この時期のこの地域での不妊手術は全国平均の何と143倍と、異常ともいえる高さになっており、人口増加率の急減に繋がっていることが分かった。
(10万人当たり不妊手術者数の全中国平均と新疆ウイグル自治区の比較=出典⊡同上)

また、出産年齢のすべての既婚女性の14から34パーセントは1年以内に不妊手術を受け、原則として3人以上の子供を持つ女性には不妊手術の対象となる。地方当局は、中央政府の計画実施命令をしっかりと守る義務を課せられており、「命令に従わなければ、自分たちが困ったことになるのを知っていた」という。
(ホータンとピシャンでの不妊手術は中国の他地域の148倍に=出典:同上)
現地当局が課せられた目標は、対象女性の80㌫が不妊手術かIUDの装着を受け入れることで、3か月おきにチェックしさらに1か月おきに妊娠の有無をチェックする。「狙いは、新疆ウイグル自治区の人口増加を抑えることにある」とツェンツ教授は結論付けている。
こうした措置は、習近平国家主席のウイグル人に対する基本計画に基ずくものだ。2019年11月にChina Cablesが特報した、100万人以上のウイグル人イスラム教徒の収容所への収監、”再教育”は生活習慣にまで及び、産児制限に違反した者の処罰も。
新型コロナウイルス感染拡大が止まるか止まらないかの3月に中国国内の工場操業が再開され、数万人とみられるウイグル人イスラム教徒が収容所から全土の工場に送り込まれた。そして、習近平が進める貧困撲滅の旗のもとに、「漢民族のご主人様」のために働かされている。
そして、親たちが工場で働かされている間、子供たちは”介護”され、文字通り”揺り籠から墓場”まで監視下に置かれ、監視の行き届かない村は町が急激に減っている。
このツェンツの報告書は、国際社会が人権弾圧を進める中国政府・共産党に反省を求めるため、ウイグル人自身のか弱い声を助ける呼びかけだ。
国外追放されたウイグル人たちの一部が2020年4月からツイッターを使った「#Can you聞こえますか?」運動を始めた。現地の親族や友人に関する情報を集め、発信している。これまで豊かで幸せな暮らしをしていた親族が突然、姿を消した、という告発ドキュメントも流している。
こうした新疆ウイグル自治区における人権弾圧について、極めて多くの途上国は、中国対する多額の債務などで、あるいは”気前”のいい援助を駆使した外交の前に、口をつぐんでいるが、人権にうるさいはずの欧州諸国も、経済的恩恵をうけていることから、発言に消極的だ。WHOは言うに及ばず、国際機関に多くの”人材”を送り込み、中国に都合のいいように動かそうとしている。
今回の新型コロナウイルスの世界的大感染では、中国・武漢から感染が始まったにもかかわらず、WHOなどを使って、国内での感染拡大の公表と対策を遅らせ、世界にウイルスをまき散らした責任をうやむやにするどころか、中国を危機克服のモデルとして売り出し、途上国にマスクなどを大量に届けるなど、”危機”を”チャンス”に変えようとしてきた。
だが、そうした裏で、中国政府・共産党が進めているウイグル人イスラム教徒に対する不妊手術の強制などによる人口削減計画が、今回の報告書で、データを持って裏付けられた。
Bitter Winter の取材に対して、イスタンブール在住のウイグル人難民の女性は 「報告書で明らかにされた分析結果は、新疆ウイグル自治区で起きている”大量虐殺”を裏付けています」と語った。 「中国政府は私たちと私たちの文化を殲滅することを決めているのです」。別のウイグル人難民の女性は「妊娠した時、すでに3人の子供がいました… でも中絶はしたくない。自宅と離れた村の親せきの家で出産し、自宅に赤ちゃんを連れて戻った時、当局に『妹の赤ん坊だ』と主張しましたが、認められませんでした」。結局、その娘は当局に取り上げられ、共産党の孤児院に入れられてしまった、という。
新疆ウイグル自治区南部でBitter Winterがインタビューした人々から、中国共産党がとった酷い措置が次々を明らかにされた。地域の診療所では妊娠チェックが頻繁に行われ、人々は、強制的な中絶による”静かな大量虐殺”とともに暮らしてきた。
そうした中で、4人目の子供を妻が妊娠した時、妊娠中絶の手術をすることができなかったある医師は、子供が当局から見つかるのを恐れながら日々を送っている、と語った。子供たちと一緒にいる時に、警察の監視の手が伸びると、恐怖で凍り付く、という。診療所が閉鎖され、子供たちが連れ去られ、「再教育」のためにキャンプに送られる… 国際社会が、今、新疆ウイグル自治区で起きていることをもっと知ってほしい、とここから望んでいる。
(新疆ウイグル自治区のウイグル人の子どもたち―誰が彼らのために声を上げてくれるのか= Ruth Ingram撮影)
(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)
*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。