・ドイツの”シノドスの道”ー教会改革をめぐる論争で、バチカンが独司教団を”掌握”(CRUX)

(2024.3.23 Crux  Senior Correspondent Elise Ann Allen)

 ローマ発 – バチカンは22日、ドイツの司教団と丸一日かけた協議を行った後、「ドイツの司教団が、自国での教会改革を教会法に沿ったものとし、バチカンの承認なしに進めないことを約束した」と発表した。

 22日の協議には、バチカンからピエトロ・パロリン国務省長官、ビクトル・フェルナンデス教理省長官、クルト・コッホ・キリスト教一致推進省長官、 ロバート・プレボスト司教省長官、アーサー・ローチ典礼秘跡省長官フィリッポ・イアノーネ法制省長官が出席。

 ドイツ司教団からは、ゲオルク・ベツィング司教協議会会長はじめ、典礼、召命、教会奉仕、司牧、万国教会、信仰を担当する枢機卿や大司教が出席した。

 同日夜に発表した声明によると、バチカンの関係省とドイツ司教協議会(DBK)の代表が同日朝から協議を続け、「ドイツ教会で物議を醸している”シノドスの道”の取り組みや、一般信徒を教会の重要事項を決める協議機関に参加させるなどの改革」を巡って2022年に始まった両者の対話プロセスを継続することで合意した、としている。

 そして、「丸一日続いた今回の協議は、前向きで建設的な雰囲気の中で行われた」としたうえで、協議では、「ドイツの”シノドスの道”で出された文書で提起されたいくつかの未解決の神学的問題」が「霊における対話」のなかで話し合われ、「昨年10月のシノダリティ(共働性)に関する世界代表司教会議総会(シノドス)第一会期の総括文書で採用された方法」に従って、意見や視点の「相違と収束」が確認された、と述べた。

 さらに、第二バチカン公会議の教会学、教会法の規定、およびその成果に準拠して、ドイツの教会も、世界的な”シノドスの道”に参加し、バチカンの承認を得ることを前提に、ドイツ教会としてのシノダリティを目指す具体的な方法を特定することを目指すことを、ドイツ司教団が約束した、としている。

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 22日の協議は、今年初めにバチカンが、ドイツの司教団に対して、ドイツ教会が予定していた司教と共に一般信徒が参加する「シノドス委員会」の発足に必要な規約に関する投票を中止するよう命じ、従わなければ教会法に基づく措置をとる、と警告したのを受けて開かれた。

 今月に入って開かれたドイツ司教協議会(DBK)総会には、約60人の司教が出席し、最近、一般司祭、一般信徒などとの間で合意された”シノドスの道”に沿った教会改革の進め方について協議。 新しい全国的な「シノドス評議会」を設立する任務を負った「シノドス委員会」の規約についての投票を予定していたが、バチカンの警告を受けて投票を見送った。

 司教と一般信徒で構成され、ドイツの教会の基本事項の決定機関となる「シノドス評議会」構想は、2022年9月のドイツの”シノドスの道”第4回総会で、2026年までに実現することで承認され、その具体的な準備のためのDBK会長と一般信徒代表が共同議長を務める「シノドス委員会」の設置も基本合意されていた。

 これに対して、バチカンの主要省の長官は今年1月、シノドス評議会が「正典で認められていない新しい形の教会の権威となるものであり、本質的に国家司教の権威を奪うことになる」として、ドイツ司教団にこれを認めないよう求める書簡を送った。ドイツ司教団は、当初、この警告を無視し、今月のDBK春季総会で、「シノドス委員会」の設立計画を進めることを表明していた。

 ドイツのカトリック教会は以前から、聖職者による性的虐待と高位聖職者による隠ぺいなど不適切な対応が相次いだことなどで、信徒の間に不信が高まり、教会を去る信徒が年間50万人近くに上っている。こうしたことに強い危機感を抱いた司教団は、教皇フランシスコが”シノドスの道”を始める以前から、信徒と共に歩む抜本的な教会改革に着手し、司祭の独身制廃止、女性の司祭叙階、同性カップルの祝福を広く承認し、女性に洗礼を施す権限を与える、などを検討課題に載せた。だが、バチカンは、こうした動きを行きすぎた取り組みとして繰り返し警告。

 2019年、教皇フランシスコはドイツの司教団に書簡を送り、ドイツの教会改革の進め方は、「教会の結束を引き裂く危険がある」と警告。さらに、教会改革の進め方に批判的なドイツの神学者に宛てた2023年11月の書簡で、「シノドス委員会」と「シノドス評議会」の設置計画を「教会の秘跡構造と調和できない」と注意していた。

 「シノドス評議会」に関するバチカンの懸念の一つは、教会法で認められていない新しい教会統治機関となり、実質的に司教協議会の権限を奪うことになること。議題の可決は、投票総数の 3 分の 2でなされるとされており、 委員会の委員定員70人のうち過半数が一般信徒で占められているため、理論的には司教団の承認なしに重要事項が決定される可能性がある。

 バチカンの22日の声明は、「シノドス委員会」をめぐる”大騒動”を受けて、バチカンが強硬な路線を引き、ドイツの教会改革は教会法に違反しないこと、バチカンの事前承認なしにいかなる措置もとらないことを、ドイツ司教団に確約させたことを暗示している。

 両者による今後の協議は夏前に行われる予定だが、具体的な日程は明らかにされていない。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年3月28日