・(総括文書解説)”コンセンサス”を追求、争点のある問題は”弱音ペダル”で総会を終える(Crux)

(2023.10.28 Crux  Senior Correspondent  Elise Ann Allen

ローマ 発– 教皇フランシスコが主宰する1か月にわたる「シノダリティ(共働性)に関するシノドス総会がまとめた総括文書で、注目を集めている問題について、明確かつ具体的な提案はなかった。だが、あるバチカン当局者は28日の夜、「十分で説得力のある合意」を模索した結果だ、と説明した。 」

 「教会の識別力は、聖霊が教会をどこに導いているのかを理解するために相互に耳を傾けることに基づいており、『コンセンサス〈総意)』という基準によっている」と、シノドス事務局長のマリオ・グレック枢機卿は語った。彼の言う「コンセンサス」の結果、総括文書では、女性の司祭叙階、女性助祭、LGBTQ+コミュニティの受け入れ問題に関する今総会の立場は示されなかった。いずれも、今総会の討議の中で出て来たものだった。それよりも、総括文書は、女性の地位の向上や疎外されていると感じている人々の受け入れでさらなる行動を取る必要性は明確にされたが、具体的な提案は示されていない。

 総括文書は42ページで、本文は「the face of the synodal church(シノダルな教会の顔)」「all disciples, all missionaries(すべての人は弟子、すべての人は宣教師)」「weave bonds, build community(絆を紡ぎ、共同体を築く)」の3部に分かれており、最後に「道を歩み続けるために」という章が続いている。 各章は、「まとまった点」「取り組むべき課題」「今後への提案」に分かれている。

 女性について「女性が意思決定過程に参加し、司牧や奉仕において責任ある役割を担うことができるよう保証することが急務である」と総括文書は述べ、教皇フランシスコがバチカン内の要職に数名の女性を任命したことに言及し、「教会活動の他のレベルでも同様のことが起きるべきだ… 教会法はそれに応じて適応されなければならない」としたが、どのような変更が必要になるかについての詳細を含めて具体的な内容は何も述べていない。

 女性助祭の問題に関して、総括文書は明確な立場や提案を示さず、教皇が女性助祭について研究するために設立した2つの委員会によってすでに行われた研究を活用し、司牧的および神学的研究が「継続されるべきである」とだけ述べた。このテーマに関するさらなる研究の結果は、来年の最終会議で発表されるべきだ、と総括文書は記している。

 総括文書では、 聖職者主義、「排外主義」、権力の乱用が教会の証しと交わりに損害を与えていることが指摘され、性的スキャンダルや経済的スキャンダルの影響も取り上げられたが、女性に関して解決すべき「課題や問題として」語ることを避け、むしろ「神の計画の深さを、より深く理解することを目的として男女が対話する教会」を推進する必要性を強調している。

 修道女の搾取についても言及されており、彼女たちが、しばしば”低賃金労働者”とみなされ、賃金はほとんど、あるいはまったく払われずにいる修道女の問題に取り組む必要がある、とし、 司祭の養成および神学研究プログラムにさらに多くの女性を参加させるように、との呼びかけもされている。

 注目すべきは、LGBTQ+コミュニティへの言及が繰り返し行われ、同性に魅力を感じる人たちをもっと積極手に受け入れる方法を見つける必要があるにもかかわらず、「homosexuality(同性愛)」や「same-sex(同性)」といった言葉にまったく言及されていない、ということである。 同性カップルへの祝福の問題は今総会前に大きな論争の種となったが、「祝福」という言葉も総括文書には登場しなかった。この問題は、「性自認や性的指向、人生の終わり、困難な夫婦関係など」、「人工知能に関連する倫理問題」などの形で、”ベールに包まれた言葉”で取り上げられた。

 総括文書は、これらの問題は「新たな問題を提起するため、社会だけでなく教会でも物議を醸している」とし、これらの問題に対する現在の「人類学的カテゴリー」は「経験や経験から現れる要素の複雑さを捉えるには十分ではない…科学的知識をもとにした解明と研究が必要」とするにとどめている。

 また総括文書は、「人々と教会共同体を傷つける単純化した判断に屈することなく」、これらの問題を熟考するために必要な時間とエネルギーを捧げることの重要性を強調。 「さらなる解明が必要な場合でも、祈りと心の転換に同化したイエスの行動は、私たちが進むべき道を示している」と述べた。

 「教会で疎外されていると感じている人々」について、今総会での議論や準備要綱には「LGBTQ+コミュニティ」も含まれているが、文書では、こうした声に耳を傾けるには「無条件の受け入れが必要である」と指摘しつつ、受け入れは「救いの福音のメッセージを提示する際の明晰性を放棄することを意味するものではなく、また、いかなる意見や立場を支持することを意味するものでもない」と述べ、「聖書のイエスは、彼が無条件で話を聴いた人々に新たな地平を開いた。私たちもそうするよう求められている」と指摘した。 米国に本拠を置くLGBTQ+カトリック教徒の擁護団体New Ways Ministryは28日夜に発表した声明で、総括文書について「階層構造の現状を再確認しただけだ。失望させられた」と述べた。

 司祭の独身制の問題について総括文書は、この問題については、さまざまな意見が表明されているが、「預言とキリストへの適合の証しに満ちた(司祭の独身制)の価値を、誰もが高く評価している」と述べる一方で、「(聖職位階制の教会の)司祭の奉仕との神学上の利便性が、特に教会的、文化的背景の文脈の中で、それが難しさを増しているラテン典礼教会での規律上の義務に必然的に変換されなければならないのか、と疑問に思う人もいる」とし、「これは新しい課題ではない。さらなる検討が必要だ」と結論を事実上、先送りした。

 2021年10月に教皇フランシスコによって正式に始められた”シノドスの道”の歩みの仕上げとなるシノドス総会は、正式なテーマを「シノドス的教会のために:交わり、参加、使命」とし、今回の第1期に続く、来年10月の総会第2期でピークを迎える教区レベルから国レベル、そして大陸レベルと進んできた多段階のプロセスだ。

 この過程における議論で、 女性の司祭叙階、女性助祭、同性カップルの祝福などは、最も物議をかもした問題だったが、歩みの参加者の中には、これらの問題への取り組みを「感情的」だと表現する者もいれば、「西洋の強迫観念」だと主張する者もいた。また、今総会の直前には、数人の保守的な高位聖職者が、これらの問題への関与をめぐって、”シノドスの道”が分裂する可能性がある、と警告。 教皇は、これに対して、回答を発表し、その中で女性の司祭叙階の禁止を再確認しつつ、「研究の可能性はある」と述べ、同性愛者のunionには、一定の注意事項付きでケースバイケースで祝福されると慎重に扉を開いた。

  世界代表司教会議(シノドス)の歴史で、女性と一般信徒が初めて正式な議決権を持つ形で参加した、シノダリティに関する総会は今回の第1期に続いて開かれる来年10月の第2期をもって閉幕する。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2023年10月29日