・あと一か月余りで、「synodality(共働性)」の世界代表司教会議(シノドス)総会… 「冒涜法」問題にも耳を傾けるべきだ(CRUX)

(2023.8.20 Crux Editor  John L. Allen Jr.)

ローマ発 – あとわずか 1 か月余りで、ローマで”待望”のをテーマとする盛会代表司教会議(シノドス)総会が幕を開ける。

 「synodality(共働性)」は、教皇フランシスコが”シノドスの道”を提唱された当初から定義が難しいとされてきたが、一般には、「教会の皆が共に歩み、優先順位や方針を確立する際に、その構成員が互いの意見に耳を傾ける」という意味だ、とされている。

 これまでのところ、シノドス総会に関する論評の多くは、西欧の教会で論争の的となっている同性婚の祝福や女性助祭の叙階の是非に対して、「耳を傾ける」ことが何を意味するのかに焦点を当ててきた。 たとえば、”左”には「伝統的なラテン語ミサ」があり、右には「中絶反対の闘い」がある、といった具合だ。

 だが、世界の13億人の信者の3分の2以上が西洋文明の伝統的な境界線の外に住んでいる、という今日のカトリック教会の現実に照らしてみれば、西欧の教会以外のところで起きている問題も、少なくとも西側の重大問題として、「耳を傾ける」必要があるだろう。

 具体的に「冒涜法」の問題を考えてみよう。米国の Pew Research Center(ワシントンDCに本部を置く、米国や世界の人々の問題意識や意見、傾向に関する情報を調査する研究機関)の2022年1月の調査・分析によると、2019年の時点で世界の40%、調査対象となった198カ国のうち79カ国が冒涜や背教を禁じる法律を制定している。79か国には、欧州の 14 か国も含まれるが、最も多いのは中東と北アフリカ、つまり主にイスラム諸国だ。

 法律の施行状況は多岐にわたるが、アフガニスタン、ブルネイ、イラン、モーリタニア、ナイジェリア、パキスタン、サウジアラビア、ソマリアの少なくとも 8 か国では、「冒涜または背教の罪」で死刑になる可能性があります。 これらの国の人口は合わせて約 6 億人だ。だが、多くの国・地域で、冒涜や背教に課せられる理論上の法的刑罰は氷山の一角にすぎない。なぜなら、告発するだけで、”非国家主体による自警行動”を刺激するのに十分であり、その結果、通常は宗教的少数派 – 多くの場合、キリスト教徒を意味する―対して暴力やテロが引き起こされるからである。

 8月16日、「キリスト教徒の男性と友人がイスラム教の聖典コーランのページを切り取り、軽蔑的なコメントを書き込んだ」という噂が広まった後、パキスタンのファイサラバード市で、、これに怒ったイスラム教徒の暴徒が一連のキリスト教徒の家や教会を襲撃した。 地元のモスクの拡声器からイスラム教徒に報復を呼びかけるメッセージが流されたとも言われている。

 暴動の標的の中にはファイサラーバードのジャランワラ地区にある聖パウロ教会も含まれており、暴動中に放火された。 死者は出なかったものの、数人が負傷し、多数の人が自宅からの避難を余儀なくされた。 「警察が傍観して暴力行為を放置した」との訴えもあったが、当局は「そのような”自制”は事態のさらなる激化を避けるためだった」と釈明している。

 今回の暴動に対して、カラチのベニー・トラバス大司教は、「このような事件は、人口のわずか約1.5パーセントしかいないパキスタンのキリスト教徒が、『テロや恐怖にさらされる二級国民』であることを裏付けるもの」と批判。 パキスタンのカトリック司教協議会は、16日を「パキスタンの平和と調和のための祈りの日」と定め、善意を持つすべての人々に参加を呼びかけた。

 パキスタンのフランシスコ会・宗教間対話委員会のジャミル・アルバート委員長は「パキスタンのキリスト教徒は、絶え間ない恐怖、不安、ショック状態で暮らしています。暴動のあったファイサラーバードの被災地では多くのキリスト教徒がさらなる報復を恐れて自宅を離れ、路上や野原で寝ることを余儀なくされている」と訴えている。

 

 誤解のないように言っておくが、宗教的少数派を脅迫するために冒涜法が適用された最も悪名高い事例はおそらくパキスタンのものだろうだ、決してパキスタンだけ、というわけではない。 英国諜報機関MI6の推計を含むさまざまな推計によれば、世界中で少なくとも2億人のキリスト教徒が身体的嫌がらせや迫害の危険にさらされており、その多くは冒涜や背教が犯罪とされている国に住んでいる。

 冒涜と背教法の適用の状況を調査した関係者すべてが、それが本質的に欠陥のある主観的な行為になっている、と指摘している。個人またはグループにとって何が「冒涜」を構成するかは、別の個人またはグループとは大きく異なる可能性があり、それを法的に客観的に判断する方法は存在しない。

 冒涜と背教に関する法律が引き起こしている現象は、裕福な西側諸国のカトリック教徒にとっては直接的な関心事ではないかもしれない。西側諸国では、宗教的発言に対する最も一般的な世間の反応は通常、激しい怒りではなく、無関心だ。だが、冒涜法のような法律の性格と適用は、超法規的執行を含めて、今日の幅広い地域に住むカトリック教徒にとって、文字通り死活問題である。

 パキスタンのカラチの退任大司教で、以前はファイサラバード司教を務めていたジョセフ・クーツ枢機卿が、10月のシノドス総会に常任委員会のメンバーとして参加する予定であることが明らかになった。枢機卿は長年にわたり、冒涜法に反対する活動家として積極的に活動しており、「冒涜法が、あまりにも簡単に操作されて、”軸”を揺るがしたり、隠された議題を押し進めたりするものだ」と批判している。

 If the synod really wants to listen, in a truly global key, it could do a lot worse than to hear what Coutts and participants from similar neighborhoods might have to say.

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2023年8月21日