・「性転換者の受洗認める、同性愛者のカップルが代父母となることも条件付きで」バチカンがブラジルの司教に回答書(Crux)

Cardinal Víctor Manuel Fernández, Prefect of the Dicastery for the Doctrine of the Faith, right, receives his biretta from Pope Francis as he is elevated as a cardinal in St. Peter’s Square at The Vatican, Saturday, Sept. 30, 2023. (Credit: Riccardo de Luca/AP.)

(2023.11.9 Crux  Senior Correspondent  Elise Ann Allen)

ローマ発 – バチカンの教理省が、バチカン海外宣教研究所の会員でブラジルのサント・アマロ教区長のジュゼッペ(ホセ)・ネグリ司教から出されていた「教会の同性愛者に対する対応」に関する質問状に回答したことが、9日明らかになった。回答書は、教皇フランシスコと教理省長官のビクトル・マヌエル・フェルナンデス枢機卿が10月31日付けで署名、回答していた。

Vatican signals openness but also caution on transsexuals and baptism

 それによると、① transsexual individuals(性転換者=心の性と身体の性が異なるため、外科的手術によって一致させた人)は洗礼を受けることができる② transgender (心の性と身体の性が一致していない人)と同性愛者のカップルに受洗者の代父母となることにも慎重に扉を開く、との判断を示す一方、「『同性愛者のライフスタイル』は依然として罪深いものであり、それよりも適切な選択肢が考慮されるべきだ」としている。

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 質問状でネグリ司教は、①性転換者は洗礼を受けられるか②性転換者は受洗者の代父母になることができるか③積極的な同性愛のカップルは受洗した子供の親になることができるか④同棲中の同性愛者が子供の代父、代母や、結婚の証人にになることができるか―などに確認を求めていた。

 回答書は、「積極的な同性愛者のライフスタイルは依然として罪深く、スキャンダルの潜在的な根源であり、洗礼は可能だが、慎重さが必要」としたうえで、 「ホルモン治療と性別適合手術を受けた性転換者は、信徒の間で公のスキャンダルや見当識障害を引き起こす危険性がない限り、他の信者と同じ条件で洗礼を受けることができる」とした。また、transgender の子供や青少年の場合も、「十分な準備と意欲があれば」洗礼を受けることができる、との判断を示した。

 また、回答書は、性転換者が洗礼を受ける場合、「特にその人が置かれている客観的な道徳的状況や、恵みに対する主観的な性質に疑問がある場合」は、特別な考慮が必要、とも述べている。

 回答は「カトリック教会のカテキズム」を引用しており、人が「重大な罪」を後悔することなく洗礼を受けた場合、その人は「sacramental character(霊的なしるし)」は受けても、秘跡の「sanctifying grace(罪の清めの恵み)」は受けない—神学的に言えば、その人は洗礼を受けており、したがって恵みを受ける希望があることを意味する―としている。

 回答は、「正当な意向なしに」洗礼を受けた人は、「恵みへの障害」が取り除かれた時、その人はなお恵みを欲している、という聖トマス・アクィナスの言葉とともに、 聖アウグスティヌスの言葉—「たとえ人が罪に陥ったとしても、キリストは洗礼で受けた人格を破壊せず、その人格が刻印されている罪人を引き寄せようとされる」を引用している。

 また、教皇フランシスコの使徒的勧告「Evangelii Gaudium(福音の喜び)」も引用。その中で教皇は、「教会は税関ではなく、父の家であり、どのような理由があっても秘​​跡の扉、特に洗礼は閉ざされるべきではありません… そこには、それぞれの苦労した人生を生きる余地があるのです… 人の客観的な道徳的な状況や、恵みに対する主観的な性質について疑問が残っている場合でも、神の無条件の愛の誠実さという側面を決して忘れてはなりません。この側面は、たとえ罪人であっても、常に開かれた、予測できない、取り消すことのできない契約を結ぶことができるのです」と強調されている。

 そのうえで、回答書は、このことは、その人の行動が明らかに変わらない場合でも当てはまり、その人の「新たな転落」が予測可能であっても、洗礼を受ける「目的の正当性」が消えるわけではない、と指摘。 いずれにしても、「教会は、受洗者に洗礼のすべての意味を完全に実践するよう常に求めるべきであり、それは常に理解され、キリスト教への入門の全行程の中でなされねばならない」と述べている。

 性転換者が受洗者の代父、代母になれるかどうかについては、一定の条件下で、性転換者が「代父母、またはその役割を担うことは認められる」とし、その役割は「権利ではない」ことを考慮すると、「司牧の慎重な配慮から、教会共同体の教育分野でスキャンダル、不当な正当化、見当識障害(時間や場所などの感覚が薄れ、社会生活や日常生活に支障をきたす障害)の危険がある場合には、代父母の役割は許可されるべきではない」との判断を示している。

 また、結婚の証人になることに関して、回答書は、同性愛者や性転換者が結婚の証人になることを「現在の教会法に禁止する規定はない」と述べている。

 同性愛者のカップルが、養子縁組や代理出産によって受洗を希望する子供の親になることができるかどうかについて、回答書は「子供が洗礼を受けるためには、その子がカトリックの宗教教育を受けられるという十分な根拠のある希望がなければならない」と条件を付けている。

 積極的な同性愛者としてのライフスタイルを送っている人が代父母になることができるか、については、教会法を引用しつつ、「より適切な(代父母の候補者をまず、検討すべきである」としたうえで、「適性を有し、信仰と自らが想定する職責に従った生活を送る者なら、誰でも代父母になることができる」。ただし、同棲している同性愛者たちと、「公然とロマンチックな関係を営む同性愛者のカップル」は区別する、と述べた。

 「いずれにせよ、司牧的な思慮深さから、洗礼の秘跡、特にその受容を守るために、あらゆる状況を賢明に検討することが求められる。洗礼は救いにとって必要なものであり、保護されるべき、貴重なものだからだ」と回答書は述べている。

 さらに回答書は、代父母の義務、教会共同体における役割、そして「教会の教えに対する配慮」に、教会共同体が「真の価値」を置いていることを強調。 「洗礼を受けた人にカトリックの信仰を適切に伝えるための保証人として、家族の中に他の人がいる可能性も考慮に入れる必要がある。また、代父母としてだけでなく、洗礼の証人としても、洗礼を受ける人を助けることができることを知っておくべきだ」としている。

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 以上のような、今回の教理省の回答書は、一部の関係者からは、「同性愛とLGBTQ+問題に関する教会の教えの変更に扉を開くものだ」として反対の声が上がっているが、一方で、同性愛者などの権利を要求する人々は「十分ではないが、重要な前進」と歓迎している。

 LGBTQ+擁護団体「 New Ways Ministry」のフランシス・デベルナルド事務局長は「今回の回答書は、『LGBTQ+問題に司牧に焦点を当てた対応を』という教皇の願望が定着しつつあることを示している」と述べた。また、これまでバチカンが表明してきた立場や、米国の一部の司教がLGBTQ+の個人に対して課した制限などとは対照的、とし、「同性愛の関係にある人は代父母としてふさわしくない可能性があるとしつつ、『ケースバイケースで司牧的慎重さが求められる』という表現は、既婚の同性愛者が代父母として奉仕できる可能性を開くものだ」と評価している。

 また事務局長は、Transgender の人々が洗礼を受け、カトリックの結婚式で代父母や証人になることを認めることは、「教皇や教会の高位聖職者たちが、性自認がカトリックの秘跡に参加するための障壁だとは認識していないことの確認」だ、とし、スペインのTransgender の男性が代父になることを認めないという 2015年に示した教理省の立場を「180度反転」させたもの、と強調。教会の典礼の秘跡への参加の壁を取り除くだけでなく、「カトリック教会が特定の慣行や政策について考えを変えることができる、そして実際に変えられることを、今回の回答書は証明した」とする一方で、教会が「LGBTQ+の平等のためにさらに努力し続けなければならない」ことも明らかにしている、と指摘した。

 同性愛者のカップルの子供は洗礼を受けることができるが、事務局長は「肉体的な関係にあることが公けになっている者が代父母となることを禁止する、と受け取られるる回答文書の表現は、バチカンがカトリック教会への参加のリトマス試験紙として使われてきた狭い結婚の定義に縛られ続けていることを示している」とも語り、「教会指導者がこの教理省の指針に”司牧的慎重さ”を持たない場合、他の聖職者がこの指針を利用して、そのような人々を、教会活動の他の分野から排除する別の政策を確立する可能性がある」と述べた。

 また、あからさまな関係にある同性愛者カップルは代父母になる資格がない、という教理省の判断に異議を唱え、このことは、「教理省がLGBTQ+のカトリック教徒を教会の生活に迎え入れることよりも、『スキャンダルを引き起こす』ことへの懸念を重視し続けていることを示している」とし、「教会指導者たちが、昔からの制限を継続するために今回の教理省の指針を利用するのではなく、教皇の積極的に教会に迎え入れようとする姿勢に倣う形で指針を運用する」ことに期待を表明した。

 先月、1か月にわたって開かれた世界代表司教会議(シノドス)通常総会の 総括文書は、以上のような問題をほとんど避けている、とLGBTQ+の支持者たちは批判しているが、デベルナルド事務局長は「今回の回答書は、たとえ”シノドスの道”がこの問題について前進するのに時間がかかっても、教会における「LGBTQ+の平等」を推進していきたい、という願望を示している…Transgender の人々を、より完全に教会の秘跡に迎え入れようというのは、好ましい一歩。さらに前に進める必要がある」と述べた。  

 なお、教皇フランシスコは、前月のシノドス通常総会の期間中に、「 New Ways Ministry」の創設者で長年、LGBTQ+の擁護者となってきたシスター・ジャニン・グラミックと会見されている。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2023年11月10日