・教会での性的虐待含むハラスメント、4割が「ある」と回答ーカトリック札幌教区が信者意識調査結果発表

(2024.4.17 カトリック・あい)

 カトリック札幌教区のハラスメント対応デスクは2017年から小教区を訪問し啓発活動を行っているが、新たな体制づくりと今後の啓発活動のため2023年7月1日から11月30日にかけて教区の全信者を対象とした「ハラスメントのない教会共同体をめざして~教会におけるハラスメント意識調査~」を実施、札幌教区ニュース4月号で、調査結果の「前篇」を公表した。

 「前編」では、全調査項目の集計結果と寄せられた具体的なハラスメント事案を紹介し、8月に公表する「後編」では、被害者の声を中心にまとめ、今、何が問題なのかを考えるとしている。

 聖職者による性的虐待など教会でのハラスメント行為は、教会への信頼を失墜させるものとして深刻な問題になり続けているが、日本の教会の取り組みは、隠ぺいを容認する従来からの体質もあって緩慢。日本のカトリック教会における性的虐待を含めたハラスメント意識調査の実施は15ある教区の中で、「カトリック・あい」が確認できたのは札幌教区のみだ。

 今回の札幌教区の調査は、全小教区の聖職者、修道者、信徒、求道者を対象に、無記名調査票とWEBによる自由回答の形で実施し、回答があった584件をもとに分析を行った。回答率は12.3%。

 回答者の内訳は、年齢は70歳代が最も多く31.3%、60歳代が23.8%、80歳以上が21.9%と続き、50歳代は11.1%、40歳代は4.3%、30歳代は2.1%と若くなるほど少なくなり、20歳代はわずか1.2%。受洗後の年数は20年以上が最も多く79.1%、次いで5年以上10年未満が11.3%、1年以上5年未満が9.2%など。

 性別は女性が60.6%を占め、男性が26.2%、無回答12.2%、答えたくないが1.0%となっている。

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*「性虐待被害者のための祈りと償いの日」を知っている信者は3割

 質問は15問から成っているが、このうち、日本の教会の「性虐待被害者のための祈りと償いの日」(今年は3月1日)について、知っているかどうか聞いたところ、「知らない」が37.7%、「聞いたことはあるが内容は知らない」も30.5%。「知っている」は30.7%にとどまっている。さらに、この日の行事に参加したか、との問いには、「ない」が61.5%、「教会ではやっていない」が24.1%で、「参加したことがある」はわずかに11.6%だった。

 

*「ハラスメントはある」が4割、うち「自分がされた」が7割弱

 札幌教区のハラスメント防止宣言を「知っている」のは22.6%、ハラスメントデスクを「知っている」も20.9%にとどまる一方、「教会内で、いじめ、いやがらせ、ハラスメントがあると思うか」との問いには、40.6%が「あると思う」と答え、ハラスメントを「自分がされた」が66.7%に達している。受けたハラスメントの内容(複数回答)は「人前での感情的な叱責」が最も多く41.8%、「挨拶や話しかけを無視する行為」37.3%がこれに次ぎ、「人格否定や差別的な言葉による叱責」「悪質な悪口や陰口」「宗教的な経験年数や知識量での叱責や避難」「奉仕の強要」「私生活・プライバシーへの過度の介入」がいずれも20%を超えている。

 

 

*行為や言葉によるセクハラ、児童性的虐待も

 さらに、「教会内で、いじめ、いやがらせ、ハラスメントがあると思う」と回答し以上のような、事前に用意された選択肢以外に「その他」として、回答者が書き込んだ具体的経験で、「セクシュアル・ハラスメント」として、司祭・聖職者から「セクハラすれすれの行為を受けた」「ハグされる感じで抱かれて嫌な気持ちになった」「子宮摘出手術を受けた信徒に、聖職者が『じゃあ、もう女じゃないんだ』と言った」、信徒からは「教会で手伝いをしている時に、尻をつかまれた」「『元気をもらいたいから』と手を握られた」「酔った勢いで個人的に連絡された」などの指摘があった。

 また「児童に対する性的虐待」として、「少年期から青年期にかけて、聖職者から児童性的虐待を受けた」「体を触る、服の中に手を入れるなど性的行為をされた」や、「児童虐待」として、「侍者教育は児童虐待だった」「暴力を振るわれた」との回答があった。

*ハラスメントは「信徒同士」87%、「司祭・修道者から」24%

 ハラスメントがどのような関係で行われたか、との問いには、「信徒同士」86.9%に次いで、「司祭・修道者から求道者・信徒へ」が24.0%と多い。その後どうしたか、との問い(複数回答)に対しては、「どこにも相談できなかった」と「信徒に相談した」がいずれも39.2%と最も多く、「司祭に相談した」は14.6%にとどまり、さらに「ハラスメントデスクに相談した」はわずか1.3%しかない。また「どこにも相談できなかった」理由(複数回答)を聞いたところ、「自分が我慢すればよいと思った」が51.6%、「何をしても解決しないと思った」が41.9%を占めている。

*ハラスメント防止に必要なのは信徒、教会役員、聖職者の「意識改革」

 そして、「教会でのいじめ、いやがらせ、ハラスメントを防止するために必要な措置」(複数回答)として回答者が挙げたのは、意識改革と研修で、「信徒の意識改革」63.3%がトップ、「教会役員の意識改革」34.2%、「聖職者の意識改革」31.2%がこれに次いでいる。また、「信徒の研修」32.4%、「教会役員の研修」16.8%、「聖職者の研修」16.3%となっている。

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(評論)

 日本のカトリック教会における性的虐待を含めたハラスメント意識調査の実施は、15ある教区の中で、「カトリック・あい」が確認できたのは、今回の札幌教区のみだ。他の教区は、教区内の実態把握どころが、教皇フランシスコの全世界の教会に対する要請を受けて、2016年に日本カトリック司教協議会で実施を決めた「性虐待被害者のための祈りと償いの日」(今年は3月1日だった)すら、司教協議会会長の菊地・東京大司教のメッセージが出されたほかは、東京、長崎などほとんどの教区が何の取り組みも、小教区への積極的な取り組みの呼びかけもしない、というのが現状だ。

 東京教区の筆者が所属している教会でも、3月1日、あるいは直近の主日に、祈りなどの行事は全くなく、3月1日が性虐待被害者のための祈りと償いの日」だということを知る信徒は皆無だった。

 2021年2月には、司教協議会が「未成年者と弱い立場におかれている成人の保護のためのガイドライン」を発表し、各教区での「あらゆるレベルでの取り組み」を求めているが、中心となるべき東京、長崎、大阪高松の各大司教区はじめ、ほとんどの教区が具体的な行動を伴った取り組みはおろか、信徒はガイドラインの内容さえ知ることなく現在に至っている。

 札幌教区では、2017年から小教区を訪問しての啓発活動、そして今回の意識調査など、他のほとんどの教区では見られない具体的な行動を積み重ねてきているが、それでも、先に報道したように、帯広教会を担当していたパリ外国宣教会の仏人司祭が、在日20数年の仏人男性信徒に繰り返し性的虐待を繰り返していたことが明らかになり、勝谷司教がパリ外国宣教会に情報公開求める旨、公に約束する事態となっている。今回の意識調査を見ても分かる通り、それほどに、取り組みは容易でない、ということだ。

 すでに長崎、仙台教区では、教区司祭による性的虐待に教区が適切な対応をせず、裁判に持ち込まれ、教区が被害者に損害賠償をするに至っている。東京地方裁判所でも、神言会の司祭に繰り返し性的暴行を受けた被害者が同会に損害賠償を求める訴えを起こし、公判が続いている。ほかにも、「カトリック・あい」で把握している司祭による性的虐待疑惑は東京教区など数件ある。

 札幌教区の意識調査の結果公表を機会に、日本の司教団に、司祭による性的虐待を含む教会におけるハラスメントへの、誠実かつ具体的な行動を伴う真剣な対応を、改めて強く求めたい。

(「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年4月17日