・イエズス会が、修道女など複数の女性虐待容疑の著名な芸術家の会士を除名

Father Marko Ivan Rupnik. (Credit: Screenshot/Vatican Media.)

Jesuits expel prominent artist accused of absuing women

(2023.6.15 Crux  Senior Correspondent   Erise Ann Allen

 

ローマ発 –教皇フランシスコも会員となっている世界最有力の男子修道会、イエズス会が15日、複数の女性に対する性的虐待などで訴えられている著名な芸術家のイエズス会士を、「自己の規律に関する誓願」を破ったとして除名することを決定した。

 同会でこの問題を担当するヨハン・フェルシューレン師は15日の声明で、「イエズス会総長は6月9日付けで、悲痛な思いを込め、マルコ・イワン・ルプニク神父をイエズス会から除名した。服従の誓いを守ることを彼がかたくなに拒否したことに対する、教会法上の措置である」と発表している。

 ルプニク神父は、ローマで活動する著名なカトリック芸術家、壁画家で、その作品はバチカンやフランスのルルドにある有名なマリア聖堂など世界中の礼拝堂や神社を飾っている。だが、昨年、修道女たちに対する性的虐待が発覚し、司法当局の取り調べを受けており、公的な活動を禁じられている。

 フェルシューレン師は声明で、ルプニクに対する訴えに関するイエズス会の担当チームの調査によって「あらゆる種類の数多くの苦情が、全く異なる情報源から寄せられ、過去30年以上にわたる期間の出来事が明らかにされた」とし、「会の上長たちは、報告や目撃された内容の信頼性は非常に高いと判断し、調査チームの勧告や提案に従うことを決めた… この判断に基づき、ルプニクに対し、現在居住しているイエズス会の施設から他の施設に移り、過去の過ちを認め、自身が傷つけた多くの人に、真実の道に戻る明確なしるしを示すための、イエズス会に残る最後の機会として新たな職務を受けるよう命じた」と説明。だが、ルプニクがこの命令に従うことを拒否したため、「残念ながら私たちに残された道はただ一つ、イエズス会からの除名だった」とし、ルプニクに6月14日付けで会から去ることを命じた、としている。

 イエズス会の調査チームの報告書は2月に出ていたが、今、除名措置に踏み切ったのは、会が彼に対して、ローマのあるラッツイオ州を離れたり、公的な活動をすることを禁じていたにもかかわらず、ボスニアとクロアチアを訪れ、美術修復プロジェクトに従事している、との最近のマスコミの報道が引き金になったとみられる 

 バチカンとイエズス会が、ルプニクにどう対処するかは、ここ数か月の間、カトリック関係者の間で注目の的になっていた。それは、彼が現代カトリック芸術家の一人として欧米で高く評価されている人物であり、教皇フランシスコを筆頭に多くのバチカン高官と同じイエズス会士だったからだ。

 ルプニクをめぐる問題が注目されるようになったのは昨年12月、イタリアのブログやウェブサイトが一斉に、彼の故郷であるスロベニアの修道女たちを何年にもわたって精神的に虐待し、性的違法行為を働いたとして告発された、と報じたことによる。スロベニアの女子修道会「スクプノスティ・ロヨラ」などに所属する修道女たちが被害に遭ったのは、彼が霊的指導の担当司祭だった1990年代にまで遡る。

 以前、ルプニクに関する報道が広まり始めた後、イエズス会は、ルプニクを「教会の最も重大な犯罪の一つを犯した」―性的関係を持った女性を赦免するために告解の場を利用した-として、2020年に短期間破門したことを認めた。破門は、ルプニクが”悔い改め”たとして、わずか1か月後に解かれたが、その1年後、9人の女性から、ルプニクが1990年代に自身が共同設立したロヨラ・コミュニティで性的、心理的、精神的虐待を行ったとの告発がなされた。

 当時、イエズス会はバチカンに教会法に基づく措置を取るよう求めたが、イエズス会士ルイス・ラダリア枢機卿が長官を務める教理省はそれを「時効」を理由に拒否、捜査もできないと通告。このため、 ルプニクの犯罪の解明も進まず、多くのバチカン関係者が、「教皇がイエズス会士で、聖職者の性的虐待問題を担当する教理省の長官もイエズス会士であることから、同じ会のルプニクをバチカンが守ろうとしているのではないか」との疑問を抱くことになった。

 このような中でイエズス会も、彼の公的活動やラッツイオ州を離れることを禁じる一方、彼の被害者は積極的に申告するよう広く呼びかけ、その結果、新たな被害の訴えが約15件出て来た。

 フェルシューレン師は声明で、ルプニクが司祭職そのものをはく奪される可能性などについて明らかにしなかったが、仮にルプニクが上訴を認められた今後30日の間にそれを断念するか、上訴して却下され、除名が確定した後に、その問題が出てくることを示唆している。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2023年6月17日