・「バチカン改革の憲章発出の用意はできている」バチカン国務長官が単独会見(LaCroix)

(2021.7.12 LaCroix  Loup Besmond de Senneville | Vatican City )

 バチカンのピエトロ・パロリン国務長官・枢機卿が、LaCroixとの単独会見に応じ、バチカン改革の決め手とされている憲章が「策定作業を終え、現在、教会法の専門家による審査を受けている」ことを明らかにしたほか、聖職者による性的虐待問題や生命倫理の問題、枢機卿など10人が裁かれることになった巨額の不動産不正取引問題への対応などについても言及した。

 一問一答は次の通り。

*フランスのバチカンとの関係は、生命倫理法改正をどうみるか

 

LaCroix:教皇はフランスを訪問されるでしょうか?

国務長官:実際にどうなるか分かりませんが、計画はあります。教皇はすでにマクロン大統領に関心を表明されています。しかし、日程は決まっていません。ただ、フランスには教皇が訪問される意味があるので、私としては、できるだけ早く実現するように願っています。

Q:フランスは、100年間、外交レベルで聖座を親交を続けてきました。フランスとバチカンの関係についてどのように評価されますか?

A:フランスと聖座の関係は前向きのものです。ここローマでは、聖座は大使館、本国政府はじめ様々なレベルでフランスの関係者と頻繁に接触しており、パリでは、双方関係者が定期的に集まる場を作って、建設的な議論がされています。聖座の国際活動の中心的なテーマとなっている地球環境の保全や新型コロナウイルス大感染への対処などの課題を共有していますが、一方で、軍縮や原子力の問題など見解を異にする分野もいくつかあります。

Q:フランスの国民議会は今後数日以内に、(イスラム過激派によるテロを未然防止するため、現在の政教分離法を強化する)法案の審理を再開します。フランスにおける世俗主義をどのようにみていますか?

A:この問題は、フランスにとって非常にデリケートな問題です。フランスの世俗主義には、歴史的背景、フランス革命だけでなく、宗教の拒絶などにつながるさまざまな経緯があり、そうした他国に見られない過去の出来事は、現在に至るまでその痕跡を残し、国民の社会生活における宗教的側面の軽視を助長して来ました。これは好ましいことではない。理想とすべきは、政治的共同体と教会がそれぞれ自律性を持ち、健全な協力関係を持つことです。教会と国家は「共通善」に貢献するという共通の目標を持っているのですから。

 

Q:フランスの大統領選挙が近づくにつれ、フランス社会はアイデンティティに基づく緊張が高まっています。これについてどう思いますか?

A:ある意味で、緊張は、私たちの前進を可能にするので必要なことです。選挙が近づくと、一定の緊張が高まるのは普通でしょう。フランスは非常にしっかりとした民主主義の伝統を持っているので、それに耐えることができます。重要なのは、こうした緊張が暴力的な紛争や破壊的な風潮をもたらす個人攻撃に結び付かないようにすることです。

Q:フランスの国民議会がこのほど、(すべての女性に人工授精の権利を認める)生命倫理法の改正案を可決し、成立しました。法案に反対していたカトリック信徒の中には、これにどう対応すればいいのか困惑している人もいます。彼らに、どう答えればいいでしょうか。

A:その判断は、フランスの教会の領域にあります。つまり、神の民を構成する人々と交わりをもつ司教たちに属する問題です。重要なことは、カトリックの信徒たちは、そのような微妙な問題についても、信仰を基礎に置いた論拠を持って、自分の意見を聴いてもらうことができる、ということ。法案がすでに可決されていても、すべての人間の生命の尊厳と価値を守るという立場から意見を述べることはできますが、あくまで意見の表明にとどめるべきであり、特定のイデオロギーに流されてはなりません。

*コロナ禍が去っても、教会は以前には戻れない

Q:ここ数か月にわたって、教皇は新型コロナウイルス危機を”利用”して私たちの”規範”を改めるように、私たちに強く求めて来られましたが、「コロナ前に戻ろう」とする誘惑はとても強い。この誘惑に屈しないようにするには、どうすればいいのでしょう?

A:確かに、「後戻りしたい」という気持ちになる可能性はあります。これは、物忘れをしやすいーたった今、経験したしたばかりのことを忘れてしまうーのと表裏一体です。教皇が回勅「Fratelli tutti」で言われているように、私たちは皆、同じ家族の一員であり、互いを気遣う義務があります。だが、私たちはまた、現実に起きている変化を受け入れ、一定の犠牲を払うことができる、と私は信じています。私たちは同じライフスタイルを続け、これまでのやり方のままで世界を利用し続けることはできません。私たちが幸せな人生をおくれるようにするのは「変化」なのです。

 

*バチカン改革が成果を生むようにする時

Q:フランシスコは教皇の座に就かれて以来、バチカンの改革を進めてこられました。バチカンは以前よりもよく機能していますか?

A:教皇に就任されて以来、非常に多くの改革がなされてきました。たとえば、経済分野では、資金の管理を、国務省から聖座\財産管理局(APSA)と財務事務局に移管しました。今こそ、改革が成果をもたらすようにする時です。教皇庁のように複雑で長い時を経て来た組織では、変化が困難を引き起こす可能性があります。しかし、教皇庁を「教会にとって益となる仕事を教皇がなさるための道具」にしよう、という、確実な意志がある。今から、私たちは、過去における「奉仕」のイメージを不明瞭にしてきたあらゆるものを避けねばなりません。私たちには大きな責任があります。

Q:待望久しいバチカン改革の新憲章の公布はいつになりますか?

A:具体的にいつなるのかは、教皇が判断されることです。私からは申し上げられません。すでに行われたことも含めすべての改革に一貫した枠組みを与えることを目的とする憲章案文は現在、教会法との整合性などについて、教会法学者によって審査・検討が行われています。

 

*バチカンの巨額不正取引の裁判の意味は

Q:バチカン改革と関連するものとして、ロンドンにおける巨額の不動産不正取引に関して間もなく始まるバチカンでの裁判があります。この裁判は、改革の転機となると考えますか?

A:そうは思いません。改革の転機というなら、これまで数年にわたって進められてきた改革の取り組みです。これから行われる裁判は、むしろこれまでの改革の結果と言えるでしょう。

Q:この裁判は、”真実の瞬間”となるのでしょうか?

A:司法の分野では、そう思います。主は本当の真実を知っておられます。裁きの場で立証される真実は、人間的な真実です。しかし、私が強く希望するのは、すべての人のために、この裁判を通じて、その真実が明らかにされることです。

 

*仏独立調査委の性的虐待結果報告にどう対応すべきか

Q:フランスでは、カトリック教会における性的虐待に関する独立調査委員会の結果報告が近く発表される予定です。それに対処する最も適切な方法は何だと思いますか?

A:それはおそらく「苦しみの大いなる瞬間」になるでしょう。しかし、私たちは真実を恐れてはならない。それを視野に置かねばなりません。そして、これが、私たちが。実際に何が起きたのか知るために、この委員会の設置を求めた理由でもあります。悲しいことであり、多くのカトリック信徒がその報告を読んで悲嘆に暮れ、動揺することでしょう。しかし、私たちはこの試練をくぐらねばならない。試練を通して、このような遺憾な出来事と向き合い、再発を防止しようとする新しい意識が生まれるのです。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2021年7月13日