☩「安楽死と中絶で、人の命を台無しにしてはならない」教皇、帰国途上の機中会見で

(2023.9.23 Crux  Senior Correspondent  Elise Ann Allen)

 マルセイユ訪問を終えた教皇フランシスコは23日夜、帰途の機上会見で、記者の質問に答える形で、中絶と安楽死の両方を批判され、人生の終

Pope Francis speaks with journalists aboard the papal plane

末期において「苦痛を排除しようとする”イデオロギー的植民地化”で高齢な人々の命が消し去られることがあってはなりません」と語られた。

*「(安楽死法案を準備する)マクロン大統領には『人の命はもてあそはないように』と申し上げた」

 

 教皇は帰国前のマルセイユでのミサ の説教で、世界で中絶と安楽死が慣行されつつあることを非難していたが、機中会見でも、マクロン大統領の要請に応じてフランス政府が安楽死を認める法律を準備していることについて質問を受け、「今回の訪問でのマクロン大統領との個人的な会話では、この問題は取り上げませんでしたが、大統領はこれまでバチカンに3回おいでになっており、そのうちの1回で安楽死の問題について意見を交換しています」とされたうえで、「その場で、人の命はもてあそぶものではない、という私の考えをはっきりと彼に伝えました」と述べられた。

 そして、「これは人の命を守るかどうかの問題。単なる私見ではありません。(放置すれば)痛みを伴わない政策、つまり”人道的な安楽死”を選択することになってしまう」と強調された。

* 「命を破壊する”イデオロギー的植民地化”に陥ってはならない」

 

 さらに教皇は20世紀初めに書かれた未来的科学小説「The Lord of the World」*を取り上げ、「この小説は、(世界が)最終的にどうなるのか、と描いているが、(その世界では)人々の持つ違いが取り去られ、痛みさえも奪われ… 安楽死がその一つとなる、としています」とされ、「そして、甘美な死、生を受ける前の選別。これは、この作家が、現在起きている論争を予測していたことを示しています。人の命を破壊し、人の命に反抗する”イデオロギー的植民地化に陥らないようにせねばなりません」と訴えられた。

 マクロン大統領は近く議会に終末期法案を提出するとみられている。詳細は明らかにされていないが、多くの観測筋は、生命を断つことを希望者を「積極的に援助」するのを合法化する条項が含まれるとみている。 現在の同国の法律では、苦痛の中で死期を迎えている患者に対して「深鎮静(注:意識を失わせるような鎮静剤の使用)」のみが認められているが、フランスの世論調査では、何らかの形の自殺幇助を支持する人が僅差で過半数を占めている。大統領が教皇がマルセイユ訪問を終えるまで、意図的に法案の提出を遅らせている、とメディアは報じている。

*「高齢者の命が粗末にされている…苦痛の中で死期を迎える人のケアは人間的行為」

 教皇は、会見で、孤独になったり見捨てられたりした多くの高齢者が直面する窮状を思い起こされ、「今日、高齢者の命は粗末にされています… 若者たちが日常生活の中で高齢者と話をせず、高齢者たちは粗末に扱われる… 老いて、役に立たない者とされてしまうのです」とされたうえで、人の命を台無しにしてはいけません…それが子宮内で胎児の成長を止めるのを認める法律であろうと、安楽死を認める法律であろうと、です」と言明。

 「苦痛の中で死期を迎えている人をケアするのは、人間らしい、人間らしい行為です。慈しみです。現代科学は、苦痛を伴う病のいくつかを薬によって和らげることを可能にしましたが、人の命を台無しにする行為はいけません」と強調された。

 

*「ウクライナ和平への働きかけは、多少フラストレーションも感じるが、全力を尽くしている」

 ウクライナ和平実現のため、教皇は、イタリア司教協議会会長のマッテオ・ズッピ枢機卿を特任大使として、ウクライナ、ロシア、米国、中国を訪問させるなど、関係国への働きかけを続けているが、「ズッピ大使も、バチカンの国務省も全力を尽くしていますが、遅々とした歩みに、多少のフラストレーションを感じています」と率直に答えられた。

 また、ズッピ大使の活動の現況や今後の計画など詳細には触れなかったものの、ロシアに拉致されたウクライナの子供たちの帰還に関する取り組みは「順調に進んでいる」と語られた。

 ロシアのウクライナ軍事侵攻と関連して、教皇は、活発化する国際的な武器取引を改めて非難され、 「今続いている戦争は、ロシアとウクライナの問題だけでなく、武器の売買や貿易取引の問題も思い起こさせます。今、最も多額の利益をもたらす投資は武器の生産、”死”の生産です」と述べたうえで、 「私たちはウクライナの人々の殉教をもてあそぶべきではありません… できる限りの方法で、現在の事態を解決する必要がある。戦争指導者二人が明日一緒に食事をする、というような幻想を抱くべきではありません。 私たちは可能な方法を模索することに謙虚であるべきです」と訴えられた。

*ウクライナへの武器供与を約束しながら、考え直す国に関して”失言”?

 一方で、教皇は、ウクライナに武器供与を約束しながら、様々な思惑からそれを考え直そうとしている国々を取り上げ、 「今、一部の国が(ウクライナ支援を)後退させ、(約束していた)武器を供与していない動きが出ている。ウクライナの人々が殉教者になるプロセスが始まっています。 これはひどいことです」と発言された。(この発言について、 バチカン報道局は、釈明の声明を出し、「教皇がおっしゃりたかったのは、『武器商人は、ウクライナ人のように”殉教した”人々に課せられる選択の代償を、決して支払うことがない』ということ」と”訂正”している。)

 また記者団からは、マルセイユ訪問中に、教皇が移民・難民を支持する率直な意見を述べたことに関して、2013年7月のイタリアのランペドゥーサ島訪問以来、10年間同じことを繰り返されてこられたが、その間に、移民・難民が目指す先が北アフリカから、欧州に入ることを希望するようになってきた。これは誤りと感じているか、との質問があった。

*「移民・難民問題は、意識されるようになっている、”恐怖の支配”から彼らを守る必要」

 この質問に対して教皇は、 「そうではないと思います。 事態の進展はゆっくりですが、 今日では、移民・難民の問題が(注:以前よりも人々の間で)意識されています。  また、それはジャガイモが煮えるところまできたが、どうしていいか分からない、という認識もあります」と答えるとともに、移民・難民が「送られたり、送り返されたり、ピンポン玉のように扱われている」状況を非難された。

 そして、「多くの場合、最終的には”ラガービール”のようにされてしまい、以前よりも悪い状態になる。”恐怖の支配”です。 彼らは、自分の国を出なければならないことで苦しむだけでなく、”恐怖の支配”によって苦しめられている。彼らは”奴隷”です。 ピンポン玉のように送り返すことはできません」と指摘。移民・難民は「歓迎され、寄り添い、引き上げ、一緒にされねばならない… 同時に、彼らを残忍な人々の手に渡さないようにしなければなりません」と改めて訴えらえた。

 さらに教皇は、10月4日から始まる世界代表司教会議(シノドス)通常総会に、「Mediterranean (group) Saving Humans」の代表を招待したことを明らかにされ、彼らにはそこで語るべき”恐怖に満ちた物語”がある、とされた。また、質問にあった、 ランペドゥーサ島訪問について「訪問を決めた段階で、私はその島がどこにあるのかさえ知りませんでしたが、その島にまつわる物語を聴き、祈りの中で、『どうしても行かなねばならない』という強い気持ちがおきました。私が心の中で聞いた祈りは、あたかも主が私をそこに導いてくださったかのように、そこに行かなければならなかったのです」と語られた。

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2023年9月24日