(読者投稿)大阪、高松教区の合併発表から1カ月半、信徒に明確な説明も無いまま、新教区設立式… これでいいのか 

 大阪、高松両教区の合併についてバチカンの8月15日付け公式発表から1カ月余りが過ぎた。両教区からは、ひたすら「合併ではなく、新教区の設立だ」という意味不明の言葉だけで、いまだに合併に至った経過や理由、そしてどのように合併が進められるかについて明確な説明もない。

 9月17日発行の「カトリック高松教区報」は一面トップで、教区事務局長の小山助祭による「新大司教区設立―大阪大司教区・高松教区を核として—」という記事を載せている。それによると、冒頭で、教皇が新たに大阪高松大司教区の設立を発表されたが、中央協議会のホームページの記載とはニュアンスが異なると不安になる人もいるだろうが、「新教区設立」が正しい、とまず強調している。

 8月15日付けのバチカンの公式発表文(公式英語訳)には、「The Holy Father has erected the new metropolitan archdiocese of Osaka-Takamatsu, Japan, by incorporating the archdiocese of Osaka and the diocese of Takamatsu」とされている。

 そのまま訳せば、「教皇は、大阪大司教区と高松司教区の合併(統合にも訳すことができる)による新しい大阪・高松メトロポリタン大司教区を設立された」となる。

 中央協議会もこれを受けた形でホームぺージに「教皇、大阪教区と高松教区の統合を発表」の見出しで、本文は「教皇フランシスコは8月15日、大阪教区と高松教区を統合し、新たに大阪・高松大司教区を設立・・・」と掲載している。

 なぜ、中央協のHPの記載は「ニュアンスが異なり」、「新教区設立が正しい」と言い張るのか理解不能だ。

 小山助祭は、その理由は、「駐日教皇庁大使が、初代教区長となる前田枢機卿に話されたもので、この決定については高松教区にも大阪大司教区にもまだ文章による通知がなく、大使からの口頭伝達が唯一の正式な両教区への通達だから」というが、まるっきり説明になっていない。

 上記のように、バチカンの公式発表文も、それを翻訳した形の中央協議会(つまり日本の司教団)のHPも、「by incorporating…(合併・・統合とも訳される)によって」と明言されているのを、大使からの口頭伝達をもとに”訂正”しようとするのは、理由としてはあまりにも薄弱だ。それとも、バチカンのホームページをお読みになっていないのだろうか。

 教区合併という関係教区の聖職者、信徒にとって重大な決定が、公式文書でなく、現地大使からの口頭伝達のままにしていること自体、不思議な話で、常識であれば、バチカンに公式文書の提示を求めるのが当然だろう。また、小山助祭の記事では、大使は枢機卿に、宣教地における「二つの教区を核にして新しく教区を設立するのは世界初」で、「成功したら、今後の教会刷新に向けた新たなモデルにすることが考えられるので、しっかりとした記録を残してほしい」と頼まれたそうだ、という。

 だが、当の駐日バチカン大使、ボッカルディ大司教はこの直後、在任期間わずか2年半、外交官の役職定年75歳の繰り上げ特例を使って9月1日付けで退任してしまった。「新教区設立」が正しい、とする理由のもとになり、「新たなモデルに」と前田枢機卿に頼んだ本人が、「世界初の成功」を支援することなく、新教区の設立も、新大司教の任命も見届けずに、大使を辞めてしまい、後任も9月28日現在決まっていない、というのも、おかしな話ではあるが、それに疑問を持たないのもいかがなものか。

 

 9月16日に、高松教区では拡大宣教司牧評議会なるものが開かれている。その資料では、バチカンの合併発表に至る経過について次のように書かれている。

 「本年5月下旬に教皇大使から教区顧問会、司祭評議会及び宣教司牧評議会の構成員全員に親展で『大阪大司教区と高松教区を統合するという提案についての意見』が求められてきました。その後、事態は急変し8月5日に教皇大使から前田大阪大司教に『新たな大阪高松大司教区の設立が教皇さまから 8月15日に宣言される』旨伝えられ、大司教さまは大使からこの知らせを伝達された後すぐに高松教区事務局に連絡下さり、8月8日には大阪大司教区事務部門と高松教区 事務局とのオンラインによる会議が開かれ、そこで教皇大使と大司教さまとの話し合いについて詳しく報告されました。そして、聖母被昇天の祭日(大祝日)のローマ時間の正午(日本時間午後7時)に教皇さまから新大司教区としての大阪高松大司教区の設立と前田万葉枢機卿の初代教区長としての任命が教令(decreto)として宣言されました」。

 さらに、「大阪高松大司教区の意義」として、①新たな大司教区の創設であり、二つの教区の単なる合併でも、まして最少教区の吸収合併ではない。自立している二つの教区を基盤として大司教区の設立②宣教地の全教区を統括する福音宣教省(長官タグレ枢機卿)の管轄下で世界初例③神が、私たち教区民の祈りに応えて示された道であり、前田枢機卿によれば「今回のシノドス(ともに歩む教会のために-交わり、参加、そして宣教)に具体的に応えるために神が私たちに委ねられたチャンス」とできるし、せねばならない④危機にある世界の今、教会の新たな動き・取組に直接的に参加できる特別な機会(原文のまま)—と説明している。

 この会合に出た人々からは、この資料を見て何の疑問も質問もなかったのだろうか。

 「5月下旬に駐日教皇大使から提案が求められた」とあるが、私たち高松教区の信者全員に対する説明も、意見聴取もなかった。「シノドスうんぬん」という前田枢機卿の話を載せているが、すでにこの段階で”シノドスの道”を逸脱しているのではないか。この段階でどのような『提案』をまとめ、大使に意見を出したのだろうか。そして、なぜ『事態が急変』し、その後、大使と枢機卿の間でどのようなやり取りがあったのか、まったく私たちには説明がない。

 「二つの教区の単なる合併でも、まして最小教区の吸収合併ではない。自立している二つの教区を基盤とした大司教区の設立」としているが、何を持って「自立」しているというのだろうか。

 高松教区は、2016年度から、信徒に対し、1人年間1万円の「教区献金」(2019年度からは「納付金」に名称変更)を通常の教会維持費などの負担と別に求められ、それだけでは足りず、大阪管区と大阪教区の女子修道会からの財政支援も受け続けて来た。信徒の異議には耳を貸さず、抜本的な財政再建策も講じないままだ。

 バチカンの公式発表てデータでは、二つの教区の信者数は、大阪4万7170人に対し、高松4243人、教区数は77対28、教区司祭数は77人対28人、修道会司祭数は90人対16人。しかも多年にわたって、通常の献金だけでは司祭の給与も賄えず、特別献金を事実上強制し、さらに大阪教区や修道会からも財政支援を受け続けて来た。とても「自立」と言える状態ではない。このような場合、二つの組織の合併を、一般社会の常識では「救済合併」あるいは「吸収合併」と言う。いたずらに、「新教区設立」という言葉を中身も明確にしないまま、ひたすら名称にこだわり、”不都合”な現実を覆い隠すような言い様は、現実を正しく踏まえたうえでの合併統合を出発点からつまずかせるのが分からないのだろうか。

 「新たな大司教区」にこだわるのであれば、先ずは、きちんとした手続きを持って両教区の司祭、信徒の総意をまとめ、理解の上で作り上げていく展望が必要だ。その概要さえも、未だ明示されず、これも一般社会では常識になっている「説明責任」が全く果たされていない。そして、新教区を作るためのルールや仕組み作りを、両教区が協力して進めていく場合、信徒の参加を公平に求めるとともに、「説明責任」に努め、これまでのような、つじつまの合わない言い繕い、その場しのぎの言動で、まじめな信徒たちを操るべきではない。

 教区への不信不満はまだまだあるが、今回は誰が考えても高松教区の破綻であり、「何も言えない、言わない信徒」に次々に一方的な文書が発せられ、形式だけのわかりにくい口頭での説明で事が進んでいるのが、実情だ。まともに物事を考える、教会の将来を真剣に思う信徒と司祭が、「これから、さらにどれほどの犠牲を引き続き払わねばならないのか」と強い懸念を抱くのは、至極当然のことだろう。

 ついでに言えば、上記の高松教区の拡大宣教司牧評議会に出された資料には、「宣教地の全教区を統括する福音宣教省(長官タグレ枢機卿)」とあるが、教皇は昨年6月発効の組織改革で、福音宣教省を教皇直轄とし、長官に教皇が就き、その下に世界宣教部門と初期宣教部門を置いて、タグレ枢機卿は後者の初期宣教部門担当の副長官とした。それから、すでに一年以上が経過している。バチカンの指揮系統についての正しい認識も持たず、今回の合併通告が、現地大使の口頭によるものでしかないなら、文書での通告をもらうように求めるべきだが、その相手先も分からない、というのであれば、もはや何をか言わんや、である。

  また、今後については、高松教区事務局長名の「大阪高松大司教区設立式と大司教着座式むけバスの手配について」の文書が9月15付けで出ており、「大阪教区が四国の各県に対し バス1台(40名)を大阪教区の費用でチャーターして下さることになりました。 前田大司教さまの発案で、四国地区から大阪・玉造まで来て下さる皆さまに少しでも負担軽減できればということで、御配慮下さったものです。大阪教区がチャーターして下さったので無料で利用できますし、このバスで来られる方については聖マリア大聖堂の中に席が用意されていると聞いています」とある。

 さらに、「この式典には参加できない方々も多いので、11月11日に高松の桜町教会で、大阪高松大司教区の前田枢機卿様をお迎えして新教区設立並びに新大司教着座の感謝ミサを教区行事として行う予定です… こちらの感謝ミサへのご出席もよろしく…」としているが、合併に対する意見も聞かれず、いきなり知らされ、これからどうなるのか不安を抱えながら、誰に、何を感謝せよ、というのだろうか。「大阪までのチャーターバスの費用は、前田大司教様のご配慮で・・」とあるが、実質的な負担は大阪教区の人々がすることになるだろう。

 9月26日付けの日本唯一の独立系カトリック・メディア「カトリック・あい」によると、教皇フランシスコが、カナダの二つの教区の合併を求める意見書に対して、直ちにこれを認めず、まず教区長を兼任させる形で準備態勢を作用人事を発令した、という。一方の教区の教区長が定年で空席になったことから、教区では、今後の教区の在り方について教区民が意見表明の機会が設けられ、様々な側面から検討の結果、「早期に合併するのが適当」との意見書を3月にバチカンに送っていたが、合併を急がず、両教区が協力して合併への道筋をつける必要がある、と判断した、とされている。大阪・高松とは色々な面で対照的。カナダの方が、明らかに賢明なように思われるが、ここから教訓を得て、”新大司教区”に生かすことは、もはやできないのだろうか。

(高松教区の在り方を真剣に考える信徒の会)

このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年9月28日