・日本の聖職者による性的虐待ー”シノドスの道”からほど遠い、高位聖職者の”沈黙”、教区担当者の”驚きの発言”

 「もう何年もたっているので、悲しみが癒えるであろうとか、納得するかどうか、という話ではないにせよ。まあ、しょうがない事だっただろうな、ということ・・・第三者委員会としては『あった可能性が高い』ということでありましたので、こちら側とすれば、この司祭を守らなければいけない、と言う立場もありますから、司祭と言うよりも、この人の人権を守らなくてはいけない、ということでありますので・・・まあ和解するというような方向を模索していますね。まあお互いに判断する、と言うことでしかないだろうと思います」

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 ある信徒から私にごく最近、「これだけ、世界的に聖職者による性的虐待が問題になり、教会そのものの信頼さえ揺らいでいる今、このような発言があるのはどういうことか」という抗議と共に寄せられたのが、VICEAsiaが取材、制作したYouTube特集「日本の教会における性的虐待-Violation」。その中で、司祭の性的虐待による長年にわたる精神的ダメージに損害賠償を求めて訴えを起こした女性に関して、被告側のカトリック仙台教区の事務局長が語っている言葉だ。

 VICEはニューヨークに本部を置き、世界30か国以上に支部を持つ”硬派”のデジタルメディア。世界中の本支部で制作された情報を日々、5千万人以上に提供している、という。そのアジア版であるVICEAsiaが配信しているこの特集は、日本における聖職者の性的虐待について、カトリック仙台教区のケースをとりあげた16分弱の短編だが、今から約1年前に配信開始され、視聴回数が16万回を超えている。

 特集は、仙台教区の司祭から性的虐待を受けて40年近く苦しみ続け、裁判に踏み切った鈴木ハルミさん、被告のカトリック仙台教区の小松史郎・事務局長、そして20年にわたってカトリック中央協議会の「子供と女性の権利擁護デスク」の秘書を務めたシスター石川春子(聖心侍女修道女会)の3人のインタビューを中心に構成されており、https://youtu.be/piM1hoQ_vQE (ナレーションは英語、インタビューは英語同時通訳付き)で動画ですべてをご覧になれる。

 特集には500件を超える世界中の閲覧者から、被害者を支持し、教区の対応を批判するコメントが寄せられている。以下は、その一部だ。

 ”the interview with the priest representative made me so mad “it happened so long ago” “he’s very old and suffering from dementia too” “there’s no way to find evidence anyway” so that means that people shouldn’t be held accountable for their wrongdoings?? What a joke.” @julieghim7846

 ”As a fellow woman and catholic, it hurt so much. To all the survivor, thank you for sharing this story to us. I really hope you can recover and be happy. For the abuser, may you rot in hell and people can bring justice to the survivor. I pray for the church to recover and take a better care for the safety of the people in the church.” @reignasregina 

 ”Catholic church needs to change EVERYTHING. It’s impossible that they say things like “it happened long time ago” in each case and no matter the country, and any government judge those priests who committed crimes.”@Kaingieshia

 ”The way shiro komatsu talked about her abuse was absolutely horrible, with obviously no genuine empathy of what happened to the abused. not unexpected, but still disgusting”@adelelim3043

 ”イエスの面目を立てるために、カトリック教会が鈴木ハルミさんの名誉を取り戻すべきです。”@saiful6600

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 仙台教区での性的虐待訴訟は、一般紙などで報じられているのでご存じの方もおられると思うが、概略以下の通りだ。

 仙台市の女性が宮城県内の教会司祭から性的に暴行され、申告したカトリック仙台教区からも二次被害を受けたとして、2020年9月24日、損害賠償を求める訴え―加害者司祭(当時)を「被害者原告に対する性的虐待の直接的な加害者」、司教(当時)を「加害者を指導・監督すべき仙台教区裁治権者としての注意義務違反、原告被害者への不適切な発言および対応による二次被害の加害者」、カトリック仙台教区を「信徒への安全配慮義務違反、本件事案の調査義務違反、被害事実の隠蔽、加害者への適切な処分ならびに被害者への適切な対応についての不作為があった」として、三者を相手取り、損賠賠償を求める民事訴訟を仙台地方裁判所に起こした。

 河北新報(本社・仙台市)などによると、鈴木さんは1977年、当時、所属していた気仙沼カトリック教会の司祭に、夫の暴力について相談した際、教会の一室で乱暴された。
当時、別の司祭数人に相談したが、相手にしてもらえず、罪悪感にさいなまれ、精神障害を発症するなど、長い間苦しみ続けたが、主治医の助言で被害を認識し、2016年に教区に申告した。申告を受けた教区は第三者委員会に調査を託したが、同年10月にまとめた報告書は「(性的被害が)存在した可能性が高い」としたものの、司祭の責任を問わなかったうえ、司教からは「合意の上でやった」などと言われてフラッシュバックに苦しむようになり、二次被害を受けた、としている。

 原告代理人の弁護士は、鈴木さんが被害に遭ったことを理解したとする15年ごろが起点となるため、請求権はある、としており、教区については、十分に被害調査をしていないことなどが義務違反に当たると主張している。 河北新報によると、鈴木さんは24日の提訴後に仙台市内で記者会見し、「失った尊厳を取り戻すための裁判。同じように暗闇で息を潜めている被害者に声を届けたい」と語った。

 そして、結審を迎えた2022年3月初めに、仙台地方裁判所の担当判事から原告、被告双方に対し、和解のための話し合いに入るよう提案があり、双方が同意して、和解に向けた手続きが始まった。非公開で行われた仙台地裁での、双方からの和解条件についての一回目の聴取では、原告側から、①司教が公的な場での真摯な謝罪をする、聖職者による性的虐待の再発防止に、外部機関の点検を受けつつ、教区全体で具体的に取り組む、②原告に対する教区の信徒たちの誤解を解くため、原告が虐待事件の真実を語る場を設ける-など、具体的な提案をした、という。

 それに対し、教区側が代理人弁護士を通して出した和解条件の”素案”は、関係者によれば、概要は①この訴訟は、原告が被告から性的侵害行為を受けたとして提起され、被告らはその事実を全面的に否認している②だが、教区が設置した第三者調査委員会が、原告の主張する性的侵害行為は「存在した可能性が高い」と判断しているので、「事案の性格に鑑みて」和解する⓷第三者委員会の報告書が出されたのに対して、速やかに対応すべき点で欠けるところがあったことを謝罪する④被告の仙台教区は、原告が教区の元信者であって、その信者が「性的侵害行為」の申告を行ったことを考慮して「解決金」を支払う、ということとされている。

 要すれば、「自分たちは悪くないが、第三者委員会が『性的虐待が存在した可能性が高い』との判断を出しているので、和解する、第三者委員会の報告に速やかに対応すべき点で欠けることがあったことは反省する」という内容で、被告たちとしては、あくまで性的虐待行為を認めず、謝罪もしない、反省するところがあるのは「速やかに対応しなかった」ことだけ。 しかも、原告をどういうわけか「元信者」と決めつけ、信者だったから「解決金」で片を付ける、というように読み取れる。

 案の定、というべきか、和解交渉は1年以上たった今も進展した、とは聞いていない。

 仙台教区では、2006年3月から教区長を務めていた平賀徹夫司教が、この裁判結審と同じ2020年3月に役職定年でに退任、小松史朗師が代行の使徒座管理者を務め、2年後の2022年3月19日にエマヌエル・ガクダン司教が就任している。司教からこの問題についての公のコメントはない。

 「都合のいい箇所だけピックアップした」という批判を受けないように、仙台教区の小松資料事務局長がVICEAsiaに語った全文を以下に改めて掲載すると、次のようになる。

 「もう何年もたっているので、悲しみが癒えるであろうとか、納得するがどうか、という話ではないにせよ。まあ、しょうがない事だっただろうな、ということ。事が起こったのは1970年代の話であり、その当事者である司祭も高齢で、だいぶ年齢がいってますんでね。(認知症)と言うこともありましたので、なかなか答えが難しい状況ではありました。

 もちろん第三者委員会というのは警察でもないので、捜査をするといっても、もうだいぶ前の話ですし、証拠を一生懸命探している、ということではないので、第三者委員会としては「あった可能性が高い」ということでありましたので、こちら側とすれば、この司祭を守らなければいけない、と言う立場もありますから、司祭と言うよりも、この人の人権を守らなくてはいけない、ということでありますので、なかなかむつかしい話ではありますけれども、まあ和解するというような方向を模索していますね。まあお互いに判断する、と言うことでしかないだろうと思います」。

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 問題は、このような言葉が、苦しみの中であえて被害を訴えている信徒に対する思いやりの欠如、他人事のような対応、教皇フランシスコが「弱い人々に寄り添い、互いの声に耳を傾け、共に歩む教会への願い」を込めて進めておられる”シノドスの道”とはかけ離れた、”聖職者主義”からいまだに抜けきれない、日本の教会の少なくない聖職者、なかんずく高位聖職者の意識状況を反映しているように思われるからだ。

 これは単なる思い過ごしではない。具体例を三つ挙げよう。

①日本の司教団は、数年前に、聖職者による性的虐待に関する”アンケート”をまとめたが、その内容はあくまでアンケートで、実態究明にははるかに及ばず、しかも、それ以来、具体的な対応を示さずに今に至っている。

②日本の司教団は毎年3月に性的虐待被害者の日を定めているが、年々おざなりになっており、今年3月は、東京教区がカテドラルでミサを挙げた以外、この問題を考える講演会などの行事を各教区が行ったとは聞いていない。長崎教区では、女性と子供のための権利保護の教区の窓口の担当女性が、司祭たちのパワハラのためにPTSDを発症、職務を継続不能となった後、閉鎖になっていた窓口を再開した、という、何の説明もないベタ記事を、「性的虐待被害者の日」に合わせたように教区報に掲載したのみ。

③長崎教区ではこのパワハラに対して、被害女性が裁判中で、教区側の強硬姿勢で和解調停も進んでいない。長崎教区は、先に、別の司祭の性的暴行に遭った女性が起こした損害賠償訴訟で、長崎地裁から損害賠償命令を受けているが、控訴はしなかったものの、教区はいまだに、被害女性に損害賠償をしたのか、それより何より、公式に謝罪したのか、精神的なダメージのケアに努めるのか、など全く公的な説明がなされないままだ。

 そのような流れの中で、同様の性的暴行に遭った仙台の女性が損害賠償訴訟を起こし、教区が設けた第三者委員会で状況的に黒、という判断を出したにもかかわらず、和解調停を教区側は進める意思がなく、別添したYoutubeのような言葉を教区事務局長が語っている、というわけだ。

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7 月 18 日(火)-21 日(金)開かれる2023 年度第 1 回臨時司教総会中に開催する「司教の集い」で、東京教区の田中昇師を講師に「教会の倫理的刷新」について学ぶ、と7月号カトリック中央協議会報に公示されている。

 このテーマであれば、当然、聖職者の性的虐待問題と司教団の対応についても”学ばざるを得ない”だろうが、上記に例示したように、いまだに司教も関係司祭も、性的虐待被害者に真剣に向き合い、耳を傾け、どう対応すべきか、を理解し、真剣に具体的対応に踏み出そうとしていない状態で、いくらお”勉強”をしても、何の役にも立たないだろう。

 日本では7月13日から改正刑法が施行され、不同意性交罪と不同意わいせつ罪が設けられた。暴行・脅迫や恐怖・驚愕(きょうがく)、地位利用など8項目の要因で、被害者が同意しない意思を形成・表明・全うするのが困難な状態にさせ性行為に及んだ者は罰する、というものだ。この規定に基ずく、初の逮捕者が翌14日に仙台で出ている。

 13日には、名古屋高裁が、知人女性への強制性交致傷罪に問われた被告の控訴審判決で、無罪とした一審の富山地裁の裁判員裁判判決を破棄、犯罪事実を認定し、求刑通り懲役7年の判決を言い渡した。判決理由は、「女性が置かれた状況や心理に思いを致さない検討を続けた」「女性は)被害が文字に残ることに抵抗を感じたため、性被害に遭ったと率直には記載できなかった」というものだ。

 世界の教会は、そして日本社会も、性的虐待に対して、弱者に真剣に向き合う姿勢に、大きく動いているのだ。

 

(2023年7月17日記・日本の教会の現状を危惧する東京の一信徒)

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2023年7月17日