三輪先生の国際関係論 ⑦子供のチャンバラ合戦で「マチオコシ」

     何処の街か知らない、子供のチャンバラ合戦で「マチオコシ」だという。ビニールの風船式の「刀」で運動会かなにかのように雄叫びをあげてたたかっていた。朝食のテーブルに着こうとした一瞬のテレビ画面であった。しかし私には深刻な想いを湧き立たせた。「平和」はこうして「崩れ」ていくのだと。

 太平洋戦争、当時は「大東亜戦争」が正式名称だったのだが、開戦と相前後して、学界には日本拓殖学会(日本植民学会といったかもしれない)、日本地政学会が生まれた。戦後日本国際政治学会へと発展的に解散再編された。政府の御用学会風な成り立ちは解消したと言ってよい。このメジャーな学界の異母兄弟のように日本平和学会が発足したのは、かなり後の事だったのではなかろうか。

   この学会そのものの大会ではなかったと思う。一部会かなにかの小規模な集会でのことだったと記憶する。場所は東京の三光町の聖心女子学院の講堂であったか、女性会員U氏が演壇からこう訴えた。「人間の闘争本能を駆り立てるスポーツは止めましょう。」平和の精神を醸成するのには、サッカーのようなスポーツは邪魔になるというのだ。

    そう、占領軍は復讐心をあおる「仇討もの」として恒例の歌舞伎の出し物「忠臣蔵」の興行を禁じたと。いや「禁じた」のではなく忖度した結果だったかもしれない。学校教育の中の、武道は廃止された。これも忖度であったか。はっきりしていることは、当時中学3年生だった柔道部員の私にも、いわゆる「終戦初段」と言う賤称で知られる免許が弘道館から正式に伝達されたのである。正式の免許状が私の手元に残っている。

 それから幾星霜、現政権の安倍晋三総理は、憲法改正の日程を、2020年には発効させるべく進めていると聞く。核心にある平和条項に、自衛隊を正規軍と位置づける文言を書き込むそうである。

   相呼応する如くに、肉体相打つ子供のチャンバラ戦でマチオコシを盛り上げようとしている自治体のニュースがテレビから朝の食卓にながれてくるのである。

(2017.5.30記)

(三輪公忠=みわ・きみただ=上智大学名誉教授、元上智大学国際関係研究所所長)

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