・Sr.阿部のバンコク通信  (80)タイに派遣の恵みを受けたきっかけは

      「私はいつごろから、タイという国を明確に意識するようになったのだろう」と、ふと思い、来し方を振り返ってみました。

  あれは、36年前、神戸聖パウロ書院に勤務していたころ、多くの人にアジアの近隣諸国の社会問題に関心を持って欲しい思い、関係書籍を取り寄せ、書院の入り口にコーナーを設けました。身近な周りのアジアの国々に渦巻いているさまざまな問題があることを知って、心を痛めていたのです。

 タイ国では当時、貧困、麻薬、人身売買、観光振興のあおりで住民たちの生活環境が悪化するなどの問題があり、関係の書籍が出版されていました。そうした書物を読み、現在起きている社会問題にとどまらず、アジア諸国の文化歴史言語の多様性や、命の脈打つ大地を感じ、発破をかけられた思いになりました。そして、漠然と意識していたアジア諸国の中でも、特にタイ国をはっきりと意識するようになったのです。

 遠藤周作氏の『王国の道』を読み、アユタヤ王国を背景にペトロカスイ岐部、山田長政、キリシタンのドラマが繰り広げられた日本との関係も知り、タイ国に対する思いが深まってきたおり、私が所属する女子パウロ修道会が総会で、新たに派遣を求められている15の国で宣教活動を始めることが決定されたのです。これまで、会員数も限られ、現在の活動を維持するだけで精いっぱいと、海外からの新規派遣の要請を断り続けていた修道会の決断は、福音書にある、手持ちのお金をすべて献金する貧しい寡婦のようでした。

 1994 年、タイ司教協議会の要請に応じ、3人の会員が派遣され、メディアの分野での宣教奉仕が現地で始まりました。派遣に当たって、修道会の総長からの、タイ行きの打診の手紙を受け取った時の感動は忘れられません。

 そして今も、安らかな、しかし燃える心をもって、アジア諸国での日本の教会の宿題と役割を強く意識し続けながら、タイ国で宣教奉仕に励んでいます。

(阿部羊子=あべ・ようこ=バンコク在住、聖パウロ女子修道会会員)

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2023年8月2日