・Dr.南杏子の「サイレント・ブレス日記」⑲ 人は何歳まで……?

 厚生労働省は4月22日、横浜市在住で116歳の都千代(みやこ・ちよ)さんが国内最高齢者になったと発表した。これまで国内最高齢だった鹿児島

稲垣政則撮影

県喜界町の田島ナビさんが前日、117歳で死去したことによるものだ。都さんは、国際的な老年学研究団体ジェロントロジー・リサーチ・グループ(GRG)に「世界最高齢」であるとも認定されている。

 日本人の平均寿命は、2016年時点で女性が87・14歳、男性が80・98歳となり、いずれも過去最高を更新した。100歳以上の高齢者数も増えている。2017年度は前年から2132人増の6万7824人に達した。

 それでは一体、人間は何歳まで生きられるのだろうか?

 衛生・栄養状態の改善は著しく、健康に関する人々の意識も向上している。さらに医療技術が進歩すれば、最高齢者の記録も更新されていくのだろうか? 残念ながら、最近の研究結果は逆の方向を指し示している。

 米国のアルバート・アインシュタイン医科大学が2016年、英科学誌ネイチャー(電子版)に発表した論文は、「人間の最大寿命には限界があり、すでに限界に達している」としている。

 研究チームは、19世紀末以降の世界40か国以上に及ぶ人口と死亡の統計を詳細に分析。さらに、百寿者の多い日本、米国、英国、フランスの4か国を対象に、110歳以上の高齢者の生年・没年などを調査した。その結果、各年に亡くなった人の最高齢は、1968年に111歳にまで延び、その後、毎年約0・15歳のペースで上がっていった。だが次第にブレーキがかかり、1995年ごろには「高原状態」(プラトー)となる。いわば、寿命がピークに達してしまった状態だ。

 人の寿命が「高原状態」となった2年後の1997年には、当時の世界最高齢だったフランス人女性ジャンヌ・カルマンさんが122歳で亡くなっている。以来20年以上が経過したが、彼女の記録は更新されていない。

 これらのデータからアルバート・アインシュタイン医大の研究チームは、人間の寿命はおおむね115歳であると推定する。これより多少長生きする人は現れても、人間の究極的な寿命は125歳であり、この年齢を超えて生き続ける可能性は1万分の1未満である――と結論づけた。

 「人間の究極的な寿命は125歳」という米国の研究者による指摘は、別の意味でも興味深い。今から100年以上前、明治の元勲・大隈重信が、<人間は本来、125歳までの寿命を有している。適当なる摂生をもってすれば、この天寿をまっとうできる>と唱えているからだ(大隈重信述「人寿百歳以上」)。 長寿で世界一を走る日本が、長寿論でも世界をリードしていたのは興味深い。

 116歳の都さんは、5月2日に117歳の誕生日を迎える。「現在、食事も自分でとることができ、毎日元気に過ごしております。皆で5月のお誕生日を楽しみにしています」。ご家族が公表したコメントに、皆の幸せな顔が浮かぶ。

(みなみきょうこ・医師、作家: クレーム集中病院を舞台に、医療崩壊の危機と医師と患者のあるべき関係をテーマに据えた長編小説『ディア・ペイシェント』=幻冬舎=を1月に刊行。http://www.gentosha.co.jp/book/b11411.html 終末期医療のあり方を問う医療ミステリー『サイレント・ブレス』=幻冬舎=は5刷出来。日本推理作家協会編『ザ・ベストミステリーズ2017』=講談社=に短編「ロングターム・サバイバー」収録)

 

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2018年4月27日 | カテゴリー :