・“シノドスの道”に思う ⑫ ドイツの視点から考える・その6「教会員調査に見る教会離れと 信者団体の批判」

 前回はドイツの福音主義教会が発表している教会員調査から「教会への信頼」の点だけを紹介しましたが、不十分でした。そこで、今回は、調査結果に対する二人の司教のうちの一人Dr.Tobias Kläden(司教協議会宣教司牧部門議長代理)の声明の概略を紹介します。冷静な分析で、これによって、カトリック教会の現状を、今まで以上に客観的に司教や司祭たちも認めざるを得なくなったと思われます。最後に、信徒団体「Wir sind Kirche(我々が教会)」の批判もご紹介します。

*宗教に関心を持つ人は全人口の半分以下

まずドイツ全体では、宗教に関心を持つ人は全人口の半分以下で、世俗的な傾向の人が全体の56%を占めています。宗教に関心を持つ人の中でもその過半数は宗教的な組織や団体から距離を置いています。幼児洗礼の時に入れた籍はそのままでも、ミサ等には参加せず、自分の考えによる宗教・信条を生きている人々が25%。実際に宗教的な組織や団体につながっている人は少数派になっています。

 既存のカトリック、プロテスタントといったキリスト教会に所属する人は全体の13%。しかも、そうしたカトリック信者で「私にとって宗教は意義がなく、どうでもよい」という人は39%いますから、この点からも教会を離れる可能性の人が多数いるということになります。

*キリスト教離れの傾向が強まっている

「何を信じているのか」との問いに、「唯一の神、すなわちイエス・キリストにおいて自らを表わした神を信じる」と答えた人は、全回答者(カトリック者が32%、福音主義者が29%)
のうちのわずか19%。29%は「”より高次の存在”、あるいは”ある霊的力”を信じる」としています。10年前の調査と比べて、宗教の中でキリスト教を支持する割合は減っています。

 実際に、教会離れも進んでいます。自分を「信心深い、教会に近い・親しい者」と思っているのは、カトリック信者のわずか4%、福音主義の信者のわずか6%でしかありません。カトリック者、福音主義者いずれも、約3分の1が批判的に教会に結び付いているか、教会から距離を置くかしています。

 カトリック、福音主義の信者のそれぞれ6割が、”本質的、基本的”に教会との繋がりを持っていません。ただ、「教会との結びつきの感情が時が経つうちに変わったか」との問に対しては、カトリック信者の約3分の2が「以前はもっと強く結ばれていた」と言っているのに対し、福音主義者は3分の1足らずが同じ答えをしています。

 

*カトリック教会への信頼度が劇的に落ちている

 カトリック、福音主義それぞれへの結びつきが弱まるに従って、教会に対する信頼も低下していますが、とくにカトリック教会に対する信頼の”侵食”は劇的です。前回も述べましたが、カトリック教会は世間からも、福音主義教会員からも、そしてカトリック教会員からも、あまり信頼されていません。カトリック教会員は、「カトリック教会よりも福音主義教会のほうが信頼できる」、さらに「教会よりも、公的機関の方が信頼できる」と考えています。カトリック教会への信頼度はさらに低くなる傾向にあります。

 

*教会離れを考える人が増加、主因は「スキャンダルへの対応」

 教会離れの傾向は強まっており、43%のカトリック教会員と37%の福音主義教会員は教会を離脱する考えを持っています。すでに、何度か教会を離れることを考えた、と答えています。離脱を考えていない信者は、カトリックで27%、福音主義で35%に過ぎません。

 離脱しようと考える理由は「教会の”対応”の仕方」に関係するものが最も多く、具体的には、教会関係のスキャンダル、性的な虐待と、隠ぺいがあります。「教会の無頓着、冷淡」「教会がなくても私はキリスト者でいることができる」「私は教会の態度表明に怒りを感じる」「教会の内部構造がヒエラルキー的すぎ、非民主的」「教会は女性の扱いが不平等」なども主な理由に挙げられています。

*離脱を思いとどまる理由としては

 少なくとも今は、教会離脱を決意していない(あるいは、いなかった)と答えた人に、今後も離脱を踏みとどまる条件を聞くと、カトリック信者の場合、「 どれほどの罪過を自ら背負っているかを、教会が明らかに認める」が82%、「 教会において男も女も同等の権利を持つ」が77%、「 教会が根本的に改革される」が72%となっています。教会の今後の取り組み、改革が、信者の教会離れを食い止める鍵となることを示しています。

 

*根本的な改革への要望

 調査結果は、教会に対して、まだ「期待」が存在しており、「改革」を求めていることを示しています。カトリック信者の96%、福音主義教会員の80%が「教会が『将来』を持ちたいなら、根本的に変わらなければならない」と述べています。「教会改革が正しい方向に向かっている」と受け止めている人は、福音主義教会員では78%いますが、カトリック信者では49%と半数割れです。

*具体的な要望

 教会に対して具体的に求めるのは、カトリック信者の場合、「社会的なアドバイス・助言の場所を運営すること」(全体の92%)、「避難民の受け入れに尽力すること」(79%)、「気候保護をもっと頑張ること」(76%)など。

 カトリック者の84%以上が「司祭任命のための決定権」を要求しています。「同性愛者のパートナーシップの祝福」(86%)、「教会の指導的人物の民主的な選挙」(7%)、「独身制の廃止」(95%)。「カリック教会と福音主義教会の共同作業」「宗派の個性の強調ではなく、協同」も、93%が求めています。

*信者団体「Wir sind Kirche(我々が教会)」の主張と怒り

「Wir sind Kirche(我々が教会)」は1995年に発足し、一般信徒、聖職者約1800万人の署名を得ている組織で、うち1500万人はローマ・カトリックを信仰告白。以前このコラムでも紹介した倫理神学者ゲルハルト・ヘーリンクやハンス・キュンク(いずれも故人)などもメンバーです。

 ドイツの司教協議会と信徒組織ZdKは、双方による「共同統治」を前提とした「シノドス委員会」を設置、さらに2026年に「シノドス評議会」を設立することを決議しました。しかし、「シノドスの道に思う⑨」で述べたように、バチカンから書簡で「シノドス委員会の規約を司教協議会全体として承認・批准するための投票を、行わないように」との”指示”を受け、司教協議会は、これに従って投票をしませんでした。これに「Wir sind Kirche(我々が教会)」が反発。3月1日に、司教団に対して「議事予定から投票を除けというのは、ローマからの誤ったメッセージだ。このような脅しに負けてはならない!」と声明を出しました。

*バチカンの矛盾-”ヒエラルキー(位階制)”と”シノダリティ(共働制)”のはざまで

 ”シノドスの道”を進める教皇フランシスコはこれまで、繰り返し「シノダリティ(共働制)と対話」を励す一方で、シノダリティを具体的に実行しようとするドイツの教会の取り組みを事実上、妨げ、バチカンの幹部たちは対話にも応じようとしない、これは無責任ではないのか、と「Wir sind Kirche(我々が教会)」は指摘しています。そして、このようなバチカンの姿勢が、「ドイツにおけるローマカトリック教会の評価を低下させており、昨年10月に公表されたドイツの教会員調査KMUの結果はその表れ」と断言、バチカン教理省の長官を実名で批判しています。

 「バチカンはドイツ司教団にシノドス委員会の投票を中止させたことで、ドイツ司教たちを困難な立場に陥れた。教会法の下では司教たちはローマに従う義務があるとしても、司教たちから信徒組織ZdKに助けを求めて進めてきたのに、そのドイツの全カトリック信徒を代表するZdKを裏切るような事態に至らせたのは解せない」と。

*バチカンの対話拒否は”シノドスの道”から外れていないか

 「Wir sind Kirche(我々が教会)」また、ドイツ司教団の”シノドスの道”をその中途で拒否し「シノドス委員会」への財政的支出を拒んだ4人の司教たち(ケルン、アイヒシュタット、パッサウ、レーゲンスブルクの4司教区)の姿勢は、ドイツの将来の教会の生育を阻むものとして有罪だと非難しています。この保守的な4人がいなければ、ドイツ司教団は一つにまとまっていたのに、彼ら
の存在がバチカンに「No」と言わせる口実を与えたから、としています。

 さらに、教皇大使であるエテロビック大司教にも非難の矛先を向け、「外交の仲介者としてではなく、”バチカンの犬”として振舞っているのであり、彼もまた対話を拒絶するバチカンと共に非難されるべきだ」とし、「これらは信頼の欠如であり、力を失ったバチカンの高位職の単なる恐れを示すものでしかない。教皇フランシスコは、バチカンの人々は地方教会に仕えるべきだ、と言っておられるが、それも空しい言葉に過ぎない。対話を拒絶するバチカンのやり方は、”うつろなシノダリティ”に過ぎない」と批判。

 「シノドス委員会」の次の会合は6月に行われるが、「それまでにバチカンとの交渉など、前向きな動きが必要。さもないと、シノダリティのすべての言葉は、うつろなものにとどまるだろう」と言明しています。

筆者はこのコラム「シノドスの道に思う⑥」で、ZdKの副議長でもある神学者Thomas Södingの言葉から5つのことを共に考えるべきだ、と述べました。それは①聖書②伝統③時のしるし④神の民の声⑤教導職と神学-です。③と④を真剣に受け止めない限り、”シノドスの道”は、「Wir sind Kirche(我々が教会)」が危惧するような”うつろなシノダリティ ”に終わってしまうでしょう。

注*教会員調査(KMU)については https://kmu.ekd.de、司教の声明は https://www.dbk.de 、「Wir sind Kirche(我々が教会)」についてはhttps://www.wir.sind.kirche.de 参照。

(西方の一司祭)

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2024年5月31日