・パキスタンで、「コーランを冒涜した」とする人々が暴徒化、キリスト教徒居住地区の教会、住宅を襲撃

(2023.8.17 Crux  Senior Correspondent    Elise Ann Allen)

Assaults on Christians over blasphemy charge latest twist in Pakistan’s religious tensionsローマ発 –パキスタン北東部,パンジャーブ州ファイサラーバードで16日朝、イスラム教の聖典コーランをキリスト教徒に侮辱されたとして、イスラム教徒による暴動が発生。キリスト教徒が多く住むジャランワラ地区のカトリックやプロテスタントの教会や民家が放火、破壊される事態となった。

 きっかけは、ジャランワラ地区でコーランから破り取られたページが見つかり、そこにイスラム教を冒涜するような言葉が書かれていた、というもの。そのページを渡された現地のイスラム教指導者が、犯人の逮捕と、報復を呼び掛け、暴徒化した人々が、”犯人”の若者の家を始め、周辺のキリスト教の教会や民家に放火、破壊した。

 暴徒は数百人に膨れ上がり、警察だけでは対応できず、軍隊が出動し、数十人を逮捕したと伝えられている。ただ、その一方で、SNSでは、出動した警察官が人々の破壊行為を見ているだけで、取り締まろうとしていない動画も流されている。

 現地の教会のある司祭は、ジャランワラ地区にはカトリック、プロテスタント合わせて17のキリスト教会があるが、そのほとんどが攻撃されたと思う、と述べ、カラチの国立カトリック神学研究所でのグルシャン・バルカット神父は、AP通信に対し、「コーランを冒涜した、というのは冤罪です。暴動は、その地域のモスクに責任がある」と語った。

 神父は当日、モスクの塔のスピーカーから、イスラム教徒たちに「キリスト教徒の教会と住宅地を攻撃する」よう呼び掛けがなされた、と言い、住民の一人も、「暴動を扇動するような呼び掛けがあり、それを聞いて、多くの人々がジャランワラ地区に押し掛けるのを見た」としている。

 この事件に対して、パキスタン内外から強い批判の声が出ており、アンワルル・ハク・カカール暫定首相がツイッターで強い遺憾の意を表明、「法律に違反し、少数派をターゲットにした者に対しては厳しい措置を取る」と言明。 シェバズ・シャリフ元首相も「いかなる宗教にも、暴力が許される余地はない」と強調した。

 パキスタンでは「冒涜」を厳しく罰せする「冒涜法」がある。それによれば、イスラム教またはイスラム教の著名な宗教家を侮辱したとして有罪判決を受けた者は、投獄され、場合によっては死刑を宣告される可能性がある。まだ冒涜罪で死刑になった例はないが、数名のキリスト教徒が「虚偽」と主張する告発を受け、何年も刑務所に入れられている。

 その中で良く知られているのは、キリスト教徒と同じ水差しから水を飲むのを拒否した農場労働者を批判して口論となり、冒涜罪で訴えられた女性の事件だ。彼女はいったん死刑を宣告されたが、彼女の無罪を支持する政府高官2人が殺害される事件などがあり、10年後の2019年に無罪が確定。だが、殺害予告を受けるなど嫌がらせが続き、家族と共に国外に脱出を余儀なくされた。

 実際に冒涜罪を根拠に、裁判以前に、殺害されたり暴動が起きたりする事件も起きている。

 最悪の悲劇は2009年。パンジャブ州ゴジュラ地区で、イスラム教を侮辱したとしてキリスト教徒が告発されたのをきっかけに、暴徒化したイスラム教徒がキリスト教徒6人を殺害、住宅60戸を焼き討ちにした。2021年には、イスラム教徒の暴徒がシアールコート地区の運動具工場を襲撃し、冒涜の疑いをかけられたスリランカ人男性を殺害、遺体を焼くという残虐行為に出た。今年に入っても、2月にナンカナの郊外で暴徒が男性をコーランを冒涜したとして、リンチにかけられた。今月初めには、南部バローチスターン州 トゥルバットで、冒涜罪で訴えられた教師が講義中に殺害されている。

 少数派の権利擁護を進めている「社会正義センター」によると、1987年以来、パキスタンでは2000人以上が冒涜罪で告発され、告発が原因で少なくとも88人が殺害されたという。

 人権担当大臣を務めた著名な政治家シリーン・マザリ氏は16日のキリスト教徒の教会や住宅の襲撃は「全く恥ずべきこと。非難に値する」と述べた。パキスタンのプロテスタント指導者は「私たちキリスト教徒は、ファイサラーバードで起きた事件に深く心を痛めています。 抗議のメッセージを発している間にも、教会が放火されている。聖書は冒涜され、キリスト教徒はコーラン違反の濡れ衣を着せられ、拷問や嫌がらせを受けています」と訴え、「私たちはキリスト教共同体として、司法、警察当局が全国民の安全と自由を確保するために速やかに介入し、命を守るよう、強く求めます」と訴えている

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2023年8月18日