・カトリックのシスターが治安部隊に身を挺して…”天安門”の再現(Crux)

(2021.3.2 Crux

Sister Ann Nu Thawng, a member of the Missionaries of St. Francis Saverio of Myitkyina, kneels in front of a row of police officers to plead with them stop the violence in Myanmar, Feb. 28, 2021. (Credit: Twitter.)

   2月28日の日曜日、ミャンマーで、1989年6月に北京で起きた天安門事件を彷彿とさせる出来事が起きたーカトリックの修道女が、軍や警察が民主政治の回復を求める人々を逮捕や暴力によって抑えつけるのを控えるよう、警察の治安部隊の前に跪いて祈ったのだ。まさに、北京の天安門広場で民主化を求める人々を排除しようとした戦車に1人で立ち向かった青年を思い起こさせだ。

 盾を持って列を組み、抗議する人々を排除しようとする治安部隊に1人、祈りと涙で立ち向かったのは、北部カチン州の州都、ミッチーナの聖フランシスコ・ザビエル宣教会のシスター、ローズ・ラサン・ヌ・ソーンだった。

 ミャンマーで軍部がクーデターを起こして、数十年ぶりの自由民主選挙で選ばれた政権を倒してから1か月。逮捕・拘禁された政権指導者のアウンサンスーチー女史と国民民主連盟(NLD)幹部の釈放と、民主政治の回復を求める人々の抗議運動が全土で続き、これを抑圧する軍、警察の発砲で多くの死傷者が出ている。“血の日曜日”となった28日には、ヤンゴンで銃による射撃などで少なくとも18人が死亡したが、抗議の活動を抑え込むことはできなかった。

 

 *「これが今の現実。平和と対話を」とボー枢機卿がツイートで訴え

 ミャンマーのカトリック指導者でヤンゴンの大司教、チャールズ・ボー枢機卿は、2月28日のツイートで、「シスター、ヌ・ソーンの働きで、約100人の抗議者が治安部隊の攻撃から救われた」と彼女の勇気ある行動を称え、治安部隊の前で祈るシスターの写真を添えて、「これは映画のシーンではありません。これが今のミャンマーの現実です」と訴えた。「警察は抗議する群衆を解散させるために、催涙ガスも使っています。残忍な軍事独裁政権と戦う若者たちは、他の人の命を助けるために自分たちの命を危険にさらしているのです」。

 ボー枢機卿を筆頭に、カトリック司祭、修道女も、スーチー国家顧問の復権と民主主義の回復を求める抗議活動に積極的に参加しており、「ミャンマーを救え」と書かれた看板を掲げて、各地で行進するグループもいる。

 2月初めの軍事クーデター以後、ミャンマーの司教たちは、一貫して平和を主張し、暴力的な行動に出るのを抑えてきた。

 そうした声を代表して、ボー枢機卿は28日のミサの説教で、「暴力が起きないことを祈ります。この土地に罪のない血が流されることのないように… 憎しみが、憎しみを追い払うことはありません。愛だけが追い払う。闇が闇を追い出すことはありません。光だけが闇を払いのけることができるのです。”目には目を”全世界を盲目にしてしまいます。愛と和解の力を信じましょう」と信徒たちを諭した。

 さらに、ミサで読まれた福音書の「イエスの変容」を取り上げて、「私たちの国も、『変容』が求められている」とし、「私たちは、すべての混乱、すべての暗闇、すべての憎しみが消え、私たちの国が平和と繁栄の地に変貌することを望んでいます… 私たちには平和が必要です。キリスト教徒としての私たちの第一の義務は平和をもたらすこと。憎しみは、キリストにはありません。憎しみは何にも勝ちません。過去1か月間、私たちは皆に懇願しました。平和が唯一の方法です。平和は可能です」と強く訴えた。

 28日の一人のシスターがとった行動は多くに人に強い印象を与えたが、現在のミャンマーの状況にどのような影響をあたえるかは、まだ分からない。

 1989年の天安門事件の際、中国の民主化を望む多くの人々は、虐殺が体系的な政治改革の触媒として機能し、中国が大きく変容するきっかけとなる、と期待した。だが、中国共産党は大衆の騒動が沈静する待って、以前よりもはるかに強力な権力を振るうようになり、希望は失望に変わった。

 ミャンマーが同じ運命をたどるのかどうか、分からないが、28日のシスター、ヌ・ソーンが多くの人に与えた鮮烈な印象は、”過去”が繰り返される中で、教会もそこにいて、平和と対話を訴えることを諦めないことを、思い起こさせてくれる。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2021年3月3日