・「大量の避難民の餓死、病死回避へ”人道支援回廊”の確保を」ミャンマー司教団が緊急声明(VN)

A shelter in a cave in a jungle in Kayah state, Myanmar. ミャンマーのカヤの密林の避難所の一つ   (AFP or licensors)

*「飢えや病気で大量の死者発生の危機」と国連警告

 国軍の弾圧で危機的状況にあるミャンマーでも特に中東部のカヤー州では、何千人もの避難民が食糧、水、薬の支援を受ける手段が断たれており、国連はこのほど、「飢餓、疾病などで大量の死者が出る可能性が強まっている」と警告を発した。

 これに対して、ミャンマー・カトリック司教協議会は8日から3日間の日程でヤンゴンで開いた総会の最終日11日に、緊急声明を発表。

 「私たちは政治家ではない。だが、困難な現在の状況の中で、人道的理由から、信仰者の立場から、人間の尊厳を一刻も早く回復することを求める」としたうえで、生命の危機にある避難民の地域への支援活動を確保する”人道的支援の回廊”の確保を提唱するとともに、避難所や宗教施設など「中立的な施設」を攻撃の対象としないよう、国軍と武装勢力双方に訴えた。

 ミャンマーでは、2月初めに国軍のクーデターで、武力で選挙で選ばれた民主政権が倒され、アウンサン・スーチー女史たち指導者が逮捕、拘束され、これに抗議する民衆を軍や警察の治安部隊が武力で抑え込もうとして、国全体が政治・経済・社会的混乱に陥っている。

*避難民たちへの食料、医薬品などの供給ルートも遮断

 そうした中で、国軍と小数民族の武装組織の抗争も再燃し、すでに長期にわたる弾圧、暴力で疲弊しているカチン族、チン族、カレン族、カヤ族など住民の多くがキリスト教徒の地域は、20余りの武装反政府勢力と国軍の戦闘が再び激化。多くの住民は故郷の村や家を追われ、教会など宗教施設に避難したり、密林に逃げ込んだりするのを余儀なくされているが、食料や医薬品など基本的な生活物資の入手ルートも戦闘で断たれて悲惨な状態にある。

 このような危機的状況に対して、司教協議会の声明は、「何千人もの人々、特に老人と子供たちが密林で飢えています」と述べ、「このような罪のない人々の飢餓は悲惨です。彼らは、私たちと同じように、食糧供給と安全確保の基本的権利が報償されねばなりません」としたうえで、緊急の具体策として、「私たちは、”人道的回廊”を設け、飢えている人々に、安心して手を差し伸べることができるようにすることを、関係するすべての人に懇願します」と訴えた。

*カヤ―州の避難民収容の四つのカトリック教会も攻撃された

 また声明は、「軍事衝突が繰り返される中で、何千人もの人々が安全を求めて、教会に集まってきているが、カヤー州のロイコー教区にある4つの教会は軍の砲撃を受け、そこにいた 何千もの避難民が密林などへの再避難を余儀なくされた」ことを挙げ、「戦時下における文民の避難所に関する国際規範」を守ること、教会、修道院、モスク、仏教寺院やおよび関連の学校、病院は「中立的な避難場所」であり、標的にしないこと、を求め、 「これらの場所が攻撃されてはなりません。避難を余儀なくされる人々は保護される必要のあること」と強く主張した。

 さらに、ミャンマーの全教会に対して、 「この国で、私たちは多くの苦しみを味わってきました。これは終わらせねばならない」とし、「すべての人の他者への思いやりとミャンマーの平和実現へ、祈りを捧げる」ことを一致して行うことを提案。具体的には、すべての教区で、この国の平和と和解のために毎日ミサを捧げ、ミサ後に司教協議会が作成した共通の祈りをすること、個人またはグループで毎日祈りの時間を持ち、ロザリオの祈りの中で聖母マリアに平和実現への助けを願うこと、などを継続して行う。

*70年間の紛争で勝者はなく、罪のない人々が押しつぶされただけ

 声明は最後に、ミャンマーの各分野の指導者たちに、永続する平和のために共に働くことを求め、「これまでの紛争の70年間は、罪のない人々に涙を流させ、押しつぶしてきただけでした。だが、誰も、勝ったことがありません。平和に向けて努力することが私たちの義務です」と強調。「この国は、平和に投資するのに値する国です。人間の尊厳は神によって与えられ、いかなる暴力も人間の尊厳に対する人々の願望を否定することはできません。そして、世界の歴史は、人間の尊厳が平和的な手段によって得られることを証明しています。平和はまだ可能です。平和が道です」と、全指導者、全国民に訴えた。

 カトリック・ロイカウ教区の教区管理者、セルソ・バ・シウェ神父によると、カヤー州と隣りのシャン州での戦闘激化で、高齢者、障害者、子供たちを含む人々が家を追われ、保護を求めて教区の教会や修道院に一時避難してきている。6月7日時点で、同教区内に23の国内難民収容施設が設けられ、約45,000人の避難民が身を寄せているが、教会が攻撃を受け、安全でなくなったことから、密林や他の場所に移動する者も出ている、という。

 また、シウェ神父は、教会を含む避難施設に食料や医薬品、その他の生活物資が送られているのが妨げられていることから、「飢饉の発生が差し迫っている」と強く懸念している。シャン州のぺコン教区の関係者によると、教区内のある村の国内避難民用の備蓄米倉庫が国軍に破壊された。「軍に対するすべての抵抗を押しつぶすために、食糧供給、通信、輸送、資金支援を住民や避難民が受けるルートを全て遮断する作戦が行われている」と言う。

 国連難民高等弁務官事務所は、2月1日の国軍クーデター発生以来これまでに、カチン、カレン、チン、カヤ、シャン各州合わせて17万5.00人以上が故郷を追われ、国内難民になっている。避難している。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2021年6月13日