・バチカンの有力枢機卿が、司祭独身制、性的虐待、聖職者主義、女性について語る

(2022.2.18 Crux Senior Corresponden  Elise Ann Allen)

 そして「教会は、聖職者主義の問題を理解し始めたばかりだと思う。それは多面的で、教会がまだ明らかにしていない面もある」とし、「司祭が 『私は叙階されているから、命令するのは私。女性は2番目です』と言ったら、それは聖職者主義に陥っていることを意味しますが、一般信徒の間にも聖職者主義の傾向がみられることもあります」と指摘。

 「私たちは時に応じて、一般信徒に一定の役割や司牧の機能を与えることができ、彼らは”聖職者”になる。自分自身にその役割を課し、他者との戦いに入る、という意味で。それが自分の責任だからーこれは『聖職者主義』、一般信徒の聖職者主義です。司祭の聖職者主義と何ら変わりません」と述べた。

 だが、教会が聖職者主義の問題を完全に把握して対処するには、「大掛かりな研究が必要で、今、その準備はできていない… 聖職者主義と性的虐待との関連についての研究は、ドイツ、フランス、米国などの国での虐待事件の取り扱いに関する調査研究の一部としてなされて来ましたが、歴史、教会法、神学、哲学など多くの側面から総合的な調査研究をする必要があります。その中で、司教の役割についても、より明確に定義せねばなりません」と語った。

 また、第二バチカン公会議以前には、司教の秘跡、あるいは合議制の概念についての議論に明確な発展はなかったが、 「それは教会の歴史にとって長い期間ではない。ですから、教会はまだこれらの領域を発展させる必要がある」と指摘した。

 教皇フランシスコは2019年5月に自発教令Vos estis lux mundi(あなた方は世の光)を発出され、世界の司教たちに(注:聖職者による性的虐待に関する)報告を義務付け、適切な対応をしなかった場合は、懲罰的措置を取ることを認めている。

 司教省長官として世界の司教たちを監督する立場にある枢機卿は、「今、私たちが厳しい視線にさらされている、と言うのは、その通りです。難しい時期にあります。私たちは多くの調査をしなければなりません。司教たちは75歳で定年を迎え、『もう大丈夫だ』と年金生活に入りますが、”大丈夫”ではない。なぜなら、その時に、告発を受けることがあるからです」と述べつつ、「今は、困難な時期ですが、良い時期でもある。私たちは成長し、浄化のプロセスを経つつあり、私たちの奉仕活動は改善されるでしょう」と期待を述べた。

 

*司祭の独身制

 枢機卿はまた、ラテン典礼カトリック教会に特有の問題であり、近年、新たな関心と議論の対象になっている司祭の独身制についても触れた。

 2019年に開かれたアマゾン地域シノドス(代表司教会議)では、既婚男性の司祭叙階が、アマゾン地域の司祭不足の解決策として提案されたが、教皇フランシスコは枢機卿の助言を受けてこの提案への回答を避け、この地域シノドスでは、神学校における司祭形成を強化し、司祭への召命を受ける若者が増えるように努めることを確認するにとどまった。

 枢機卿は、今回のシンポジウムの最終日19日に司祭の独身制の問題が取り上げられ、歴史的な側面と教義的側面から、既婚者の司祭叙階の是非について「極めて徹底的な分析」がなされる、と述べた。

 そして、「カトリック教会の中でも東方典礼教会には、既婚司祭がいる。それは目新しいことではありませんが、ラテン典礼教会は独身を叙階の要件として維持することを選択しましたが、その伝統を維持する正当な理由があります」とし、「司祭が独身であることは、何よりもイエスが誰であるか、というへの信仰告白です。イエスは、人類に救いをもたらすために地上に送られた天の父の息子であり、ご自分の地上での命を、私たちのために犠牲にされました。私たちは信仰の行為としてイエスにすべてのものを求めることが許されており、イエスには十分な友情をお返しになる用意ができている」と説明。

 その一方で、独身制と既婚者の司祭叙階の是非の問題についての議論は開かれており、今回のシンポジウムの場以外にもすでにあちこちで、様々な意見が交わされている、としたうえで、「将来、10年後、20年後に何が決められるか分からないが、現在、議論は続いている。だが、シンポジウムの主たる眼目は『司祭職』にあり、司祭の独身制ではありません」と念を押した。

 

*女性の役割

 今回のシンポジウムでは、19日に女性の修道者と一般信徒も発言し、教会で女性が果たすことのできる役割について見解を述べる。

 教皇フランシスコも、女性の司祭叙階への扉を閉ざしたままだが、教会における女性の役割と奉仕についてのCruxの問いに対して、枢機卿は、「女性の役割を一定の奉仕に限定している今の教会には、もっと革命が必要だと思います」と信じているとして、次のように述べた。

 「私たちは完全に聖職者です。一般信徒も、ジャーナリストも聖職者です。彼らは、これが教会の主たるものでであるかのように、司祭の立場からすべてのことについて考えています… 教会は、司祭や高位聖職者だけでなく、『洗礼を受けた人々の共同体』のメンバーで成り立っている。私たちは今も、そのことを学ばねばなりません、私たちカトリック教徒であり、私たちは女性の役割を認め、敬意を払い、女性の価値と神から与えられた資質・能力を認めねばなりません」

 多くの人は、女性の聖職者への叙階が、教会共同体の重要な意思決定への女性たちの貢献と関与を促す、と受け止めているが、枢機卿は、「女性たちは、修道者とのしての活動だけでなく、教皇フランシスコの最近の人事を見ても分かるように、バチカンでも高い役職に就く例が増えています」とし、「女性たちの教会における権威と意思決定への関与は、司祭職に限定されるものではありません。女性の持つ神から与えられた資質・能力からくるものです」と強調。

 教会のシノダリティ(共働性)と、現在進められている”シノドスの道”のなかで、このテーマが深く話し合われることが、「教会活動への女性の関与の問題に対する答えを見つけるのに役立つ、と信じている」と述べ、さらに、「”シノドスの道”は運動です。それは、教会の中で、一般信徒から、基礎から始まる運動です。私たちはそれに参加するよう招かれ、私たち司祭、司教、枢機卿は特別な仕方で、今、聖霊が私たちに語っていることに注意深く耳を傾けます」と語った。

 そして、「女性たちは単なる機能的役割以上のものを引き受けるべきです。教皇フランシスコは『叙階されているか否かではなく、能力に基づいて」、女性をバチカンの高い職位に付けておられ、実際にそれが実現しつつある」とし、「(女性が)より良く教会活動に参加できるようにするためには、教会を改革し、教会のカリスマ的な側面を考慮に入れ、より創造的にならねばなりません。それを急がねばならないと思います」と言明。

 「私たちが、キリストの証人となるという使命を果たすなら、大きく変化し続ける、まったく応答の無い世界で最善を尽くすなら、神に対する私たちの応えの正しさの中で強められるなら、すべての人々にとって特別な交わりの時となる、と私は思います… そして人々は、熱意に満ちて戻ってきてくれるでしょう。それが私の希望です」と語った。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

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2022年2月19日