・”シノドスの道”ーバチカンがドイツの教会に改革推進”一時停止”を迫る(Crux)

(2022.11.19 Crux Senior Correspondent  Elise Ann Allen) 

 ローマ発 –「アド リミナ訪問」でローマに滞在中のドイツ司教団が18日、 バチカンの教理、司教両省長官ら幹部と協議。論争の的となっているドイツ教会の「シノドスの道」の過程で出された諸改革をめぐってプロセスを一時停止する提案がなされたものの拒否されるとともに、さらに対話を続けることで合意した。

 今回の訪問にはドイツから62 人の司教が参加。教皇やバチカンのさまざまな部署の代表者と会い、自国の教会の現状と問題について最新の説明をし意見を交換する通常の「アド リミナ訪問」と異なり、個別の会合は持たず、17日に司教団と教皇およびバチカン幹部の合同会合とすることが予定されていたが、教皇フランシスコは個別に司教団と会見したものの、合同会合には参加されなかった。

 18日夜にバチカンが発表した声明によると、バチカンの幹部と司教団の会合は、「ドイツの教会が進めている”シノドスの道”について共に考える機会」として、以前から予定されていた。

Vatican urges ‘moratorium’ on German church reform process

*ドイツの”シノドスの道”で出てきた「女性の司祭叙階」「司祭の独身制廃止」「同性結婚を罪とせず」などの主張

 ドイツでは、教皇が提唱する2021年からの世界規模の”シノドスの道”に先行する形で、教会の管理・運営などへの一般信徒の役割を高めることを主な狙いとして2019年から独自の”シノドスの道”を始めていたが、その過程で、女性の司祭叙階、同性愛カップルに司祭が祝福を与えることなどが提案され、物議を醸すようになった。 司祭の独身制の廃止、結婚を認めること、同性結婚は罪ではないと宣言すること、など支持する意見が出され、司教の選任にあたって一般信徒に発言権を与えることなどの主張もされた。

*バチカンは「教会の分裂あおりかねない」と警告

 このような動きに対して、バチカンは今年の夏、ドイツの司教団に対して、教会の分裂をあおりかねない、と警告し、”シノドスの道”には「新しい統治方法や教義と道徳への新しいアプローチを採用することを、司教や信者に対して義務付ける力はない」と言明した。 これに対し、ドイツ司教団は、バチカンの発言に驚きを表明。物議を醸す可能性のある問題については正式な場で話し合うことを希望する、としていた。

*ドイツ司教団に対し、国務長官は”シノドスの道”の特定の要素に懸念表明

 会合後発表されたバチカンの声明によると、国務長官は冒頭のあいさつで、「ドイツの司教たちと我々、ペトロの後継者(である教皇)を結びつける交わりと愛の絆」をもとにした、「分かち合い、恵み、違いの中の一致の場」としての会合の重要性を強調した。

 また長官は、「ドイツ教会の”シノドスの道”の特定の要素について懸念」を表明し、「教会内」ではなく「教会」の改革を実行するリスクに対して警告した。

 

*”シノドスの道”の基本は「神の民の痛みに耳を傾けること」と独司教協議会会長

 これに対して、ドイツ司教協議会のゲオルク・ベッツィング会長は、ドイツの教会における”シノドスの道”のこれまでの歩みを概説し、その基本となる精神が「神の民の痛みに耳を傾けること」にあり、「聖職者による性的虐待がもたらしている痛み」に根ざしていることを説明。

 また、これまでの”シノドスの道”での様々な会合で出されてテーマとして、今日の司祭生活のあり方、教会の活動における女性の役割、性の問題と会いに生きるカップルへの対応などを挙げた。

 また、この会合に出席されなかった教皇フランシスコに、全世界司教会議総会を2023年10月に加えて2014年10月にも開くことで、”シノドスの道”を一年延長する決定を下されたことを感謝した。

 

*バチカンの教理、司教両省長官、ドイツの”シノドスの道”の内容、提案を「留保する」

 ベッツィング会長の説明が終了した後で、バチカンのルイス・ラダリア教理省長官とマルク・ウェレット司教省長官が「神学的報告書」を発表し、その中で、ドイツ教会の”シノドスの道”の方法論、内容、および提案について「留保する」ことを表明。

 バチカンの声明によると、両長官は、「教会の一致と福音宣教の使命」のために、ドイツ教会の”シノドスの道”の過程で出された諸要求を、現在、世界レベルで進められている”シノドスの道”に組み込むことを提案した。

 また声明では、この後に行われたドイツ司教団とバチカン幹部との「開かれた対話」では、「会合で強調されたテーマのいくつか、特に教会の仕組みに関連する、司祭職と聖職へのアクセス、キリスト教的人類学などについて議論を深めることの重要性と緊急性」が強調されるとともに、「異なる意見の対立においてさえも、聖なる”忍耐強い神の民”すべてと共に旅をしている、という認識が共有」された、とした。また、多くの意見が、”シノドスの道”において「福音宣教と使命」を中心に据えることに触れるとともに、「(ドイツ司教団が提起した)いくつかのテーマは採用できないこと」について認識がなされた、とも述べている。

*「さらに熟慮を重ね、互いに耳を傾け、対話を続ける」ことで落着

 そして、このような議論から、「ドイツの”シノドスの道”にモラトリアム(一時停止)を適用する」という提案がなされたが、拒否され、「(ドイツの教会が置かれた)困難な状況に照らして、さらに熟慮を重ね、互いに耳を傾ける」ことに落ち着いた。

 バチカンによると、この会合では、明確な決定はなされず、ドイツ教会が”シノドスの道”の歩みを続ける中で、「これからの何か月か互いに耳を傾け、対話を続ける」ことで合意した、という。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年11月20日