・「欧州は、ヘルシンキ会議の精神に立ち戻れ!」パロリン国務長官がウクライナ和平へ訴え

A tank in KyivA tank in Kyiv  (ANSA)

(2022.12.13 Vatican News  Lisa Zengarini)

 バチカン国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿が13日、駐バチカン・イタリア大使館主催の「欧州と戦争:ヘルシンキの精神から平和の展望へ」と題する会議で講演。

 東西冷戦終結に大きな役割を果たした「ヘルシンキ会議」*からインスピレーションを得て、「ロシアの軍事侵略で引き起こされたウクライナでの戦争を終わらせるための新しい外交的手段を見つける」よう、ロシアとウクライナ、そして全欧州の指導者たちに訴えた。

 この会議は、ロシアの軍事侵攻が始まって10か月を経過した今も和平交渉の見通しが立たず、外交面での努力が行き詰まり状態にある、ウクライナにおける悲惨な状況に対して、具体的な外交的解決策を話し合うために開かれた。

*(「カトリック・あい」注:ヘルシンキ会議=1975年夏、フィンランドの首都ヘルシンキで開かれた「全欧安全保障協力会議」のこと。アルバニアを除くソ連を含めた欧州33か国に米、加を合わせた35か国の首脳が参加し、採択された最終の合意文書「ヘルシンキ宣言」は、国家主権の尊重、武力不行使、国境の不可侵、領土保全、紛争の平和的解決、内政不干渉、人権と諸自由の尊重などの原則、信頼醸成措置(CBM)の促進などの安全保障の原則、経済・技術協力、人道的分野での協力(人の移動の拡大、情報の浸透の拡大、青年・スポーツ交流の拡大)などの推進を掲げ、冷戦時代の東西対話の集大成となり、冷戦終結に到る国際政治環境醸成に大きな役割を果たした。)

 

(写真は、宣言に署名する左から、シュミット西独首相、ホーネッカー東独首相、フォード米大統領、クライスキー・オーストリア首相)

*ウクライナで起きている軍事侵略の悲惨さに慣れてはならないー教皇の”涙”の意味

 講演で枢機卿はまず、ウクライナで起きている戦争に慣れてしまう危険性について再度警告。「ロシアによる軍事侵略が始まってから以来、私たちはこの戦争の『過ち』と『恐怖』を目の当たりにしてきました。しかし今、破壊的なミサイルがウクライナ全土を襲い、多くの民間人が死亡し、子供たちが瓦礫の下に取り残され、兵士が殺され、避難民となり、荒廃したというニュースに、私たちはほとんど注意を払っていません」と語った。

 そして、教皇が12 月 8 日に無原罪の聖マリアの日にローマで祈りを捧げられた際に落とされた涙は、このような「“慣れ”と無関心」への強い抵抗を示されたものであり、「今、私たちは停戦と公正な平和を達成するために、すべての外交努力を動員する、という教皇のこれまでの訴えを再び繰り返す必要があります」と強調。

 

*核戦争の脅威にさらされている

 さらに、「過去数週間で平和への希望の”かすかな光”が見えてきたにもかかわらず、攻撃はまだ続いており、それに伴って核戦争の脅威にもさらされ続けている」とし、「核兵器の使用、核戦争の可能性が言われていることは、恐ろしいことです。 軍拡競争の加速は憂慮すべきものであり、莫大な資金が飢餓との戦い、雇用の創出、一度も受けたことのない人々への適切な医療の確保ではなく、戦争に使われているのです」と指摘した。

*悲劇を終わらせる、新しい”全欧平和会議”を提唱

 そして、「このような悲劇を終わらせるために可能な限りの努力を、私たちはしているのか、自問せねばなりません」と述べたうえで、「東西冷戦時代のヘルシンキ・プロセスと軍備管理交渉を、現在の状況では再現することはできないとしても、『創造的に働く』という”ヘルシンキの精神”を復活させる条件はまだあります。ウクライナで進行中の野蛮な行為と核の脅威に対して、全欧州は”ヘルシンキの精神”を取り戻し、和平への道を歩まねばなりません」と訴えた。

 続けて、「私たちは、この戦争と多くの忘れ去られた戦争に、新しい手段で対処する必要があります。古い考え方に基づいて現在と未来を想像することはできません。平和と国際連帯の新しいプロジェクトを想像し、構築する必要があります。多くの国が意見を聞くことを求めていることを思い起してください。 私たちは、国際条約の新しいルール、平和に賭ける勇気を必要としています」と述べた。

 そして具体的提案として、「欧州は『新しい全欧平和会議』の開催に向けて取り組むべきです。 そうすることで、平和、法、国際正義に基づいた文明の光が得られるかもしれません」とし、「このプロセスを促進するために、バチカンは可能な限りのことをする用意があります」と言明。

 聖パウロ 6 世教皇が1965 年に国連に提出した歴史的な嘆願の中で使われた次の言葉を引用して、講演を締めくくったー「二度と戦争をするな! 平和が人々と全人類の運命を導くものでなければならない!」

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年12月14日