「『(家庭における)愛の喜び』を巡る緊張は ‘paradigm shift’によるもの」と国務長官(CRUX)

 (2018.1.11 Crux Editor  John L. Allen Jr.)ローマ発―教皇フランシスコが昨年春、家庭に関する使徒的勧告「 Amoris Laetitia(愛の喜び)」を出して間もなく1年。勧告はカトリック教会関係者の間でしばしば激しい議論を引き起こしているが、バチカン・ナンバー・ツーのパロリン国務長官・枢機卿によれば、それは、勧告のもつ幾つかの側面によるというよりは、勧告が提起したカトリック教会にとっての“paradigm shift(発想の革命的転換)”によるものだ。

 「結局のところ、この使徒的勧告がもたらしたのは、教皇フランシスコが知恵、慎重さ、忍耐をもって進展させている新たな発想なのです」「おそらく、(勧告を巡って)噴出し、いまも教会に存在するた問題は、勧告の内容の幾つかの側面を超えたもの、まさに、教皇が私たちに求めておられる『姿勢の変化』に起因している」と枢機卿は語った。「それは『paradigm change(発想の変化)』であり、勧告そのものがこのことを強く説いている。私たちに求められているものは、新しい精神、新しい道です!どのような変化も常に問題を起こしますが、そうした問題は責任を持って、面と向かって取り組まねばなりません」

 枢機卿の発言は、バチカンの組織の統合再編に伴って誕生した広報事務局が始めたインターネット・ニュース「Vatican News」のインタビューに答えたもの。内容は11日にローマから流された。

 英語の“paradigm shift”という言葉は、これまで当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することをいう。1960年代初期に科学者で哲学者のトーマス・クーン科学革命を提唱した際に、それを説明するために用いた言葉がその後、拡大解釈され、一般化した。

 パロリン枢機卿は、教皇がこの勧告でどのような類の発想の革命的転換を意図したのか、明らかにしなかったが、勧告を契機とした議論のほとんどは、離婚して再婚したカトリック信徒に一定の条件のもとで聖体拝領を認める道を開いたことを巡って起きている。評論家の中には、これは、広範な「司牧の転換」の一つ、より教理的、法的であるような枠組みを超えた、具体的な課題への司牧上の対応を強調するものだ、と見る向きもある。

 この他の課題では、枢機卿は現在教皇が進めている教皇庁の改革について言及した。最近、関係者の中には改革が進展を見せていない、とくにバチカン財政の透明性と説明責任の向上に向けた改革が逆戻りないしは放棄されたように見える、との声が出てきているが、こうした見方について枢機卿は「顕著な進展が見られている」と反論し、教皇が進めているのは大幅な構造改革ではなく「変更」だとして、こう語っている。

 「新しい法律、規範、人事などの実施を伴う大げさな構造改革ではありません」「それはむしろ、教皇庁の一つ一つの改善を進める強い意志であり、キリスト教徒の生活の根本的な次元での転換です」「目標とするところは、教皇庁-常により豊かで、より良い、義務と使命を曖昧にする影を取り去っていく―が真に、教皇が福音を伝え、福音の証しをし、現代社会を福音化していく助けとなることができるようにすることなのです」。

 また、枢機卿は、2018年のカトリック教会は「『若者』に特別の力を注ぐことになります」と述べ、教皇が10月に招集する「若者」をテーマにした全世界司教会議(シノドス)を頂点とする一連の事業に注力していることを強調した。ここでも、枢機卿は“new paradigm”の働きがあると指摘し、「今回の事業の進め方として最も革新的なのは、責任と父権主義脱却の発想のもとに教会と若者たちの新たな関係を探求することです」「教会は、現代の若者たちが直面している現実を見据えた対話を始めることを希望しています。若者たちを理解し、助けたいのです」。

 米国のケネディ大統領は1961年の就任演説で「国があなた方に何かをするように求めるのでなく、あなた方が国に何ができるかを問うてください」という有名な言葉を語ったが、枢機卿は、2018年に若者に焦点を当てるのは、まさにこの精神によっている、とし、「教皇と教会は若者たちに問いかけています。『あなた方は教会のために何ができますか、福音に、現代社会に福音を伝えるためにどのような事ができますか』と」と語った。

  バチカンのシノドス事務局は、このような趣旨に従って、世界の若者たちから出来る限りの意見集約を図ろうと努めている。インターネットに特別のウエブサイト(注・「カトリック・あい」でも以前からお知らせしています)を開設し、秋のシノドスの準備の一環として、世界の若者代表300人を集めた‶プレ・若者シノドス〟を3月19日から24日にローマで開催することにしている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

 

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2018年1月12日