(2021.7.3 Crux ROME BUREAU CHIEF Inés San Martín)
ローマ発ーバチカン検察当局は3日、前列聖省長官のアンジェロ・ベッキウ枢機卿枢機卿を含む9人と3つの法人を、ロンドンでの巨額不動産不正取引に関する複数の罪で起訴した。バチカン裁判所での審理は7月27日から始まる予定。バチカン裁判所で枢機卿が裁かれるのは初めてのことであり、徹底したバチカン財政・金融改革に対する教皇フランシスコの決意を反映したものと言えるようだ。
この巨額不動産不正取引は、2019年に発覚。同年10月にイタリアの有力週刊誌 L’Espressoが報じたことで具体的に表に出た。報道によれば、バチカン国務省が、世界の教会から集められ教皇の慈善事業支援にあてられる「聖ペトロ使徒座への献金」から、2億ドルを引き出し、ロンドンの高級住宅街チェルシーにある有名デパート・ハロッズ所有の倉庫群の一部を高級マンションへの転用目的で購入し、さらにバチカンの「宗教事業協会」(通称「バチカン銀行」)に残りを購入するために1億5,000万ドルの融資を求め、不審に思ったバチカン銀行が検察当局に通報したことから、不正が発覚した。後に、この不正取引で1億ドルの損失が発生したとされており、バチカン銀行から融資で”穴埋め”しようとした、との疑惑も持たれている。
今回のバチカン史上空前ともいえる大規模な金融犯罪に関わる起訴は、以来、2年間にわたる捜査をもとにしたもので、10人、3企業の起訴の罪状は、資金洗浄、詐欺、横領、恐喝、職権乱用、公務員の秘匿義務の逸脱など多岐にわたる。
ベッキウ枢機卿は、この不正取引があった当時、バチカン国務省のナンバー・ツーとして監督する立場にあり、不正取引に手を貸したとされている。起訴された他の9人の中には、バチカンの財務・金融取引監視部門のトップを務めていたスイスの高名な弁護士、ルネ・ブルハールもいる。ただし、国務省でベッチュウ枢機卿の”上役”だったパロリン国務長官らは、「不正取引の詳細について十分に認識していなかった」と検察当局が判断し、起訴対象から外された。
ベッキウ、ブルハール両被告の他に、金融アナリストのセシリア・マロンガが横領罪、マウロ・カルリーノが恐喝と職権乱用罪、不動産ブローカーのジャンルイジ・トルジが横領罪と詐欺罪などで起訴された。
また、以上の個人以外に、HP Finance LLCなど三つの法人を詐欺罪と横領罪で起訴した。
バチカン検察当局が3日発表した声明によると、捜査は、バチカン銀行の通報を受けた2019年7月から始められ、バチカンの司法機関、憲兵隊と連携、イタリア検察庁やローマ、ミラノなどイタリアの都市の金融当局の協力を得る形で、アラブ首長国連邦、イギリス、ルクセンブルグ、スロベニア、スイスにまで対象地域を広げるという、バチカン史上、空前の規模で行われた。
そして、このような徹底した捜査と、それに基づくバチカン前長官である枢機卿の起訴にまで及ぶ厳しい措置は、教皇フランシスコの財政・金融改革への強い意志を反映したものであることを強調している。
ロンドンの高級不動産取引に関するスキャンダルが明らかになった後、教皇は昨年12月、「聖ペトロ使徒座への献金」の使途、運用の明確化を図り、バチカン財政の管理・監督を強化する法令を発出。バチカン国務省の資産を聖座財産管理局に移管し、財務事務局によって監督することを決めた。
世界中の信者の献金による基金「聖ペトロ使徒座への献金」については、国務省から管理権を取り上げ、教皇が世界の困窮する人々、災害に遭って苦しむ人々などに対する慈善事業への資金提供という本来の役割を果たすようにすることが明確化された。少なくとも、 過去数年間、バチカンはこの基金を財政赤字の補填に使っていた。