(2018.5.17 国連WFP日本レポート)
【日本人職員に聞く】モーリタニア、津村康博さん
国連WFPモーリタニア事務所の津村康博副代表は、「イスラム過激派の活動地域に近いこの地域では、食べられなくなった人々が土地を離れることで、貧困に陥って過激思想に染まり、テロや内戦に加担する悪循環を引き起こしかねない」と警告しています
モーリタニアの生産物で、日本人にとって一番身近なのは「たこ」。スーパーでも同国産のたこを良く見かけるはずです。大西洋に面したこの国から、日本人の食べるたこの3割近くが輸入されています。
国としての主産業は牧畜です。国土のほとんどが砂漠で、わずかに緑の育つ南部に住民が集中しています。昨秋以降は雨の量が非常に少なく、津村さんは「昨年10月の衛星写真でも、植物が育つはずの場所に緑がなかった。近年で最も干ばつがひどかった2012年と、同じくらい深刻化する恐れがあります」と話します。
「特に困るのは、牧畜業や農家の人です。草が育たず、家畜の飲み水もない。家畜はやせ細って、現金収入にならない。生活必需品を売ってさらに蓄えを減らす人もいるし、牧畜や農業を放棄してフランスやスペインに出稼ぎに出たり、別の土地へ移ったりする人もいます」
このため多くの集落は住民が減り、消えようとしています。集落がなくなれば土地は荒れ、さらなる砂漠化の進行を招く恐れもあります。農作物の生産も減るため、十分な食料を得られなくなった若者の一部が、隣国のマリや、中東シリアの武装勢力に引き寄せられるリスクも高まります。「サヘル地域では、食料不足が国家の安定に密接にかかわっているのです」
またモーリタニアは、内戦などで政情不安に陥ったマリから5万人以上の難民を受け入れています。流入する難民の数は今年も増加しており、1月以来、新たに4000人が入国しました。
津村さんが出会った難民の中には、精神的な傷を負った元戦闘員や麻薬の運び屋、麻薬中毒の子どもなどがいたそうです。
「彼らは戦闘から逃げる中で親と離れ離れになり、誘拐されたり、飢えたりして仕方なく違法な仕事をしたと話していました。何もせずに支援を受けるより、マリに戻って麻薬の運び屋をした方が儲かる、と話す若者もいました。難民たちも、犯罪と紙一重の危うい状況にいます」
マリやセネガルも厳しい「リーン・シーズン」に見舞われています。津村さんは「モーリタニアは国境線が砂漠地帯にあり、簡単に越えられるため、周辺国の影響を受けやすい。干ばつ対策と食料の確保は、国内に内戦やテロを波及させないために必要な投資でもあるのです」と訴えました。
国連WFPは砂漠化を食い止めるため、緑化も支援。 Photo/WFP: Agron Dragaj
国連WFPは6~9月にかけて、モーリタニアで食糧支援を必要とする人が53万人に達すると予測し、支援規模を拡大しています。4月末に6万4000人だった食糧支援を、6~9月には約31万人に増やそうとしていますが、資金難で5月現在、22万人に留まっています。さらに、増え続ける難民への対応も迫られています。
津村さんは、日本の支援者に対し「ヤマハ製、あるいはヤマハ製を模した漁船がとても多いこともあってか、モーリタニアは親日的な人が沢山います。紛争地のシリアやイエメンの陰で、忘れられがちなサヘル地域の干ばつの問題にも、ぜひ目を向けてください 」と呼び掛けています。
サヘル地域6カ国では、計160万人の子どもたちが重度の急性栄養不良に陥る恐れがあり、500万人が食糧支援を必要としています。干ばつに苦しむ子どもたちに、ご支援をお願い致します。
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