(2017.1.30 Crux バチカン特派員 イネス・サン・マーチン)
トランプ米大統領による、イスラム7か国からの入国一時差し止めと米国の難民支援プログラムの停止の決定 は世界中で広範な抗議を巻き起こしている。カトリック教会の指導者たちはその一線に立ち、その決定を批判し、「今は米国の歴史で暗闇の時だ」との声も出ている。
批判の声は米国内にとどまらす、決定の影響を直接受けている地域も含めて、世界中のカトリック教会の指導者たちからあがっている。
イラクのシャルデアン・カトリック教会の代表、ラファエル・ルイス・サコ総大司教は、「迫害を受けている国々からのキリスト教徒の移民を優先的に扱う」という大統領の約束は、「中東に住むキリスト教徒にとっての罠だ」と語った。「宗教的な理由で迫害され危害を加えられている人々を差別する政策は、どんなものであっても、中東のキリスト教徒を害するものだ。それによって、中東のキリスト教徒共同体は、西側諸国の力に支持され、守られている集団〝よそ者″として、宣伝と論争の標的にされてしまう」という。
ワシントンポスト紙の報道は、そうした警告を証明しているようだ。報道によれば、過激派集団「イスラム国」のメンバーが「トランプの入国禁止令は、西側がイスラムとの戦闘状態にある、という我々の主張を証明するものだ」と語った。
Cruxの週刊ラジオ番組に登場したバチカンの教皇慈善活動室 の中東地域責任者、アンドレジ・ハレンバ師によると、「イラクのバシャール・ワルダ大司教が入国禁止の最初の〝犠牲者″になっている」という。大司教は米国を訪問して、イスラム国によるキリスト教徒追放問題について助けを得るために米国議会の民主、共和両党の指導者と話し合う予定を取りやめるのを余儀なくされた。
だが、カトリックの反応が最も活発なのは米国だ。「この週末、米国の歴史で暗みの時だということが証明された」と語るのはシカゴのブレイズ・キュピッチ枢機卿だ。「大統領令は、難民たちから顔を背け、暴力、抑圧、迫害から逃れようとする人々、とくにイスラムの人々に対して、国の門を閉じるようなものだ。これは、カトリック教徒とアメリカ人の価値観に反する行為だ」と強く批判した。
シカゴは歴史的にみて、そして今も、移民の入国地であり、不法移民の人口は全市の人口の7パーセントを占めているとみられる。教皇フランシスコによって枢機卿にされたキュピッチは昨年11月、「これまで私たちは、暴力から逃れようとする人々に顔を背け、特定の人種、宗教に属する人々を軽んじたり、除外したりを繰り返してこなかったでしょうか」との問いに対して、「私たちカトリック教徒は、そうした歴史を知っています。そうした判断の別の側にいました」とクロアチア人にルーツを持つこの人は答えていた。
テキサス州オースチンの司教で全米司教協議会移民対策委員会の長でもあるジョー・バスケス師は12月27日の声明で、「教会は、迫害から逃れようとする人々が何を信じているかによらず、助けることを信条としています」と述べ、「助ける相手の中にはキリスト教徒だけでなく、シーア派イスラム教徒、ミャンマーのロヒンギア、その他の宗教の少数信者も含まれます。家族を、家を、そして国を失ったイスラム教徒を含め、信仰を持つすべての兄弟、姉妹を守る必要が、我々にはある。彼らは神の子供たちであり、人間としての尊厳をもって扱われる資格があるのです」と強調している。
ボルチモアのウィリアム・E・ロリ大司教は信教の自由に関する暫定委員会の委員長だが、ボルチモア・サン紙に「我々の大司教区は難民、移民を歓迎し続ける」を言明した。米国には、国境と市民の安全を守る権利がある。「だが、米国はこれまで常に素晴らしく寛大で、難民、移民を歓迎していたし、(大統領令を)そのような方向への一歩とは見ていない」。むしろ大統領令は「後退の一歩」だと断言した。
サンディエゴのロバート・マッケルロイ司教は29日に声明を発表し、カトリック信徒にとって「異邦人を迎えよ、という聖書の命じる言葉は、個人個人の人生の中だけでなく、苦痛と混乱に満ちた世界に正義が行われる社会を作るために分かち合っていく責任を示してもいる」とし、それ故に、カトリック教徒は、米国が「戦争と迫害から逃れようとする人々の安全の地」と同義であると見なすべきだ、と述べた。そして、今週は米国にとって責任を放棄した恥ずべき時だ、とも語り、「我々は黙って立っていることができないし、そうすべきでもない」と訴えた。
ワシントン大司教のドナルド・ワール枢機卿は29日、大司教区内に司祭たちあてに書簡を送り、自身のホームページにも公表して「この文を書いている時、法的状況は〝流動的″であり、報道も錯綜している」としたうえで、「だが、その間にも、人々と人間的な懸念は影響を受けている」と述べた。枢機卿は1月27日に行われた連続44年目の「命の行進」について語る中で「我々の声―我々の存在は、我々のまだ生まれない人々と人生の各段階での暮らし守る中で、を無視しえない」「難民たち、とくに宗教的迫害からの逃れようとしている人々を支援するために声を上げる時だ」と書いている。そうすることは「法的な国家安全保障に関わる問題になる可能性」があるが、「連邦政府が〝助けを求める罪のない人々を犠牲にすることなく職務を遂行する」ことに期待を表明した。さらに「政治的な議論は今後も続くだろうが、我々は戸口に立っている異邦人、傷つきやすく、助けを必要としている人々を日々世話する司牧と実務に注力し続けることにベストを尽くさねばならない」と言明している。
デトロイトのアレン・ビグネロン大司教はミシガンのイスラム教師協議会あての書簡の形で声明を出し、「カトリックの共同体は、どのような信仰を持とうと関係なく、移民、難民のために声を上げ続け、ケアを続けるつもりであることを知ってもらいたい」と励ましの言葉を送った。スクラントンのジョセフ・バンベラ司教、アーリントンのマイケル・バービッジ司教、そしてニューワークのジョセフ・トービン枢機卿も大統領令を批判する声明を出している。さらに、全米司教協議会の会長、副会長のガルベストン・ヒューストンのダニエル・ディナルド枢機卿、ロサンゼルスのホセ・ゴメス大司教が連名で30日、「人間としての尊厳を守る立場」から、難民、移民を排除する大統領令の事実上の撤回を求める声明を発表している。
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