(2016.12.6 Crux バチカン特派員 イネス・サン・マーチン)
南米ベネズエラで毎12分から18分に一人が殺されている―彼あるいは彼女の名前は分からないが、統計は嘘をつかない。世界最大の原油埋蔵国のひとつ、ベネズエラでは、何年も続く独裁政治と経済失政から、絶望的な人道危機が起きている。
ニコラス・マドゥロ政権の代表が12月6日、バチカンの仲介による和平協議を求める反対派代表と会談の場を持つ。国民に最も人気のあるレオポルド・ロペスら批判派の主要人物の幾人かは欠席、その妻たちも出てこない。というのは、彼らは今、ローマにいて、バチカンで陳情活動をし、カトリック教会に危機解決に立ち上がってくれるように要求しているのだ。マドゥロ政権が反対派が求める和平協議に応じないなら、教皇代表が和平協議実現に動いて欲しい、と。
「私たちはここバチカンで、国際社会はベネズエラの政治犯の釈放を求めているということを認識してもらいたいのです」とティントリ・ロペス夫人は語った。元運動選手でテレビやラジオの司会者を務めるティントリは今、彼女がベネズエラの「イデオロギーの囚人」と呼ぶ政治犯問題に取り組む国際的な顔になっている。批判派は、107人の政治犯の実名を公表し、釈放を要求した。彼女の夫、レオポルド・ロペスは運動の最重要人物の1人に数えられることになった。
「私たちは彼ら全員のために、ここにいます」と語るティントリ夫人。「明日には全員が自由になっていなければなりません。そうでないなら、和平協議は成立しない。そのような事態になったら、バチカンが事態の打開に立ち上がってくれるのを期待してます」。4日の夜、ティントリと義母、それに批判派の夫人たちがサン・ピエトロ広場で手をつなぎ、国際的な理解を求める示威行動に出た。
時を同じくして、囚われの身となっているレオポルド・ロペスらが釈放を求めるハンガーストライキを開始した。「残念ですが、彼らはそのために暴行を受けている、という知らせを受けました」とティントリは言う。彼女たちは4日の夜にローマに着いたが、「バチカンに願いが届くまでここにいます。マドゥロ政権は国際条約を守らねばなりません」。レオポルド・ロペスは政府に対する平和的な抗議デモを指導したあと、2014年2月に収監された。もうひとりの批判派のリーダーは、米政府の助けを借りてマドゥロ政権の転覆を図ろうとした、として昨年、逮捕されている。国連人権高等弁務官事務所やアムネスティー・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウオッチなど国際的な人権保護機関、団体が彼らの釈放を求めているが、釈放は実現していない。彼らを含む政治家、活動家、学生たち107人はマドゥロ大統領によって軍刑務所に収容されている。批判派が主張しているのは、まず和平協議の前提としての彼らの釈放、そして人道的な回廊地域の開設、選挙日程の再確定だ。
レオポルド・ロペスの母親は、釈放を最優先することを訴える。「彼らは餓死寸前です。病院には資材がなにもない。がん患者は、政府が薬の輸入を港で止めているために、救われるはずの命を落としている。そうしている間に、12分か18分おきに、1人の命が失われているのです」と窮状を説明した。そのような中で、彼らの要求をマドゥロ大統領が受け入れなければ、頼りはバチカンしか残っていない、とバチカンの調停に期待をかけている。
バチカンは批判派から要請され、マドゥロ政権にも受け入れられている。同じ南米のアルゼンチン出身の教皇フランシスコがベネズエラと結びつきがあるのに加えて、もうひとりのバチカン高官がカトリック教会による和平プロセス推進の力となることを期待されている。国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿だ。彼は教皇によって国務長官に任命されるまで、2009年から2013年までベネズエラの教皇大使を務めていた。
パロリン国務長官は12月2日付けでマドゥロ大統領に部外秘の書簡を送り、その中で、批判派が求めている政治犯釈放などとともに、大統領によって停止されている国民議会の憲法上の権限を回復するよう要請した。4日、ベネズエラでは、バチカンでの任命式から帰国したバルタザール・エンリケ・ポラス・カルドーゾ枢機卿が、枢機卿としての初ミサを捧げたが、ミサには教皇大使のアルド・ジオルダーノ大司教も参加しており、両者のミサ後の会談で、ポラス枢機卿は、教皇に「ベネズエラの国民は信仰と希望と喜び、そして憎しみと暴力を超えた平和と対話をもたらすための堅い意志をもっています」と伝えてくれるように大使に求めた。枢機卿はマドゥロ政権を強く批判していることで知られており、11月にローマで、記者団に対して、枢機卿に選ばれた理由は、ベネズエラの危機にある、と語っている。
Cruxが何人かの関係者に取材したところでは、政治犯の釈放、和平協議の成功に大きな期待をかける声は少ない。しかし、教皇フランシスコは、先日のスエーデンから帰国途中の機内での記者会見で、「和平交渉を支持する対話が紛争から抜け出る唯一の道です。他の道はない」と語った。そして、レオポルド・ロペスの母親は言う。もう時間は残されていない。「こうしている間に、これ以上、何人の人が殺されるのでしょうか」。
(訳・南條俊二)
こうしている間にも、ベネズエラでは新たな殺戮が明らかになっている。ベネズエラのカトリック司教団の正義と平和委員会は6日、12人の若者がマドゥロ大統領が作った人民解放軍によって殺害されたことを明らかにするとともに、戦争犯罪であり、殺人行為であると強く非難した。12人は10月25日に人民解放軍の手で拉致されていたが、11月28日、同国ミランダ州バルロベントの大規模墓地で遺体となって発見された。
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