シスター、人身売買と戦う・世界70か国に22のネットワーク(CRUX)

  (2017.8.30 Crux Inés San Martín) 

ローマ発―シスター・ガブリエラ・ボッタニは、1990年代半ば、初めて遭遇した人身売買という人間を苦しめる大きな悪と戦うためにその職務のほとんどすべてを捧げる決意を固めた。そのとき彼女はまだ修練期間中で、ボランティアでローマのカリタスセンターにいた。そこで彼女はリナと名乗る女性に出会った。

  リナは、普通の女性ではなかった。イタリアに人身売買で連れてこられたアルバニア人で売春の仕事で搾取されていた。彼女の‘稼ぎ’は? 顧客一人につき$1.5にも満たず、おまけにHIVと言うボーナスまでもらっていた。リナは、ある晩、ボッタニが手伝っていたホームレス女性のためのセンターにやってきた。この日から、このコンボニ修道女は、助けを求めているあの大きな黒い瞳を忘れることができなくなった。彼女はこの罠にはめられた生活から逃げ出したがっていた。

  「私たちは彼女が安全な場所に行かれるようすべてを準備しました。でも、その日、彼女はとうとう現れませんでした」。とボッタニはCruxに語った。その2週間後、リナは、バチカン所属の全国的カトリック慈善グループのネットワークであるカリタスイタリアが運営する家に戻ってきた。

  「リンダが私に語ったところによると、彼女は売春の生活から抜け出す決心をしましたが、彼女を搾取する連中―そういう言葉は使いませんでしたが、そういう意味の―連中は彼女にどんな家族がいるか知っていました」。ボッタニは、まだヨチヨチ歩きの子供がいると、リンダが彼女に告げた時の言葉を思い出しながら語った。「私は私の生活か、私の子供の生活か、どちらかを選ばねばなりませんでした。私は子供を選びました」

  このリンダ―実名ではないが―との出会いが、ボッタニのターニングポイントとなった。それは1994年のことで、清貧、純潔、従順、社会の最も貧しい、疎外された人々の中で生きることを選んだ国際的な奉献女性の集まりであるComboni Missionary Sisters女子修道会の彼女の修養過程の初期のことだった。彼女は、リンダとの出会いが、信仰に生きるものとしても彼女の練成の上で大きな衝撃となったと信じている。「でも、それはまた、リンダや、彼女のような他の大勢の苦しむ人々のドラマに私の目を開いてくださった神との出会いの瞬間を意味していました」。

  この出会いの後まもなく、ボッタニはドイツで社会教育学を学び、結局ブラジル北部のFortaleza で、favelaというブラジルの最もひどいスラムに何年も住み、そこでまた再び強制的に売春をさせられる子供たちや青少年たちの現実と遭遇することとなった。今、彼女はローマに住み、そこで、人身取引と戦う世界70国における22のネットワークをコーディネートする組織である「タリタ・クム」を主導している。

  「これは、この複雑で困難な問題に対処協力するために、修道会の取り組みから生まれました。このように女性のリーダーシップからはじまり、今ではカトリック修道女たちだけでなく、神父たちや一般信徒、他宗教の人々や、宗教を持たない人たちも含め活動しています」

  何が彼女に搾取と戦うことに自分を捧げようとさせたか、という説明として、ボッタニは、ファラオの手からイスラエルの民を救うよう神に使わされた、聖書にあるモーゼのイメージを挙げている。「お呼びになったのは神です。なぜなら神は苦しみの絶望的な叫びを聞かれたからです。この苦しみの中にいる、肉体的、精神的暴力の犠牲者である私たちの兄弟姉妹の懇願を。そして、神は彼らの呼び声を聞かれるとき、神もまた私たちに、彼らの声を聴け、と呼びかけられるのです」。

 人身売買の背景

  「統計によると、毎年世界で人身取引される人数は2100万人に上る。それは、ニューヨークの人口の2倍に相当します。」と、アメリカ司教海外開発アーム、カトリック救済事業会(CRS)の経済正義プログラムマネージャーのシモーネ・ブランチャードは語る。その半数以上が女性と子供である。教皇フランシスコが「人道に対する罪、現代の奴隷制度」と断罪する人身売買は、利益の上がる産業でもある。麻薬や不法武器取引に次いで、年間推定1500億ドルを生み出す最大犯罪産業となっている。

  CRSは、2000年からこの問題に取り組んでおり、5大陸に渡って145の反人身売買プロジェクトを展開している。しかしながら、彼らの努力の大部分は、人身売買のおよそ半数を占めるアジアの人口大国、インドに絞られている。それは、この不法売買が途上国だけで行われているということを意味しない。ヨーロッパじゅう、そして、アメリカ合衆国でも、男性も女性も取引されている。

  ブランチャードによると、人身売買の犠牲者たちが「陰に隠れていること」に人々は気づいていない。彼らは、レストラン、ガソリンステーション、農場、ホテルなどにいるのだ。ボッタニの説明によると、「人身売買」と「奴隷」の歴史的違い、と言うのも、時とともに変わってきている。もともとは、「人身売買」は、誘拐され、中東のハーレムに売られる白人女性や少女意味し、「奴隷」は、主に財産として売買され、過酷な状況で強制的に働かされ搾取される男女のことを意味していた。

  2000年に国連は、同年の国際組織犯罪条約の三つの補足の一つである国際的組織犯罪の防止に関する国際連合条約を採択した。それによると、人身売買とは、「搾取目的」で、「脅迫、教養、誘惑された人間を補充したり、輸送したり、譲渡したり、隠匿したり受け取ったりすること」と定義している。搾取には、「最小でも」強制的売春や、その他の性的搾取,強制労働、苦役や臓器の摘出が含まれる。

  ボッタニは、この厳密な定義を言葉通り思い起こさせることを言っている。要するに、「すべてに共通していることは、経済的利益のために他人を搾取することを言っているのです。と。

 倫理的取引、教皇フランシスコとカトリックができること

  倫理的取引はブランチャードの専門分野で、アメリカ合衆国のカトリック界が信仰を行動に移すことのできる一つの方法であると信じている。Cruxとのインタビューで、彼女は教皇フランシスコの使徒的勧告「福音の喜び」を引用している。教皇フランシスコは、「倫理的取引」と言う言葉は使っていないが、他者のことを考慮しない今のライフスタイルを続けていることに警告を発し、それが「無関心のグローバリゼーション」の広がりにつながると主張している。

  ブランチャードが引用しているのは「繁栄の文化が我々の心を鈍化させている。市場が購買できる何か新しい物を提供すると、我々はワクワクする。しかし幸運に恵まれず当惑している人々の生活は単に哀れな光景でしかないよう見え、我々の気持ちを動かさない」。だが、我々は心を動かされなければならないとブランチャードは信じる。結局、「あなたの十字架の金はどこから来るか知っていますか?」多くの場合、それは「金鉱で強制的に働かされているペルーの子供たち」からだ、と彼女は説明する。「これらの問題について深く考え、我々が消費するものを作る人々のために祈り、現地の公正な賃金を支払うビジネスをサポートするサプライチェーン透明法のような、人身取引を防ぐ政策を支持する」ためにカトリックの人々を協力させようと、ブランチャードは教区の人々や学校や大学や、個人と働いている。

  彼女は、調査会社にとって、公正な取引をしているかどうかを知ることはただの時間の浪費すぎないかもしれないが、カトリックには責任があると確信している。労働者や環境をサポートする会社がたくさんあり、人身取引を防ぎ、地元のコミュニティに投資する立場を明らかにしている、と語っている。「倫理的取引を証明するものもないし、そういう『運動』があるわけではありません。ビジネスは、透明性をもって共通の利益のために貢献し、そのことに責任を持つべきだ、またそれが可能だ、という考え方なのです」。

  CRSは、労働者を公正に扱い、二酸化炭素の排出量を段階的に削減し、彼らの製品や原料の供給先のコミュニティに投資するとわかっている世界の20社とパートナーを組んでいる。そして、現在 “Holiday Ethical Gift Guide”を制作中で、今年リリースすることになっている。教皇フランシスコは人身取引と戦うためには遠慮なくものを言う。

  教皇は人身売買と戦うための共同声明に調印させるためにすべての主要宗教のリーダーをバチカンに集めた。また同じ目的で、ニューヨーク、パリ、ローマ、マドリッドを含む世界の主要都市の市長たちを召喚した。また、人身取引の残酷さにスポットライトを当てるために世界中から100名の裁判官を集めてのワークショップを主催した。ボッタニは、「教皇フランシスコは、我々に力を与え、生命のために戦う教会内外の人々に道を開いてくださるのです」と、語った。

(翻訳・「カトリック・あい」岡山康子)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

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2017年9月10日