この2週間のカトリック教会の中枢は、もはやバチカン市国の使徒宮殿ではなく、ローマのジェメッリ病院10階の教皇個室にあった。
教皇は就任当初から、予測不可能で衝動的という評判を得ており、側近や高官を困惑させている。長年にわたる多くのオブザーバーや協力者たちは、このようなスタイルは、たまたまではなく、一人で采配を振るい、他の誰にも屈服したり支配されたりしていないことを明確にする戦略だ、としている。
過去10年間、彼の側近となり、そこに留まることができた者はごくわずかで、彼の秘書官(伝統的に教皇に最も近い存在として知られ、伝統的にほとんど信頼できる息子や側近として扱われてきた若い司祭)でさえ、定期的に交代させられるため、誰も教皇に近づきすぎることはない。
要するに、これまでなされ、これからもなされ続けるであろう決定すべてが、フランシスコ自身から直接下されるものであり、フランシスコが何を考えているのか、あるいは次の一手が何なのかを知る 立場にある人物は、いたとしてもごくわずかなのだ。
このようななさり方は、変性疾患で不自由になり、統治ができなくなったヨハネ・パウロ2世のような過去の教皇職で見られたシナリオを防ぐために考案されたものだ。ヨハネ・パウロ2世の協力者には、長年にわたり職権乱用と汚職の疑惑を取り仕切った国務長官アンジェロ・ソダーノ枢機卿や、個人秘書のスタニスワフ・ジヴィシュ大司教(後に枢機卿)らがいた。ベネディクト16世の場合、辞任前にはバチカンの運営を制御し続けるにはあまりに体が弱くなり、側近、特に国務長官のタルチシオ・ベルトーネ枢機卿に肩入れしていた、と観測筋は語っている。
教皇フランシスコの場合、当初から彼がすべての重要事項の判断はご自身が行っており、ジェメッリ病院の病床からでさえ、そうされているのだ。バチカン内部ではなく、イタリア政府を通じて、教皇が統治を続けていることを示す明確な例がある。2月19日、入院して1週間近くの教皇は、ジェメッリ病院を個人的に訪問したイタリアのメローニ首相と面会された。首相は、その後の演説で、政府とイタリア国民を代表して、フランシスコの一日も早い回復を祈った。「いつものように冗談を言い合いました。 彼はユーモアのセンスを失っていません」と彼女は語り、記者団に、「教皇は『自分の死を祈っている人々がいる』と冗談を言われる一方で、『主は私をここに残すことを考えておられます』と話されました」と述べていた。
情報筋によると、通常なら首相の面会を手配するはずのバチカンの担当部局は意図的に無視された。長期入院というデリケートな時期に、政府首脳が教皇に面会を強要するのは、ご本人が面会が望まれているという明確なサインがない限り、ありえることではなく、教皇ご自身が面会を働きかけた、と見方が強い。
教皇はまた、入院中も重要な人事案件を処理し、重要な書類に署名し続けておられる。バチカンは、入院翌日の2月15日、教皇がシスター、ラファエラ・ペトリーニを3月1日付でバチカン市国総督府長官に任命した、と発表した。教皇が病院から正式に任命されたことれがいかに優先された人事か示すものだった。そして数日後の18日、教皇は、ケベック大司教区に対する被害者集団訴訟の一環として提出された性犯罪者リストに名前が含まれていたベイ・コモー教区のジャン=ピエール・ブレイズ司教のを受理しておられる。
教皇は、2月22日に呼吸器系の危機で危篤状態に陥った後も、最側近のアドバイザーたちと定期的に会合を持ち、仕事を続けてきた。その危機の後、彼の訪問はより制限されているが、バチカンの財政を一掃し、大赤字を処理する戦いにおけるさらなる動きを含め、彼の承認を必要とする予定や決定は、ほぼ毎日、発表されている。
バチカンは2月25日、教皇が、聖人への道を歩む複数の人物の列聖を進め、ベネズエラ人信徒福者ジュゼッペ・グレゴリオ・エルナンデス・シスネロスとイタリア人信徒福者バルトロ・ロンゴの列聖日を決定するための聖職者会議を承認した、と発表した。ただし異例なことだが、聖職者会議の日程は発表されなかった。
国務長官のパロリン枢機卿と、総務局長のパーラ大司教との病院での会見では、日付のない聖体礼儀の開催そのものが承認された。 パロリン枢機卿とパーラ大司教によって承認手続きが行われたことと、聖体礼儀の日程が決まっていないことが相まって、前任の教皇ベネディクト16世が2013年2月11日に行われた列聖日決定のための聖体礼儀で自らの教皇職からの辞任を表明したように、教皇フランシスコも、その場で辞任を表明するのではないか、との憶測が飛び交った。
教皇がカトリック教会を十分に統治できず、意思決定プロセスを制御できないと感じた場合、辞任されるのではないかという憶測は、以前からあった。フランシスコは、教皇就任当初、500年以上ぶりに辞任したベネディクト16世は「勇気ある」教皇であり、高齢化する教皇に新たな扉を開いた、と語っておられる。最近では、「辞任は考えていないし、するつもりもない」と強調しされていた。
教皇が今の危機を乗り越えられたとしても、職務を続ける体力、統治能力に疑問があるのは確かだが、最も重要なことは、この決断そのものではなく、即位から12年経った今でも、教皇フランシスコの心境や最終的にどう決断されるのか、誰も断定的なことは言えない、ということだ。
その意味で、病気にもかかわらず、フランシスコはフランシスコであり続けておられる。これまでで最も深刻な健康危機にもかかわらず、教皇フランシスコは決断を下すのは自分ひとりであることをはっきりと示され、側近たちをも困惑させ続けている。
それゆえ、教皇の現在のジェメッリ病院滞在は、単に健康を回復するためだけではなく、ご自身の破天荒で “我が道を行く “スタイルを確固としたものにし、誰が糸を引いているのかについて誰もが混乱しないようにすることなのだ。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)
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