(評論)イラン問題で顕著になったトランプ米大統領と教皇レオ14世の対立とこれまでの経緯

(2026.4.14  Crux   Bill Barrow, Associated Press)

 学識豊かで物腰の穏やかな聖職者、教皇レオ14世と、好戦的で闘争的な政治家、トランプ米大統領は、これまでも言葉の応酬を繰り返してきた。それが今や、イラン戦争をめぐる意見の相違は急速に激化し、両者がこの戦争とその影響をいかに異なる視点で捉えているかを浮き彫りにしている。

 大統領は12日、ソーシャルメディアで教皇を「弱腰」であり「急進的左派」の虜になっている、と決めつけ、教皇の地位は自分のおかげであるかのような示唆さえした。一方、教皇は大統領のイランに対する脅しを「容認できない」と断じ、信徒たちに戦争と平和に関する聖書の記述や教会の教義を説き、自分の使命は、大統領とは全く無関係だ、と記者団に説明した。

 「私はトランプ政権を恐れてはいない」と教皇は13日、アフリカへ向かう機中で記者団から質問を受けて語った。また、「教会が取り組んでいる福音のメッセージについて、声を大にして語ることも恐れてはいない」とも述べた。

 これは、世界で最も影響力のある二人の人物-いずれも米国人―が関わる異例の光景だ。彼らがこの局面に至った経緯を振り返ると…

*レオ14世は、教皇就任前から物怖じせずに発言していた

 2022年にロシアがウクライナに侵攻した際、将来の教皇、プレヴォストはペルーの司教だったが、モスクワに明確な責任を問うことを躊躇しなかった。ペルーの番組「ウィークリー・エクスプレッション」で、プレヴォストは「ウクライナの戦略的な立地に着目したロシアが、相手国の領土を征服しようとする帝国主義的侵略」と批判。

 こう発言した映像は、2025年5月8日に彼が教皇に選出された直後、イタリアのメディアで再び取り上げられた。

 2025年初頭、当時のプレヴォスト枢機卿はソーシャルメディアを通じて、改宗カトリック教徒であるJ・D・ヴァンス米副大統領を批判するニュース分析を共有した。同副大統領は、キリスト教が他者への配慮に優先順位を定めており、家族、身近なコミュニティ、同胞を外国人より優先すべきだと主張し、厳しい移民政策を正当化していた。

 「JD・ヴァンスは間違っている。イエスは他者への愛に順位をつけるよう求めてはいない」―将来の教皇が共有した見出しには、そう書かれていた。 カトリックの司教たちは地元のメディアで頻繁にコメントしており、中には相当な影響力を持つ者もいる。しかし、公共政策や政治についてどれほど詳細に言及するか否かは、人によって大きく異なる。

 多くの司教たちは、教会の教義や価値観に関する大まかな声明にとどめ、個々の政治家と対立するような立場を取ることを避けている。ペルーでの発言、そしてローマで枢機卿として行った珍しいリツイートを通じて、プレヴォストは世界情勢に精通しており、批判においてかなり率直になることを厭わない姿勢を示したのだ。

 

*トランプはプレヴォストの教皇選出を「大いなる名誉」と讃えた

 

 「ロバート・フランシス・プレヴォスト枢機卿が教皇に任命されたことを祝う」と、トランプは2025年5月8日にソーシャルメディアに投稿した。「彼が初のアメリカ人教皇であることを実感すること。これほど光栄なことはない。なんと興奮することか、そしてわが国にとってなんと偉大な名誉なことか。教皇レオ14世に会うのを楽しみにしている。それは非常に意義深い瞬間になるだろう!」と。

 その後、トランプはホワイトハウスで、レオの選出について「我々は少し驚いたが、非常に喜んでいる」と述べた。そして、次の日には、それを自分の手柄として吹聴した。「彼は教皇候補のリストには載っていなかった。彼が米国人だという理由だけで、カトリック教会は彼を候補に挙げたのだ。それが『トランプ大統領に対処する最善の方法だ』と考えたのだ」とも。

 トランプはレオを、愛国主義的な誇りと忠誠心の観点から捉えている。レオとの会談(未だ実現していない)への即座の言及は、たとえ政治的に自然な組み合わせでなくとも、権力や有名人に対するトランプの典型的な傾倒を反映していた。また、トランプの発言には、レオの出身、背景やバチカンと米国の関係に関する微妙なニュアンスが一切反映されていない。

 枢機卿団は歴史的に米国を多少懐疑的な目で見ている。それは、米政府の軍事・経済政策が世界、とりわけ貧しい国々に与えてきた影響のためであり、また世界一の超大国出身者に教皇の座を与えることへの一般的な抵抗感があるためだ。

 教皇は米国で育ち、教育を受け、司祭に叙階されたが、その後、長い間、南米の貧困地域を含む米国以外の国で教会の指導者として活動した。「彼は米国人の中で最も米国人らしくない人物だ」と、シカゴのカトリック神学連合大学のスティーブン・ミリーズ教授は語った。同大学で若き日のレオは神学修士号を取得している。

*教皇は就任当初から、戦争と平和に関する教会の教えを体現していた

 

 「 『あなたがた皆に平和があるように…』-これは、神の群れのために命を捧げた善き羊飼い、復活したキリストの最初の挨拶です」-これが、聖ペトロ大聖堂のバルコニーから教皇が語った最初の言葉だった。

 そして、最初の日曜日の祝福のために再びバルコニーに立った時、彼はロシアによるウクライナ侵攻とイスラエル・ガザ間の暴力に言及し、「断片的な第三次世界大戦」だと非難した。その翌日、記者団との会見の冒頭で、イエスの言葉を引用し、「 『山上の説教』で、イエスはこう宣言されました―『平和をつくる者は幸いである』と」と述べた。

 教皇の就任当初の発言はすべて、イエスの中心的なメッセージとして「平和」を強調しており、教皇在任中の主要なテーマとなるだろうことを予見させていた。ウクライナ、ロシア、イスラエル、パレスチナへの言及を加えたことは、理論にとどまらず、教義を世界中の人々に起きている現実に応用しようとする彼の意志を裏付けていた。

 

*教皇は米国との結びつきを強調することには慎重だった

 平和に関する教皇就任後の最初の声明の言葉と同様に重要だったのは、多言語を操る教皇が用いた言語だ。どれもが英語ではなかった。

 聖ペトロ広場での世界に初登場した時、教皇はイタリア語で話し始め、その後、自身が司牧を務めたペルーのカトリック信者や市民に向けてスペイン語を用いた。日曜日の祝福はイタリア語で行われた。彼は記者団に対し、シカゴ出身者特有の訛りを残しつつ英語で簡潔に挨拶したが、すぐにイタリア語に切り替えて発言を続けた。最近の記者との会見でも、レオはまずイタリア語で話し始め、その後英語で答えている。

 ラテン語とイタリア語はバチカンの公用語だから、教皇が”現地語”を話すのは当然のことだ。しかし、多言語を操る彼にとって、流暢なイタリア語やスペイン語を使うことは意識的な選択だ。それは、彼が14億人の信徒を抱える世界的な組織の指導者であることを強く印象付けている。

 「彼は、米国側の人間として、あるいは米国人としての権威に頼っているように見られたくないのだと思う」と、カトリック大学のウィリアム・バルビエリ教授は述べた。「彼は教会の名において語りたいのです」。

 

 

*聖週間と復活祭が露呈した溝

 

 今月のキリスト教徒がイエスの復活を祝う復活祭の頃、トランプはイランへの脅しをエスカレートさせた。教皇は、受難の主日のメッセージで、イエスを「平和の王」と呼び、神は「戦争を仕掛ける者たちの祈りに耳を傾けることはなく、むしろ『たとえ多くの祈りを捧げても、私は聞かない。あなたの手は血にまみれているからだ』と言って拒絶する」と述べた。

 トランプは聖週間の行事に際し、保守派の宗教指導者たちをホワイトハウスに招いた。彼の精神的な助言者であるポーラ・ホワイトは、大統領をイエスに例え、「二人とも、迫害を受けながらも耐え抜いた人物だ」と讃えた。

 ローマでは、教皇が他者の足を洗った。これは、聖書の最後の晩餐の物語に記録されたイエスが弟子たちに対して行った行為に倣ったものだ。記者団に対し、教皇は初めてトランプに名指しで言及し、「大統領がイラン問題において『出口』を模索することを望む」と述べた。復活祭当日、トランプはイランの民間インフラへの大規模な爆撃や「文明全体の根絶」をほのめかした。教皇は、その脅しを「真に容認できない」と非難した。

 両者の著しく異なる視点と性格、そしてイラン戦争の深刻さが相まって、「トランプとレオが直接対決を避ける」という観測や可能性は、ついに完全に剥ぎ取られた。

*トランプは依然として教皇レオ14世を”国内の政敵”として扱っている

 教皇レオ14世を「弱腰」などと非難する4月12日の投稿で、トランプ大統領は「私は、米国大統領を批判するような教皇は望まない。なぜなら、私は『圧勝』して選ばれた通りのことを実行しているからだ」と述べた。さらに、「(教皇は)政治家ではなく、偉大な教皇であることに専念すべきだ」と付け加えた。

 一方、教皇はアルジェリアに向かう13日の機中で記者の問いに「自分は政治家として発言しているのではない」と改めて答えた。「私のメッセージを、大統領が試みていることと同列に置くのは、福音のメッセージを理解していないからだと思う」と語った。「(大統領がそのように言われたと)聞かされて残念だが、私は、今日の世界における教会の使命だ、と信じることを続けていく」とも。

 教皇職にとって、これは極めて異例な事態だ。教皇たちは通常、世俗の政治家の名前を具体的に挙げることなく、世界情勢についてコメントする。また、トランプ氏は敵とみなした相手には日常的に攻撃を仕掛けるが、教皇を相手にした構図は大統領にとっても珍しい。今回、トランプ氏は、大統領が示すような条件を受け入れず、そのような政治的な圧力もほとんど受けていない人物を相手にしているのだ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2026年4月14日