・福音派原理主義の牧師が、グアダルーペの聖母像を粉砕、崇敬するメキシコの人々に衝撃

(2024.1.19 La Croix  By Eliott Nail )

 1月上旬のことだ。メキシコで宣教師を務める米国福音派プロテスタントのケビン・T・ウィン牧師が、集まった人々が拍手を送る中、斧を手に取り、グアダルーペの聖母像を粉々に打ち砕いた。 現場の動画はソーシャルメディアで急速に拡散し、カトリック教徒が多くを占めるメキシコで最も愛されている方の像に対する残忍な扱いに、オンライン上で多くの人々に強い怒りを引き起こしている。Facing the Evangelical onslaught in Mexico, bastion of the Virgin of Guadalupe

 この行為の実行者は原理主義バプテストの牧師で、この40年間、多くの人々を自分の教えに改宗させようと、メキシコのさまざまな地域で説教を続けている。 彼は自身のウェブサイトで、自分は何千人もの人々をカトリックから「救った」と誇らしげに主張し、一部の福音派の信徒たちが抱いている拡大主義的願望を体現している。そして、その願望を満たすことは、特に多くのメキシコ人から尊敬を受けているグアダルーペの聖母によって妨げられている、というのが、聖母像破壊の動機だ。 

 グアダルーペの聖母はメキシコのカトリックの中心人物であり、国とその首都の守護者だ。ピオ12世教皇は彼女に「米大陸の妃」の称号を与えた。 メキシコシティ郊外にあるグアダルーペの聖母大聖堂には、その像が置かれ、バチカンの聖ペトロ大聖堂に次いで世界で 2 番目に訪問者数が多いカトリックの宗教施設となっている。

 グアダルーペの聖母への崇敬は、スペインによるメキシコ植民地時代にまでさかのぼる。 メキシコの美術史研究者キャロライン・ペレー氏は、「16世紀以来、スペインはこの聖母像をもとにメキシコの植民地化を進めていった。スペイン人は現地の人々と同じ言語を話さなかったので、聖母像が共通言語のようなものになった」と語る。

  この聖母像はもともとカトリック教会の福音宣教を目的としたものだったが、やがて政治的な側面を帯び、 1810 年には国の独立と統一の象徴の 1 つになった。 「グアダルーペの聖母万歳!」 と、反乱の英雄の一人である司祭ミゲル・イダルゴは叫び、 今日でも、オブラドール大統領が、聖母を「メキシコ人の第一の象徴」であると宣言している。

  「グアダルーペの聖母は、植民者と原住民の混合を表しています。非常に異質で不平等な国にとって不可欠な象徴。その像を大衆の面前で破壊するウィン牧師の行為は”イメージ戦争”を始めようとする願望を体現しています」とペレー氏は述べた。

 「 ウィン牧師の行動はメキシコに転換点をもたらした。グアダルーペの聖母』には敵対しない、という暗黙の了解を打ち壊す行為だ」と人類学者でメキシコ宗教現象研究者ネットワーク(RIFREM)の共同創設者、レネ・デ・ラ・トーレ氏は強調。さらに、「グアダルーペの聖母像の破壊は、米国に本部を置く原理主義バプテスト教会の牧師の攻撃的な説教スタイルにおけるメディア露出戦略の一環。大多数の福音派の牧師や信徒にとって、偶像崇拝は排除すべきもの。悪魔は偶像崇拝の中に隠れている、その悪魔に対して『霊的戦争を仕掛ける』という考えを持っているのです」と語った。

 メキシコのソーシャルメディアや主流メディアはこの行為に強く反応したが、その衝撃は1995年にブラジルで起きた同様の事件ほど大きくはない、との見方もある。

  ブラジルの守護聖人であるアパレシーダの聖母像が、 Universal Church of the Kingdom of Godの会員である福音派牧師によって襲撃された事件は、 生中継され、「国中に大きな衝撃をもたらした」と、メキシコとラテンアメリカの現代カトリックに詳しい社会学者ロベルト・ブランカルト氏は言う。中南米では、近年、福音派プロテスタント教会が急増しており、 ブラジルでは現在、福音派の信徒が全人口の30%を超えている。

 そうした中で、メキシコは「福音派の増加が最も少ない」国の一つだ、とトーレ氏は言う。 RIFREMが2016年に実施した調査によると、福音派とその他のカトリック以外のキリスト教徒の総人口に占める割合はわずか8.5%で、カトリック教徒は78%で、その後も目に見えるような増加はない、という。

  政治の分野では、2006 年に新ペンテコステ派の牧師によって設立された連帯会議党 (PES) が、選挙で の得票が4% を超えたことはなく、2021年以降、国会に議席を持っていない。大統領は2018年にPESと同盟を結んだが、これは福音派プロテスタントの運動を奨励する狙いよりも、むしろ”宗教的ポピュリズム”の一形態だ、と専門家は指摘する。

  最新の調査によると、メキシコ人の79.8%がグアダルーペの聖母を崇敬しており、 これは同国のカトリック教徒の総人口に占める割合より3ポイント高い。

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(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年1月20日