(評論)トランプの「アメリカ・ファースト」が米国と世界のカトリック教会に与える深刻な影響(LaCroix)

(2025.3.27 La Croix  MassimoFaggioli)

 近い将来、特にドナルド・トランプ第2代大統領の任期中に米国がどうなるのか、誰にも分からない。 しかし、トランプ政権が組織的な政府機関の縮小、場合によっては解体を通じて、国の方向性を根本的に変えようとしていることについては、ほとんど疑いの余地がない。 大学への”攻撃”は、トランプの政策課題が政府機関など公的機関の役割の再定義にとどまらないことを示している。

 MAGA(Make America Great Again=米国を再び偉大な国に)に全米を”同期”させながら、「法の支配」 と「三権分立」を無視するトランプ政権のこの威圧的な姿勢は、この国のカトリック教会に影響を与えずにはおかない。米国の雑誌とのインタビューで、バチカン国務省のギャラガー外務局長は、「米政府の対外援助機関、USAID廃止方針は、米国の対外援助からの撤退という形で、その深刻な影響を全世界が目の当たりにしている」と強く批判した。

 トランプ政権の移民政策と行動は、学生、聖職者、修道会の会員がビザを取得するのを難しくすることによって、米国を世界から孤立した国、孤立した教会にしようとしている。こうした政策が生み出す不確実性は、他国との人の交流を難しくすることになろう。そして、世界のカトリック教会との交流を減らし、米国のカトリック教会と信者が米国内外で司牧活動を行う能力を低下させるかもしれない。

 米国とバチカンの外交関係への影響だが、特に2025年2月10日に教皇フランシスコが米国の司教団に宛てた前例のない書簡をきっかけに、トランプ政権下でバチカンとの外交関係がどのような形になるか注目される。米欧間に生じつつある大きな乖離は、バチカンにも影響を与えるだろう。

 英Financial Timesのアソシエイト・エディター、ウォルフガング・ミュンシャウは「バンス副大統領は、欧州人が過小評価するような米国人だ」と書いている。 ヨーロッパのカトリックの中には、バンスのような”新しいタイプ”の米国のカトリックを過小評価する傾向がある。

 世界中のカトリック信者は、米国の教会に起きていることを懸念すべきだ。それは自分たちの地域の教会にも影響を与える可能性が高いからだ。

 トランプ大統領の私邸、マー・ア・ラーゴで開かれた「Catholics for Catholics」への招待客リストを見ると、一部の司教や米国カトリックの方向性を形成する主要人物の消極的な無関心を通して、ナショナリストの一派がいかに常態化しているかが分かる。 こうしたカトリック信者の中には、例えば教育に関するトランプ政権の政策に、明らかに同調する者もいる。今、米国のカトリック右派は、「この国を神と教会に返すために、左派と世俗主義者の手から取り戻す」という物語をトランプ政権に提供している。 保守的なカトリックを支持するカリフォルニアの弁護士兼実業家のティム・ブッシュ氏は、3月初め、トランプ政権を「これまで見た中で最もキリスト教的」と宣言するエッセイを発表した。

 トランプ大統領は、「二国間や多国間レベルでの国家間のルールや対話のない、一極集中の世界」という夢を国民に売り込もうとしている。 このような世界観は、聖座のそれとは正反対である。 トランプ政権は、カトリック団体がグローバルに活動を展開する能力に影響を与えるだけでなく、米国のカトリック精神を大きく変容させる可能性がある。 「アメリカ・ファースト」は「アメリカだけ」になる危険性があり、その現実は米国のカトリック教会にも及ぶかもしれない。 「アメリカ・ファースト」はまた、米国のカトリックが「アメリカン・ドリーム」の虜になることを意味する。

 トランプ支持の信者の多くは、教皇フランシスコとの距離を「自分は、ヨハネ・パウロ2世カトリックだ」と表現している。 1978年、”鉄のカーテン”の向こうの枢機卿が教皇が選出されたことは、東欧を共産主義から解放することに貢献したが、その裏返しとして、カトリック教会が”西側の大義”に寄り添いすぎる危険性をはらんでいた。

 しかし、これは決してバチカンが米国の社会モデルを無批判に受け入れることを意味しない。 「アメリカ・ファースト」のイデオロギーは、米国のカトリシズムの普遍性を腐敗させ、カトリックの社会的伝統とトランプ主義が米国に強要しようとしている政府、社会、教会の考え方の違いを否定する「パラ宗教」プロジェクトでもある。

 連邦政府の役割に関するこのトランプ的理解は、ジャコバンの特徴として、米国の教会を含むカトリック教会と深く対立している。 バチカンの外交官として長い経験を持つある高位聖職者が最近私に語ったように、今アメリカで起きていることはキューバを思い起こさせる。

 バンス副大統領は2月14日のミュンヘン演説を次のように締めくくった— 「教皇ヨハネ・パウロ2世は、この大陸における民主主義の最も偉大な擁護者の一人であると私は考えている。 私たちは、たとえ国民が指導者の意見に反対する意見を表明したとしても、恐れるべきではないのです」。

 1995年の訪米時の説教の中で、ヨハネ・パウロ二世は、このように問いかけられた—「現在の米国は、貧しい人、弱い人、見知らぬ人、困っている人に対する感受性や思いやりを失いつつあるのでしょうか? そうではありません!」。

 今日、以前と同様、米国は”もてなしの社会”、歓迎する文化であるよう求められている。 もし米国が自らに反旗を翻すとしたら、それは “米国の経験 “の本質を構成するものの終わりの始まりではないだろうか。 今度、カトリック信者である米国の副大統領がヨハネ・パウロ二世の言葉を引用するときには、このことを考える必要があるだろう。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。
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2025年3月29日