(評論)シノドス総会の討議要綱には進歩的なテーマが盛り込まれているが、教会の分裂を助長する懸念も(Crux)

Synod working doc aims to unite Catholics, but may alienate conservativesCardinals and bishops attend the closing Mass of the Synod of Bishops on young people, the faith and vocational discernment, in St. Peter’s Basilica at the Vatican in this Oct. 28, 2018, file photo. On Oct. 2, 2022. (Credit: Claudio Peri/Pool via Reuters via CNS.)

(2023.6.20 Crux  Senior Correspondent  Elise Ann Allen)

 ローマ発 – 「断片化と二極化」を超えて世界のカトリック教会、信徒を導く取り組み-バチカンのシノドス事務局が20日、10月の”シノドスの道”の当面の仕上げとなる世界代表司教会議(シノドス)総会の討議要綱を発表した。

 この要綱が総会で取り上げるべき事項として列挙している具体的なテーマは、進歩的な考えを助長しているように見えることで、実際には、教会の分裂を助長する可能性もあるようだ。

 

*議論するテーマに「女性の助祭叙階、既婚男性の司祭叙階」「LGBTQ+の信徒への支援拡大」などが入れられた

 列挙した具体的な議論のテーマの中には、女性の助祭叙階、既婚男性の司祭叙階のほか、LGBTQ+の信徒への支援拡大や、貧困層、環境、移民に焦点を当てること、などが挙げられている。

 その一方で、この約2万7000ワードの要綱は、保守的な信徒にとって優先事項と考えられる中絶、同性婚、安楽死などの問題を議論すべきテーマとして示していない。

 

 

*だが「中絶」や「安楽死」は皆無、「結婚」の問題もわずか

 実際、本文中には、「中絶」や「安楽死」という言葉がまったく見当たらない。「結婚」という言葉も、離婚して再婚する信徒や他宗派の信徒との結婚、一夫多妻制への対応という文脈で3回しか言及されていない。

 要綱では、「この文書は、教会の教導職―つまり教権を意味する-の文書ではない」としているが、それにもかかわらず、しばしば進歩的と考えられるテーマが”優勢”であることは、保守派を(”シノドスの道”から)さらに遠ざける可能性がある。 2021年10月に教皇フランシスコによって正式に始められた”シノドスの道”は、「synodality church(共に歩む教会)のために:交わり、参加、宣教」をメインテーマとし、今年と来年のそれぞれ10月にローマでひらく2つのシノドス総会でピークを迎える多段階のプロセスだ。

*「synodality(共働性)」に意味が、いまだに多くの人にとって難解だが、歩みは進み…

 この「synodality(共働性)」という言葉は、多くの人々にとっていまだに難解だが、「教会の聖職者、一般信徒など、すべてのメンバーが、教会の活動と福音宣教の使命に関わる決定に参加する、協力、協議の教会運営のありかた」を意味するものと一般には理解されている。

 シノドス総会は、10月4日から29日まで、2部構成の総会の第1回が行われ、来年10月に第2回が開かれる。”シノドスの道”では、これまで、世界各国の教会で 教区レベルで一般信徒も参加して話し合いがあり、その結論を要約した報告書が司教協議会に送られ、大陸段階の会議のための話し合いの基礎となる文書が作成された。

 この間、実際に参加者が顔を合わせての話し合いの他に、オンラインによる、いわゆる「デジタル シノドス」も行われ、 デジタル会議の最終報告書は、大陸会議からの報告書とともにバチカンのシノドス事務局に提出された。大陸会議の最終報告書は、シノドス総会の討議要綱の草案を作成する際の主要な資料となった。 討議要綱の 序文で、この文書の目的は「教会の日常生活の中でsynodal(共働的)なプロセスを活性化させ続け、聖霊が、私たちを神の民の一人として強固に歩むことが出来るように導く道を明らかにすること」と規定している。

*総会での最重要課題の一つは「いかにして『共に歩む』ことができるか」

 

 要綱がシノドス総会で取り上げるよう求めている最重要課題の一つは、「現代の世界や教会が抱える問題や意見の相違の中で、教会がどのようにして『共に歩む』ことができるか」である。

 「私たちには、共通の問題があることが分かっている。たとえ、使徒的伝統の共通の継承に基づいて、synodalityが世界のさまざまな地域でさまざまな方法で経験され、理解されているとしてもだ」と要綱は序文で述べた。

 そして、「同じように、一定の緊張も共有されている… 私たちは緊張に怯えることなく、いかなる犠牲を払ってでも緊張を解決しようとするのではなく、むしろ継続的な話し合いを通じた識別に努めるべきだ… そうしたやりかたによってのみ、緊張がエネルギー源となり、破壊的な二極化に陥らないようにすることができる」と言明。

 教会は、「教会におけるすべての差異、キリストを礼拝するという未完成の一つの使命において維持され、一致している中での差異」に関係なく、教会が「完全な交わり」を達成することの必要性を強調している。

*教皇の示すビジョン共感しない人々が、教会の重要課題に十分対応していない、と判断する可能性も

 だが、このような「交わり」を達成するのは容易なことではない。特に教皇フランシスコが示す司牧的ビジョンや課題にあまり共感しない人々に、この要綱が、世界のカトリックの抱える重大な不測の事態に関わる重要な課題に十分に対応していないと受け止められるなら、なおさらだ。たとえば、要綱は、現地の伝統や慣習への適応を意味する「典礼の文化的受肉(わかりやすく言えば、現地の文化への適応=「カトリック・あい」)」について言及しているが、一部の司祭、一般信徒の間で(”雷”除けの)”避雷針”とされているラテン語による伝統的なミサ典礼をめぐる議論については言及を避けている。

 「ラテン語」に言及しているのは、一般に東方カトリック教会と、西洋の教会を意味するラテン語との関係についてのみだ。要綱は、カトリック教徒が一致団結すべき場としてミサ典礼を強調しているが、教皇フランシスコによるラテン語ミサの”弾圧”が引き起こしている分裂など、典礼上の緊張が続いている中、ラテン語による伝統ミサの制限に関する議論にまったく言及していないことは注目に値する。

*「女性の参加」に前向きに言及しているが、「離婚・再婚したカップル」や「ミサ典礼の現地化」は

 要綱で、言及が目立つのは「女性」だ。要綱では45回も取り上げられ、意思決定や統治の役割などにおける女性の参加拡大の促進を求め、教会における女性の貢献を適切に認識、評価していないことに言及している。

 討議のテーマを示すワークシートには、「女性が識別の機関や意思決定の機関に効果的に参加するための手段と機会を提供するために、どのような新しい省庁を設立することができるでしょうか?」などの質問が含まれている。そして、ほとんどの大陸レベルの報告書が「女性の助祭叙階についての問題を検討すること」を求めていることを指摘し、「これは可能か、そしてどのような方法で検討するか」と話し合うことを提案ている。

 しかし、要綱は、教会における女性の役割を重視しているにもかかわらず、聖母マリアへの言及を除けば「母」という言葉は一度も出てこない。 同様に「家族」という言葉もほんの数回しか登場せず、この言葉が使われる時は常に「神の家族」または「人類家族」全体を指している。

 また、具体的な内容は明らかにしていないものの、離婚して再婚したカップルをめぐる現在進行中の議論や、いわゆる”典礼戦争”について、”ベールに包まれた形“で言及している。要綱は序文で、協議の過程で「すでに教導的な、神学の教えを考慮すべき」疑問が生じた、と述べた。そして、教皇が2016年のシノドスの後に出された使徒的勧告「(家庭の)愛の喜び」で、再婚した離婚者による聖体拝領に”慎重な扉を開いた”ことを指摘。「ミサ典礼の文化的受肉」についても1994年にバチカンの典礼秘跡省が出した指針 「Varietates Legitimae」を挙げている。

 そのうえで、「このような問題について疑問が生じ続けているのことを、性急に無視すべきではなく、識別が必要があり、シノドス総会はそのための特権が与えられた場だ」とし、「障害は、現実のもの、そうでないものを問わず、これまでに出された文書が示した手順を踏むことを妨げていると認識される。したがって、問題点をどのように取り除けるかを検討し、(シノドス総会の)結果に反映する必要がある」と言明。

 さらに、勧告や指針など公式文書が示した内容が受け入れられない原因が、「情報の不足」にあるなら、「コミュニケーションの改善が必要になるだろう」し、「文書の意味を理解することの難しさ」、あるいは「示された内容を人々が認識できないこと」にあるなら、「効果的に受けられられる”シノドスの道”の歩みが、適切な対応となる可能性が高い」と、要綱は述べている。

*聖職者の性的虐待がもたらした危機に、十分対応していないことも問題にしているが

 

 要綱は、聖職者などによる性的虐待がもたらしている危機についても触れている。 「教会のメンバーによって傷つけられた人々に対するケアの形の一つとして、正義を行うことを学ぶ」ことを確認し、教会における様々な形の虐待は、「開いたままの傷であり、いまだに十分な対処がされていない」と厳しく指摘。「教会が引き起こした苦しみゆえに、被害者たちになすべき悔い改めのために、教会は、同様の事態を二度と起こさないために、変革への取り組みを一層、強化していく必要がある」と強調している。

 以上のような課題に対応するシノドス総会を二度にわたって開くことについて、要綱は、「多くの課題に対する決定的な指針をまとめることは、一度の会合だけでは不可能なため」とし、今年10月の総会での協議の目的は、「関係する当事者」を特定する目的を持って、徹底した学びの道の輪郭を描き、来年の二度目の総会で、識別に役立つ充実したプロセスを完成させるのを確実にすること」と説明している。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

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2023年6月21日