【シノドス総会ファイル】① 陳枢機卿の書簡が”沈黙”を破り、バチカン裁判が議論に影響を与える(Crux)

(2023.10.6 Crux Editor   John L. Allen Jr.

ローマ – 5日のシノドス総会の会議に関連する大きなニュースは、外部からもたらされたものだった。イベントが行われているバチカンのパウロ 6 世謁見の間からではなく、むしろその場にいない人物—香港の元司教、陳日君・枢機卿—から発せられたのだ。陳枢機卿が公表して9月21日付けの批判的な書簡は、さまざまなカトリック・メディアで話題になっている。

*バチカン広報省長官の第一回定例会見-「何が語れないか」を弁明

 5日の総会内部から発せられた公式の唯一の情報は、バチカン広報省長官を務めるイタリア人信徒パオロ・ルッフィーニ氏の記者会見からだった。彼は総会開催中に予定される定例会見の第一回目を行ったが、記者たちに「何が起こったのかを語れない」というよりも、「なぜ語れないのか」の弁明が印象に残った。

 総会のRegolamento、つまり”ルール・ブック”には、総会参加者が自分自身の貢献や他者の貢献を話し合うことを禁止するなど、ほとんど絶対的な機密保持という要件が盛り込まれていたが、その説明に、ルッフィーニ氏は”最善”を尽くした。

 彼は、そのような措置は「suspension of time(時間の一時的な停止)」をもたらし、「それによって『耳を一時的に聞こえなくする沈黙』を生むことを目的としている、定型的な論点や対位法に慣れ親しんだ通常のやり方とは全く異なるものだ… 教会のような大きな組織が信仰、ミサ典礼、祈りにおいて沈黙の時を持つことが、”ニュース”なのです」と”勇気”を奮って弁明した。

 公平を期すために言うと、ルッフィーニ氏には困難な仕事が課せられている。あるイタリアメディアの(アクション映画「007」のタイトルをもじった)見出しにあるように、「情報が遮断された行事の広報担当を務めるのは基本的に”mission impossible(不可能な任務)”なのだ。

*長官が強調する”沈黙”は、陳枢機卿の総会に疑問を呈する書簡で既に破られている

 

 ルッフィーニ氏が記者会見で「沈黙」という言葉を二度使っていることに注目しよう。昨日、我々が得たのは、全くの”静寂”ではなく、陳枢機卿の書簡をめぐる多くの”喧噪”だ。その主な理由は、シノドス総会に関して他に興味深い発言を耳にすることができなかったことにある。

 

 

*ベッチュウ枢機卿ら10人の金融犯罪をめぐる裁判の影響も避けられない

 今回のシノドス総会には詳細な議題が予定されているが、会議場とは別の所で起きていることが議論に影響を与えるのは避けられない。

 その一つが、(注:元の教皇フランシスコの側近でバチカンの国務省副長官だった)アンジェロ・ベッチュウ枢機卿を含む10人の被告の様々な形態の金融犯罪に関して、最終段階に入っているバチカンでの裁判だ。 この裁判は、教皇フランシスコの下で進められてきたバチカン改革に対する厳しい試練であり、実際に起きているのは「正義」の遂行ではなく、失敗から目をそらすことが目的の、その場限りの法的駆け引きに基づく“いけにえの羊”だ、との非難の中で行われている。

  今総会が始まる前日、フィリッポ・ディ・ジャコモ神父(70)の発言が注目を集めた。神父 は、イタリアのメディア、特に国営放送RAIでバチカン情勢について頻繁にコメンテーターを務めている。ベネディクト十六世教皇のもとで国務長官を務めたタルチシオ・ベルトーネ枢機卿の大学教員当時の学生であり、教理省で当時長官だった後の教皇であるラッツィンガー枢機卿の下で15年間働いた。

 10月3日に、ベッチュウ枢機卿の裁判についてコメントを求められた神父は、クリスマス前に判決が出ると予想される、と述べ、「個人に対するバチカンの法的慣習で、イタリアの法律がバチカンのシステムに受け入れられたことがないことを考慮すると、おそらくその時になって初めて、どの訴訟法典が適用されたのかが分かるでしょう」と語った。

 そして「この裁判は、『世紀の裁判』と呼ぶ人が頑固に主張するようなものではなく、19世紀の凡庸な俳優によるメロドラマです」 と批判。訴追の法的根拠には重大な疑問が残されており、 まず第一に、「この裁判では、教皇が4つの勅令を用いて介入し、とりわけ検察官の裁量権を強化し、捜査の範囲を拡大したことが明らかになった」。そして第二に、「この裁判の異常なことは、実際には、ロンドンの不動産取引に関する事件、サルデーニャのカトリック慈善団体事件、そして自称”諜報専門家”セシリア・マローニャ事件の少なくとも3つの異なる事件を合わせる裁判であるということです。 誰が何の罪で起訴されるのか混乱している」と指摘した。

 さらに、神父は、ベッチュウ枢機卿に対する一連の容疑について言及し、「現在のバチカンの法規の下では犯罪とされているこれらの罪状の一部が、実際に起きたとされる時点で実際に行われていたかどうかも明らかではない」と批判。かつて検察側の”スター証人”だったイタリアのモンシニョール・アルベルト・ペルラスカが、彼の証言の一部がベチュウ氏を攻撃するための明らかな軸を持つ二人の人物によって台本にされていたことが明らかになった後、”視界から消えてしまった”ことなど、他のおかしな点も指摘した。

 主任検察官であるイタリアの弁護士アレッサンドロ・ディッディに関して、神父は、今年のニュースなどで注目される有力候補者となる彼のカトリック教会に対する理解を軽蔑し、「彼は、聖別されたホスチアと目玉焼きの違いを区別できないことで、それが十分に証明されています」と皮肉った。

その観点からどう考えても、シノドス総会の会議の中で、裁判とその苦しい試練が話題として浮上するのは避けられない。つまり、教皇とそのチームがどれほど「教会の明日」に焦点を当てようとしても、そうはならない、ということだ。 彼らは、「昨日の影」から完全に逃れることはできないのだ。

*10月4日から29日までのシノダリティに関する司教会議の間、Crux編集者のジョン・アレンが「シノドス・ファイル」のタイトルで定期的に分析を提供する。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

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2023年10月7日