【シノドス総会ファイル】②開かれた窓、閉じられた扉、そして司祭不足という困難な問題(Crux)

(2023.10.8  Crux  Editor John L. Allen Jr.)

 ローマ 発– 今月、世界のさまざまな地域で 2 つの統治のドラマが同時に展開されており、それぞれが、もう一方の落とし穴と課題をかなり完璧に捉えているようだ。ローマでのシノダリティ(共働性)に関するシノドス総会と、米国での先行き混とんとした議会下院議長ポストをめぐる抗争だ。

 シノドス総会はこれまで少なくともある程度の公開性を持って開かれてきた催されたイベントだったが、今回は総会出席者の議論への自身の貢献さえ明らかにすることが禁じられるなど、新たな厳格な機密保持の条件下で開かれている。 一方、米議会下院では、通常は非公開で行われる議長選出プロセスが公の場で進行しており、明らかに悲惨な結果をもたらしている。 どちらの場合も、一方の状況が、もう一方の主な困難を示しているようだ。

 関係者の立場が公の場で展開され、妥協の努力が軌道に乗る前に硬化する、という事実によって増殖する議長レースの有害な側面を抑え、合意を形成しようとするなら、 多くの場合、スポットライトをしばらく避けるのが良い考えだ。 現在、一部の有力な共和党議員は下院議員に対し、”フォックスニュース・フォーラム”の計画を撤回するなど、トークショーやソーシャルメディアに、論争に参加しないよう求めている。これは、再び明らかな内破が起こる前に、解決策が出てくる余地を作るためだ。 ある共和党議員は昨日、CNNに対し、「良いことは何もないが、『失敗を公にすることが、議会にとっても国にとっても最善だ』とは多くの人は考えていない」と語っている。

 一方、シノドス総会での参加者の発言内容などのの機密保持(教皇フランシスコは、やや婉曲的に「断食」と呼んでいる)をめぐる論争は、あらかじめ作られた結果をもとに”デッキ”を積み上げているのではないか、との疑いをさらに強めてしまっており、そうすることで、ある種の試みがなされていることを想起させている。

 暗闇に紛れて重要な政策決定を行うことには、それ自体に危険が伴う。 例えば、対中国をめぐる姿勢などで教皇を頻繁に批判している元香港司教で陳日君・枢機卿は最近、司教たちに書簡を回覧し、シノドス総会の主催者を「”操作技術”に非常に優れている」人々と揶揄し、「総会での誠実な議論を抑圧しようとしている」と批判した。当然のことながら、広報担当者や総会参加者が内部で何が起こっているかについて話すことが禁じられている場合、このような批判にに反論するのはかなり困難になる。

 以上をまとめて言えば、米議会下院の混乱は「透明性が高すぎる」ことのマイナス面を示し、シノドス総会の運営に関する騒動は、これとは正反対の「秘密の過多」がもたらす問題を浮き彫りにしている、ということだ。

 米議会下院では、ケビン・マッカーシー前議長のほかに、”犠牲者”として挙げられるのは、2017年に設立された超党派のグループ「プロブレム・ソルバーズ・コーカス」かもしれない。 共和党は政府機関閉鎖を回避するための超党派の合意を支持したマッカーシー氏を民主党が救わなかったことに激怒し、一斉に行動を起こすと脅している。

  教皇フランシスコは、シノドス総会がこのような結末を迎えるのは避けたい、と考えており、4週間続く総会の早い段階で世論の圧力にさらすことが、米下院議会のようなリスクをもたらす、と確信している。その結果、ここにはとてつもない皮肉が働いている。教皇は、”シノドスの道”の究極の目的は「第二バチカン公会議の精神を復活させることだ」と繰り返し述べており、それは教皇ヨハネ23世の「今こそ、 カトリック教会の『窓を開け』、新鮮な外の空気を取り入れよう」という言葉につながる。

 だが、教皇フランシスコは、窓を開けるために、少なくとも今のところはシノドス総会の扉を閉めることに決めた。 それが正しいアプローチであるかどうかについては、明らかに議論の余地がある。だが、避けようとしている問題が完全に彼の頭の中にあるわけではないことを理解するには、現時点での米議会下院の動きを注視するだけで十分だろう。

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 シノドス総会の情報公開に対する人々の声に、少なくとも若干の譲歩をするしるしとして、主催者は昨日、記者会見で、2人の参加者の発言を公開した。その2人は、コンゴ民主共和国のフリドリン・アンボゴ・ベスング枢機卿と、聖マリア修道女会の会員で米カリフォルニア・サンバーナディーノ教区の尚書担当のシスター・レティシア・サラザール。彼らは、機密保持に関する会議のルールを擁護しつつ、作業部会などで議論されている内容について一般的な洞察を提供した。

 アンボンゴ枢機卿は、世界の一部の地域で神学生の数が減少する事態が生じていることを認める一方で、この問題は「世界中で起きている問題ではない」と指摘。 自国の首都で彼の担当教区であるキンシャサだけでも「約130人の神学生がさまざまな育成段階にあり、『どこの神学校も空いている』と言うのは正確ではない」と述べた。

 総会でこの話題が大きく取り上げられる場合に備えて、枢機卿の主張に簡単な背景を追加しておくといいだろう。

 確かに、最近アフリカでは、西欧や北米よりもはるかに速いペースで、司祭職や修道生活への新たな召命が生まれています。だが、このことは、『アフリカで司祭が余っている』ということを決して意味しない。実際、アフリカはカトリック人口全体に対する司祭の割合という点で、ひどく不十分なサービスを受けている。

  現在、カトリック教徒に占める司祭の割合は、米国では1300人に1人、欧州では1700人に1人だ。これに対して、アフリカでは、5000人以上の信者に対して1人の司祭しかいない。 特に、サハラ以南のアフリカでは、20 世紀後半から 21 世紀初頭にかけて、カトリック教徒が急速に成長しているため、司祭不足は改善されるどころか、一段と悪化している。理由は単純で、この地域の成長サイクルの中でカトリック教会が人々を叙階するよりもはるかに短期間で洗礼を施しているからだ。

 そうした現実にもかかわらず、先進国の多くの地域では、アフリカだけでなくフィリピンなど他の地域出身の外国人司祭への依存がますます高まっている。フィリピン人司祭などは宣教師として世界各地に散らばり、奉仕活動を行っている。

 このような傾向に対して、一部の批評家は、カトリック版の「頭脳流出」であり、「最も切実に司祭を必要としている地域から人材を吸い上げ、裕福な教区が他の教区への影響を考慮せずに自分たちの穴を塞ごうとする利己的な取り組み」と見ている。 米国のベイラー大学で世界の宗教を研究するフィリップ・ジェンキンス氏は「世界的な観点から見ると、このような政策は、痛ましいほど近視眼的であり、悪く言えば、カトリック教徒を自殺に追い込むように運命づけるものだ」と述べている。

 もっとも、これは決して新しい見方ではない。 2001年、改革前の福音宣教省は「宣教地域からの教区司祭の海外派遣および滞在に関する指示」と題する文書を発表し、 当の長官、ジョセフ・トムコ枢機卿は「世界の南から北への司祭の異動が、ますます懸念されるようになっている」と指摘。「 (2001年現在で)イタリアだけでも 1800 人の外国人司祭がおり、そのうち 800 人以上が直接、司牧的ケアに従事している… これほど多くの教区司祭がいれば、(注:まだカトリックの教えが十分伝えられていない)宣教地域に、多くの新しい教区が設立されるはずだ」と強調していた。

 カトリック教会が多国籍企業であれば、システムアナリストが「教会の市場とその資源配分の間に深刻な不一致があること」に気づくのに、それほど時間はかからないだろう。

 現在、世界のカトリック教徒の3分の2はアフリカ、アジア、ラテンアメリカに住んでいるが、それらの地域の司祭の数は世界の総司祭数の3分の1をわずかに超える程度だ。 「カトリック教会にとって本当に必要なのは、”事業”が成長している地域に、司祭を”再配分”する計画を進めることだ」という強力な主張が、これからのシノドス総会の議論の中でなされる可能性がある。

 たとえ総会参加者たちがその問題について話しているかどうか明らかにされないとしても、会議の議論が進むにつれて、それは興味深い考えの材料になるかも知れない。

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*10月4日から29日までのシノダリティに関する司教会議の間、Crux編集者のジョン・アレンが「シノドス・ファイル」のタイトルで定期的に分析を提供する。

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(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

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2023年10月9日