♰「普遍教会は、人生の試練に遭う皆さんを支える」-中国の守護・聖母マリアの日に+解説

教皇フランシスコ、2020年5月24日(日)正午の祈り教皇フランシスコ、2020年5月24日(日)正午の祈り  (ANSA)

(2020.5.25 カトリック・あい)

 教皇フランシスコは24日、バチカン宮殿からビデオを通して行われた日曜正午の祈りの後で、中国のカトリック信者たちを「扶助者聖母マリア」に託して祈られた。

 カトリック教会暦では、5月24日を「主の昇天」の祝日であるとともに、教皇フランシスコの環境回勅「ラウダート・シ」発出5周年の記念の日、さらに「扶助者聖母マリア」を記念する日でもある。

 バチカン広報局発表によると、教皇は、正午の祈りの後の言葉の冒頭で、「『キリスト教徒の助け、中国の守護者、上海の佘山(シェシャン)聖堂で崇敬されている聖母マリア』の祭りを祝う中国の信徒たちと、心を合わせましょう」と呼び掛けられた。

 そして、中国のカトリック教会の司牧者と信徒を、我々の天の母の導きと守りに委ね、彼らが「信仰に強められ、兄弟として固く一致し、喜びにあふれた証人、慈しみと友愛に溢れた希望の推進者、そして良き市民」であるように祈られた。

 さらに、中国の信者たち向けて、次のような励ましと祝福をおくられた。

 「中国の親愛なる兄弟姉妹の皆さん。あなた方が一員である普遍の教会は、皆さんの希望を共有し、人生の試練に遭う皆さんを支援します。教会は、聖霊があらたに湧き出すようにとの祈りをもって、あなた方と共に歩みます。福音の光と美しさが、神を信じるすべての人の救いのために神の力が、あなた方に輝くことができますように。改めて、皆さんすべてに対して、私の心からの愛を表明し、特別な教皇祝福を皆さんにお授けします。聖母が皆さんを、いつもお守りくださいますように!」

 最後に、こう祈られた。「主のすべての弟子と、この困難な時期に、平和のために、国家間の対話のために、貧しい人々への奉仕のために、被造物の保護のために、そして、身体と心、魂のあらゆる病に人類が打ち勝つために、情熱と献身をもって、世界のあらゆる所で働いている、すべての方々を、聖母マリアの取り次ぎに委ねます」 (翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

【「カトリック・あい」解説】

 中国(香港を除く)には現在、推定で1000万人のカトリック教徒がいるといわれているが、その6割を、中国共産党統一戦線工作部の管理・統制下にある「中国天主愛国協会」に加わった教会の信徒が占める一方、4割は、その管理・統制を拒み、教皇に忠誠を誓う、いわゆる”地下教会”に属しているとされる。

 国内の宗教を統制下に置き、習近平・主席が推進する「中国化」を進めようとする中国政府・共産党の”地下教会”への締め付けは、カトリック教会に限らず、プロテスタント教会などにおいても、一昨年9月のバチカンとの司教任命を巡る暫定合意のあと、むしろ加速している。

 新型コロナウイルスの感染拡大中も、統制を拒む教会の閉鎖、司祭や信徒への”転向”圧力などが強まる一方、と伝えられており、中国の現状をよく知り、”地下教会”を守ろうと努める香港の陳日君枢機卿などは、教皇に対し、こうした信教の自由、基本的人権を侵す行為を放置したまま、中国政府・共産党に妥協することのないよう、繰り返し訴えている。

 今回の教皇の中国の信徒に対するメッセージは、こうした問題に触れておらず、”地下教会”の信徒も含む中国の全信徒への共感と励ましの言葉を送っているもの、とも受け止めることもできるだろう。

 だが、中国政府・共産党はこのところ、中国本土における諸宗教の取り締まり強化だけでなく、香港における民主化運動リーダーの相次ぐ検挙、民主化デモなどに対する国家安全制度の適用準備の動きなど、信教の自由や基本的人権への規制を強めている。

 そうした中での今回の教皇の中国の信徒へのメッセージは、中国政府・共産党に”青信号”を出したような我田引水的な政治的解釈をもたらす恐れなしとしない。ましてバチカン内部には、中国を”宣教の最後のフロンティア”と捉え、宣教本格化のために、先のような問題に目をつぶっても中国政府⊡共産党との融和を急ごうとする勢力もある。

 今後の教皇の中国国内の信教の自由、基本的人権に絡む動きや、国際情勢を見据えた、慎重かつ賢明な対応を期待するとともに、バチカンの対中政策の動きを、そうした懸念を持ちつつ、注視していきたい。

 

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2020年5月25日